↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界資格マスター ~最弱村人から始める資格無双。試験分析EXで世界をアップデートします~  作者: 東雲 諒杏
第三章「領主庁の剣士試験」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
21/152

第21話 ブレナの試験場と、試験官ヘルガ


 領主町ブレナは、石でできていた。


 ハルムを出て二日、荷馬車が丘を越えると、川沿いに灰色の壁が見えた。城壁というほど立派ではない。だが藁葺きしか知らない目には、石を積んで作った町というだけで、別の国のように映った。門を潜ると、道は踏み固められた土から石畳に変わり、車輪の音が急に硬くなった。


「ほれ、あれが領主庁だ」


 ヨナスが鞭の先で示した先に、町でいちばん大きな建物があった。四角い石造りで、正面に領主の紋章。ただし――近づくにつれて分かった。屋根の一角が崩れ、板で塞いである。窓の鎧戸は半分が外れかけ、壁の漆喰は剥げて、下の石が露出していた。


「昔はもっと立派だったんだがなあ。ここ十年で、すっかりだ」


 試験期のブレナは、ヨナスの言ったとおり、ごった返していた。宿はどこも満杯で、私は結局、荷馬車宿の屋根裏に、藁を敷いて寝ることになった。ハルムの納屋と、大差ない。むしろ慣れた環境である。


 翌朝、私は領主庁の裏手にある「試験場」へ向かった。


 石造りの、天井の高い広間だった。かつては領主の兵の訓練場だったという。窓は高い位置にあり、朝の光が斜めに差して、床の石畳を白く照らしていた。その広間の入口に、受付の机が一つ。そこから、列が伸びていた。


 長い列だった。百人はいる。


 列には、あらゆる種類の人間がいた。日焼けした農家の若者、行商の小僧、傭兵崩れらしい傷だらけの男、そして――絹の上着に、従者を二人連れた、明らかに身分の違う少年が数人。彼らは列に並ばず、従者に並ばせていた。


 列が進む。受付の机の向こうには、四十がらみの女が一人、座っていた。髪をきつく後ろで束ね、袖を肘までまくり、羽根ペンを握っている。机の上の木札に『試験官 ヘルガ』。彼女は一人一人の受験票を検め、名を呼び、受験料を受け取り、金額を声に出して確認して、帳簿に書く。その動作に、一切の無駄がなかった。


「次」

「レオン。ハルム村から。剣士D級と――」


 言いかけて、私は懐から革袋を出し、机の上で、銀貨を数え始めた。三十枚。三千G。村中の手垢のついた銀貨を、一枚、一枚、机に並べる。指が、少し震えた。金の重さではない。四千G分の期待の重さが、指先に来ていた。


 ヘルガは、私の指を見ていた。銀貨ではなく、指を。


「……村の金だな」

「はい」

「では、余計なことは言わん。剣士D級、受験料三千G、受領。筆記は明日の朝、実技は明後日。合格は実技当日の夕刻、この広間で読み上げる」


 彼女は帳簿に書き、木札の受験票を私に押しやった。それから、ふと手を止め、私の受験申込書のもう一枚――『下水清掃士(E級)』の願書を見た。


「同じ試験期に、二つか」

「はい。駄目でしょうか」

「駄目ではない。……ただ、下水清掃士は、今年の申込者はお前で二人目だ。剣士は百四人。この差を、どう思う」


 答えを求めている問いではなさそうだった。ヘルガはそれ以上何も言わず、五枚の銀貨を受け取り、「五百G、受領」と、同じ調子で帳簿に書いた。


 列を離れて広間を出るとき、絹の上着の少年たちが、従者に受験票を持たせて笑いながら通り過ぎていった。彼らの財布から出た銀貨は、誰の手垢もついていないだろう。


 私は、木札の受験票を握った。二枚。合わせて三千五百G。


(落ちても、落ちなくても、帰ったら村に、この二枚の顛末を説明する義務がある)


 それは、前世の受験には一度もなかった、種類の重さだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。