↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界資格マスター ~最弱村人から始める資格無双。試験分析EXで世界をアップデートします~  作者: 東雲 諒杏
第二章「村人E級と、井戸の水」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
13/152

第13話 毒草と薬草婆ヒルダ


 ヒルダの小屋は、村はずれの森の際に、キノコのようにうずくまっている。


 戸を叩くと、返事の代わりに「開いてるよ」と嗄れ声がした。中は、天井から吊るされた乾燥草の束で、森を逆さにしたようになっていた。囲炉裏の火が、草の影を壁に揺らしている。薬草婆ヒルダ。歳は誰も知らない。村で唯一、産婆と看取りと薬湯の三つを引き受けてきた老女である。


「夜中に若いのが二人。……ああ、西の羊かい」


 もう耳に入っているらしかった。私は事情を話した。明朝、雑草判定士の試験を受けること。十種の判別。一つも外せないこと。


 ヒルダは囲炉裏の火を掻きながら、ふん、と鼻を鳴らした。


「判定士なんて資格、あたしの婆さまの頃には、村に一人はいたもんさ。今じゃ領主町にだって数えるほどだろ。……いいよ。今夜は寝かさないから、覚悟おし」


 そこからの一夜を、私は生涯忘れないと思う。


 ヒルダは吊るした草束を次々に降ろし、囲炉裏の明かりの下に並べた。曰く、「春の毒は若さの毒」。毒草の多くは、若芽のうちが一番毒が強く、しかも食える草の若芽と似る。曰く、「白い小花は疑え」。曰く、「牛は避けるが羊は食う。羊は馬鹿じゃない、腹が減ってるだけさ」。


 私はその一つ一つを、図鑑の『雑草判定士』教本(公開部分)と突き合わせた。空中の光の板に、ヒルダは最初「なんだいその行灯は」と眉をひそめたが、私が教本の頁を読み上げると、身を乗り出した。


「『裂葉、中空茎、白色散形花。全草に毒。特に根。牛馬は忌避するが緬羊は誤食しやすい』――婆さんが今言ったのと、同じことが書いてあります」

「……お見せ」


 ヒルダは光の板に顔を近づけ、老眼を細め、長いこと文字を追った。彼女は字が読める。村では珍しいことだ。読み終えて、彼女はゆっくりと身を引き、囲炉裏の火を見た。


「本に書いてあることと、同じだ」


 その声には、驚きと、それから、もっと複雑なものが混じっていた。


「あたしはこれを、婆さまから口移しで教わった。婆さまも、そのまた婆さまから。……途中で消えた話も、たくさんあるんだろうね。文字にしときゃ、消えなかったのに。この村にゃ、書ける者も読める者もいなかったから」


 囲炉裏の火が、ぱちりと爆ぜた。


「レオン、といったね。あんたのその行灯には、あたしの知らないことも書いてあるのかい」

「たぶん。……逆に、ヒルダさんが知っていて、ここに書いていないことも、たくさんあると思います。さっきの『羊は腹が減ってるだけ』は、教本にはありませんでした」


 ヒルダは、しわの奥の目を細めた。笑ったのだと、少し遅れて分かった。


「なら、あいこだ。続けるよ。次はこれ。噛むと舌が痺れる。判定士の試験じゃ、昔から必ず出たもんさ――」


 窓の外が白み始める頃、私の頭の中には、三十を超える草の名と、毒と薬の境目が、ヒルダの声の調子ごと収まっていた。『記憶強化Lv1』と『学習効率向上Lv3』が、一晩中、静かに働き続けてくれた。リーゼは草束を枕に、囲炉裏の脇で丸くなって眠っている。彼女も途中までは真剣に聞いていて、「山菜のほうだけ教えて」と言って三種を完璧に覚え、満足して落ちた。実に効率のいい勉強である。


 帰り際、ヒルダは私の袖に、小さな乾燥草の束を押し込んだ。


「胃の腑の薬草だ。試験ってのは、腹にくるからね」


 それから、戸口で、独り言のように付け加えた。


「石灰の話も、湯冷ましの話も、聞いてるよ。……祈祷より効いたそうじゃないか。今度、あんたの行灯の『水』のところ、あたしにも読んどくれ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。