↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界資格マスター ~最弱村人から始める資格無双。試験分析EXで世界をアップデートします~  作者: 東雲 諒杏
第五章「貴族の宴と神殿の影」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
166/166

第166話 合格保証の広告


「異議申し立て……私が受付に座って八年で、初めてです」


資格院の受付で、書記が、私の出した書類を三回読み直した。


三回目を読み終えて、印を手に取る。


「様式は正しい。簿記士B級の署名もある。……受理します」


ぽん、と印が落ちた。


「ただ、受理しただけです。返金が決まったわけじゃありません。これから審査です。……それと、この書類は財務部に回ります。財務理事の目にも入ります」


書記は、胃薬を一つ飲んだ。


(……この人の胃薬、たぶん、私が来るようになってから量が増えてる)


聞かないでおいた。


「……レオン殿。この書類が通る見込み、お聞きになりますか?」


「聞きます」


「ありません」


即答だった。


「審査するのは、財務部です。自分の部署の取りすぎを、自分で認める部署なんて、ありませんから」


「じゃあ、なんで受理を?」


「様式が正しいからです」


書記は、帳簿を閉じた。


「正しい書類は受理されます。受理された書類は、記録に残ります。……通らなくても、残るんです」


そして、少しだけ笑った。


「八年で初めての一行が、備考欄に残ります。――二人目の誰かが、その一行を読むかもしれません」


◇◇◇


帰り道。下町の掲示板に、新しい張り紙があった。


糊が、まだ乾いていない。


『剣士D級 完全合格講座!

合格保証。三日間で、三千G。前回、合格者多数!


〈合格者の声〉

前回の試験で、剣士D級に合格しました。

実技は、一日寝ていても大丈夫でした!

――ライナー・フォン・ハルデン』


(……ライナー!?)


ブレナの町の宿で、隣の部屋にいた貴族の坊ちゃんだ。


「俺の代わりに、兄貴が出るからな」と高笑いしていた。本当に一日寝ていて、剣士様になった男。


その男が、「合格者の声」に名前を貸していた。


『実技は、一日寝ていても大丈夫でした』


――嘘では、ない。


本当に、寝ていたんだから。


(この張り紙の中で、唯一の正直な一文だ……!)


◇◇◇


張り紙の文句は、ブレナの客引きとそっくりだった。同じ組織だ。


板に書いた。


『闇予備校。ブレナと王都で同じ張り紙。

ライナー。替え玉の合格者が「合格者の声」に』


書いてから、一つのことに気づいた。


ライナーは、剣士D級を持っている。神殿で刻印も受けているはずだ。刻印は、本人が自分の手で聖水に浸さないとできない。


でも、試験場で剣を振ったのは、別人だ。


(……じゃあ、神殿は、何を刻んだんだ?)


神殿は、誰が試験を受けたかを見ない。見るのは、資格院の試験官だ。


ヘルガさんと、ガルムさん。あの二人は、見ていた。見ていて、何も言えなかった。証拠がなかったから。


私の資格は、十六。全部、私が受けた。震えながら受けた。


ライナーのステータス画面には、何が出ているんだろう。剣士D級。『剣術Lv1』。――剣を一回も振ったことがない男に?


板の「まだ分からないこと」の欄に、一行増えた。


『資格神の祝福は、替え玉の合格にも降りるのか』


私は、張り紙をべりっと剥がして、懐に入れた。


手に、糊がべったりついた。


前掛けで拭こうとして、やめた。拭いたら、剥がした跡が残らない。


――残しておきたかった。


◇◇◇


東三番通りの角で、靴屋のおじいさんに書類の写しを渡した。


「受理されました。結果は、一か月後です」


おじいさんは、読めない字の並んだ紙を、両手で握りしめた。


手が、少し震えていた。


私の手の震えとは、違う震え方だった。私の震えは、何かを始める前に出る。おじいさんの震えは、何かを受け取ったあとに出ていた。


どっちも、手に余るものを持ったときの震えだ。


路地の向こうで、炊き出しの鍋が、今日も湯気を上げていた。


◇◇◇


物置に戻って、剥がした張り紙を、もう一度読んだ。


『合格保証』。


保証っていうのは、「約束が守られなかったら、これを返します」っていう約束のことだ。


張り紙を、裏返してみた。


――何も書いてない。


何を返すのかも、いくら返すのかも、どこにもない。


『合格保証。保証の中身が書いていない。……書いていないものは、返ってこない』


板に書いて、炭を置いた。


明日は、エマに図鑑の過去問を読ませよう。食堂の長机で。ミラが字を覚えた壁の、すぐ裏で。


それから、この通りの残り十九軒の帳面だ。異議の紙は、一枚じゃ足りない。


(板、二枚買い足さなきゃ。一枚八Gだから、十六G……)


板を買うお金を数えながら厨房に戻ると、長机の上に、ミラの日記が開いたまま置いてあった。


覗くつもりは、なかった。


でも、最後の一行だけ、大きな字で書いてあったから、目に入ってしまった。


『お金って、何に使えばいいの。もらっても、わからない』


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。