第136話 毒腺を可視化する
目を閉じたまま、私は板を思った。
『毒判定Lv1』。衛生管理士で得たスキルだ。私はそれを解体場の山の部位に使ってきた。毒の強さを木札に書くために。毒の「有無」と「強さ」を判定するスキル。
(……位置は、判定できるか)
使ったことはなかった。毒が「どこにあるか」を判定したことは。使う必要がなかった。山の部位は丸ごと、毒か毒でないかだ。
だが、肩肉は違う。肩肉の大半は毒ではない。毒は糸二本分の腺の中だけにある。
毒の「どこにあるか」が分かれば――
目を開けた。
肩肉を見た。
見えた。
淡い線だった。赤い、細い線。肩の骨の下から筋の間を斜めに、首の付け根へ。二度、曲がって。
ドルフの左手の絵と同じ形が、肉の上に浮かんでいた。私にしか見えない線だ。『毒判定』が、毒の濃い場所を赤く示していた。
壁は見えなかった。壁は糸の皮ほどだ。だが、線の縁は見えた。赤が途切れる場所。そこが壁の外側だ。
包丁の刃を、その赤の途切れる場所に当てた。
触って当てるのではない。見て当てる。
触った位置と見た位置が重なった。二十日と一瞬が、重なった。
右手は震えていた。
三分。残り、七分。
貴族商会の料理人たちは全員終えていた。彼らは手を拭いて、私を見ていた。予備校の受験者も半分は終えていた。汚染した者も、していない者も。
私だけが、まだ刃を当てているだけだった。
試験官が私を見た。魔導ランプの脇で。
彼の目は私の震える右手を見ていた。この手は、二か月の間、切る時はずっと震え続けている。
(……震えを、止めなくていい)
板の言葉。ドルフの言葉。ミラの包丁の音。
止まらないなら、止まらないまま使う道を探す。
私は息を吐いた。吐きながら、右手の震えを見た。
震えは小さく、速く、上下に動いていた。刃が壁の外側に当たって、離れて、当たって、離れて。一ミリより大きい幅で。
(……この動きは)
私はそれを見た。刃が上下に震えている。それは震えだった。だが、別の言い方もできた。
刻んでいる。
鋸のように。刃が小刻みに上下している。一ミリより大きい幅で上下している。
だが、その幅は「刃が肉に入る深さ」ではなかった。「刃が肉の上で動く速さ」だった。
深さを一定に。動きを震えに任せる。
震えを、刻む速度に変える。




