第14話 羊を殺した草
朝靄の放牧地に、試験場が設けられた。
といっても、あるのは杭が一本と、ヴィム審査官と、私と、それから――見物人が三十人である。刻印日の翌朝で畑が休みだったのが運の尽き、ファンファーレの再演を期待した村人が、朝から柵の外に鈴なりになっていた。ペーターは最前列で、「がんばれー」の練習をしている。
「静粛に。……静粛にというのは、そこの子供、お前のことだ」
ヴィムが咳払いをし、革鞄から小さな砂時計を取り出した。
「雑草判定士E級、実地試験。これより儂が指し示す草を、十種、判定してもらう。名称、有害・有用の別、根拠。一種につき砂時計一反転以内。誤答一つで不合格。……始め」
一種目。ヴィムの杖の先が、柵際の若草を指す。
「ハネガヤ。有用。飼い葉になります。穂が出る前が良いと」
「二種目」
「ニガヨモギモドキ。有害寄りの有用。そのままでは羊が嫌いますが、乾燥させて煎じれば胃の薬に。……ヒルダさんの受け売りです」
「受け売りでも、正しければ点になる。三種目」
三種、四種、五種。ヒルダの一夜の講義は、面白いように的中した。ヴィムの選ぶ草は、どれも「昔から試験に出る」とヒルダが言った顔ぶれだったのだ。試験に出る草は決まっている。過去問というものは、囲炉裏端にも生きていた。
そして、八種目。
ヴィムの杖が、柵の外の、あの白い蕾の群生を指した。
見物人の空気が、す、と冷えた。羊を殺した草だと、もう村中が知っている。
「ドクゼリカズラ。有害。全草に毒、特に根。茎が中空で、葉が細かく裂け、白い散形花をつけます。牛馬は匂いで避けますが、羊は……腹が減っていれば食べます。今の季節、柵の中の草が伸びる前は、特に」
言いながら、私は懐から小刀を出し、断ってから一本を根元近くで切った。中空の茎の断面を、ヴィムと、それから柵の外の牧夫の少年に見えるように掲げる。
「見分けは、この空洞と、切り口の匂いです。……嗅ぐときは、直接鼻を近づけないでください」
ヴィムは砂時計を止め、何も言わずに九種目へ杖を移した。九種、十種。
砂時計の砂が落ちきり、朝靄の放牧地に、短い静寂が降りた。
「――十種、全問正答。加えて、判定根拠に実用上の付言あり。雑草判定士E級、合格とする」
ファンファーレが、鳴った。
金の光が螺旋を描き、見物人の三十人が「おおーっ」と、今度は腰を抜かす代わりに拍手をした。二度目ともなると、村人の順応は早い。ペーターに至っては光の粒を捕まえようと跳ねている。
♪♪♪
【資格取得】『雑草判定士(E級)』
→ 能力上昇:知力+2 運+1
→ スキル獲得:『鑑定 Lv1』『毒草判定 Lv1』
→ 資格シナジー検出:『村人』×『雑草判定士』
= 称号『畑の見張り番』を獲得
保有資格:2 / 12,000
(称号……称号まであるのか、このシステム)
畑の見張り番。地味である。地味だが、悪い気は、まったくしなかった。
試験の後、私は牧夫の少年と男衆に、ドクゼリカズラの群生の場所を三か所示し、柵の立て直しの線を地面に引いた。根拠は、たった今、王国が認めてくれた。誰も「行き倒れの言うこと」とは言わなかった。
ロバに荷を積み終えたヴィムが、去り際に、妙な間を置いてから言った。
「レオン。……儂は二十年この巡回をやっとるが、成人の翌日に二つ目の資格を取った者は、初めて見た」
「変、でしょうか」
「変だ」
即答だった。だがヴィムは、ロバの背に揺られながら、こうも言った。
「変だが――儂の巡回区には、試験を受けたくても審査官が回ってこん村が、二十ある。受けたい者がおって、審査官がおる。それで試験が成立せん理由は、本来、どこにもないんだ。……秋にまた来る。それまでに、次を決めておけ」
ロバの尻が朝靄に消えるまで、私は頭を下げていた。
次は、決まっている。もう二月も前から。




