↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界資格マスター ~最弱村人から始める資格無双。試験分析EXで世界をアップデートします~  作者: 東雲 諒杏
第四章「魔物調理師試験と、スープ一杯」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
135/156

第135話 採点は切断面の色


 試験場は、上町の資格院の調理場だった。


 石造りの広い調理場で、竈が十、作業台が十。窓が高く、入ってくる光が白い。下町の受付棟の小さな調理場とは、何もかもが違った。

 だが、匂いは同じだった。血と、魔素。作業台の上にオークの肩肉が十、並んでいた。新しい肉。壁のしっかりした毒腺。


 受験者は、十四名。


 貴族商会の料理人が五名。ルドガーの商会の紋章を胸につけていた。予備校の受験者が六名。それから地方から来たらしい日焼けした男が二名。そして、私。


 試験官は二名だった。一人は資格院の魔物調理師。五十がらみの痩せた男で、名は名乗らなかった。もう一人は補助の書記。若い。私の職業欄を「分類不能」と書いた、あの書記だった。彼は私を見て、少しだけ目礼した。


「――課題一。オーク肩肉の、神経毒腺の、除去。制限時間、十分。開始の合図で、始めよ。……採点は、切断面の、汚染の有無による」


 痩せた試験官が言った。彼は作業台の脇に魔導ランプを置いた。白い光のランプだ。


(……ランプ)


 頭の中で音がした。


【『試験分析EX』:採点構造を解析――】

 採点項目:切断面の、変色の有無(一項目のみ)。

 判定方法:魔導ランプの白色光下で、切断面を目視。赤黒い変色があれば、汚染と判定。

 速度・美観・切り方は、採点対象外。

 制限時間内に、毒腺を、肉から、分離できていれば、可。


 一項目。


 切断面の色だけ。速さは採点されない。美しさも。

 十分のうち九分を位置の確認に使っても、最後の一分で白い断面が作れれば、合格する。


 私は包丁を布から出した。柄はもう温かくなかった。ドルフの手の温度は、朝の坂道で消えていた。

 それでも、握った。


 震えた。


「――始め」


 十四本の包丁が動いた。


 貴族商会の料理人たちは速かった。彼らは毒腺の位置を知っていた。三年、商会で見てきたのだろう。刃が迷いなく入った。二分で三人が毒腺を分離した。


 予備校の受験者たちは遅かった。教本の図を頭に浮かべながら切っている。図の位置と実物の位置はずれる。ドルフの絵と教本の図が違ったように。

 一人が三分で汚染した。切断面が赤黒くなった。彼はそれを見て、包丁を置いた。置いた手を、そのまま動かさなかった。


 私はまだ切っていなかった。


 肩肉に触れていた。左手で。二十日分の感触。筋の間。糸二本分。一度目の曲がり、骨の下。二度目、首の付け根。


 位置は、分かった。


 右手の包丁を壁の外側に当てた。当てて、止まった。


 震えていた。幅は――一ミリより大きい。


 息を吐いた。ドルフの声を思い出した。「吐きながら」。幅が小さくなった。だが、まだ一ミリより大きかった。


 私は目を閉じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。