↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界資格マスター ~最弱村人から始める資格無双。試験分析EXで世界をアップデートします~  作者: 東雲 諒杏
第五章「貴族の宴と神殿の影」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
165/166

第165話 娘を闇予備校に


「四万二千G……十年分か」


靴屋のおじいさんは、目を閉じて、私が読み上げる異議申し立ての書類を聞いていた。


目を開けて、指を折る。


「孫の予備校の月謝が、月に三千Gだ。……十四か月分だな」


四万二千Gを、おじいさんは孫の月謝で数えていた。


お金の大きさを測る物差しは、人によって違う。マーサさんの物差しは麦粥の杯数。ドルフ親方の物差しは、肉が何人分になるか。前世の私の物差しは――受験料だった。


「この紙を出したら、どうなる?」


「資格院が審査します。結果は、一か月後です」


「一か月……。その間、板は?」


「打たれたままです」


「……孫は?」


答えられなかった。


書類は完璧だ。字も数字も、一つも間違っていない。


でも、今夜の寝る場所を一つ増やすことは、この紙にはできない。


◇◇◇


闇予備校は、路地の先の倉庫の二階にあった。


ブレナの町で見たのと、そっくり同じ作りの倉庫だった。


階段を上る。踏み板が、一枚抜けていた。


(直せよ……月謝三千Gの生徒が二十人もいるなら、直す金くらいあるだろ……)


抜けた段を飛び越えて、二階へ。


壁一面に、木炭で過去問が書いてあった。二十人くらいが、それを黙々と写している。


その中に、十四歳くらいの女の子がいた。


「……おじいちゃんの店の、人?」


目が大きかった。ミラに、少しだけ似ていた。ミラより、疲れていた。


「名前は?」


「エマ、です」


「何の資格を目指してる?」


「商人C級。……先生が、『一年で取れる』って」


「教材は?」


「……あれ、です」


エマは、壁を指さした。


壁の過去問は――資格院が公開している、商人C級の過去問五年分だった。


一問十Gで、誰でも写しが買える。図鑑にも載ってる。


「これを一年、写すだけ? 実技の練習は?」


「……してません」


エマは、炭で真っ黒になった自分の指を見た。


「壁の問題を、写すだけ、です」


月謝三千G。模擬試験の追加料金、月五百G。


一年で――四万二千G。


(……え)


靴屋のおじいさんが、十年で払いすぎた監査料と――まったく、同じ額だった。


◇◇◇


偶然とは、思えなかった。


財務部は、靴屋から四万二千G取りすぎた。払えないと言ったら、孫を予備校に入れろと言った。そして予備校の一年分が、四万二千G。


(同じお金が、二回、回ってる……?)


もちろん、まだ証拠はない。監査料が予備校に流れたかどうかは、調べてみないと分からない。


でも。


上納金は、規程にない。予備校の月謝も、規程にない。


――規程にないお金が、規程にないお金を呼んでいる。


「エマ」


私は、壁の前から声をかけた。


「私、少し前に、商人C級に受かった」


エマが、顔を上げた。


「実技で、三十秒黙った。黙ったまま、受かった」


「……黙って、受かったんですか?」


「相手に喋らせたんだ。――教えられる。ただで」


壁を指さす。


「この壁の問題は、資格院で一問十Gで写しが買える。五年分で、二千五百G。月謝三千Gの、一か月分より安い」


エマは、壁と、自分の写した紙を、交互に見た。


「……先生に、辞めていいか、聞いてみます」


「聞かなくていい。月謝は財務部が立て替えてるんだろう?」


私は、首を振った。


「――聞くなら、財務部に聞く。私が」


◇◇◇


異議申し立ての書類の隅に、一行足した。


『なお、被監査者の孫の予備校月謝の立て替えについて、その根拠となる規程を示すことを求める』


――ないものを示せ、とは書いていない。


「あるなら、示せ」と書いた。


示せなかったら、困るのは、向こうだ。


◇◇◇


倉庫を出ようとしたら、階段の下に、若い男が立っていた。紙の束を抱えている。


「……おたく、何の用で?」


「見学です」


「見学は千Gだ」


「払いません。帰ります」


男は、紙束を抱え直した。


「おたく、資格は?」


「十六です」


「……は?」


私は、腰の木札を見せた。


男は木札を見て、私の顔を見た。十五歳の顔だ。


「十六個……? 村で最初の一個を取ってから?」


「はい。村人E級から、順番に」


「ど、どこの予備校だ?」


「行ってません」


男は、口をぽかんと開けたまま、固まった。


合格保証を売ってる人間が、合格した人間の前で、言葉を失っていた。


そして、三秒後。


「……うちの講座の『合格者の声』に、名前を貸してくれないか」


「貸しません」


(切り替え、早っ!)


商売の立ち直りだけは、ヘルガさんより速かった。


◇◇◇


階段の上を振り返ると、倉庫の窓に、エマの顔があった。


炭で黒くなった指で、窓の桟を握っている。


私は、抜けた段を飛び越えなかった。


段の脇の板に、そっと足をかけて下りた。


脇の板は、ちゃんと、人の重さに耐えた。


――抜けた段は、飛び越えなくても、下りられる。


エマが、それをじっと見ていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。