第135話 採点は切断面の色
試験場は、上町の資格院の調理場だった。
石造りの広い調理場で、竈が十、作業台が十。窓が高く、入ってくる光が白い。下町の受付棟の小さな調理場とは、何もかもが違った。
だが、匂いは同じだった。血と、魔素。作業台の上にオークの肩肉が十、並んでいた。新しい肉。壁のしっかりした毒腺。
受験者は、十四名。
貴族商会の料理人が五名。ルドガーの商会の紋章を胸につけていた。予備校の受験者が六名。それから地方から来たらしい日焼けした男が二名。そして、私。
試験官は二名だった。一人は資格院の魔物調理師。五十がらみの痩せた男で、名は名乗らなかった。もう一人は補助の書記。若い。私の職業欄を「分類不能」と書いた、あの書記だった。彼は私を見て、少しだけ目礼した。
「――課題一。オーク肩肉の、神経毒腺の、除去。制限時間、十分。開始の合図で、始めよ。……採点は、切断面の、汚染の有無による」
痩せた試験官が言った。彼は作業台の脇に魔導ランプを置いた。白い光のランプだ。
(……ランプ)
頭の中で音がした。
【『試験分析EX』:採点構造を解析――】
採点項目:切断面の、変色の有無(一項目のみ)。
判定方法:魔導ランプの白色光下で、切断面を目視。赤黒い変色があれば、汚染と判定。
速度・美観・切り方は、採点対象外。
制限時間内に、毒腺を、肉から、分離できていれば、可。
一項目。
切断面の色だけ。速さは採点されない。美しさも。
十分のうち九分を位置の確認に使っても、最後の一分で白い断面が作れれば、合格する。
私は包丁を布から出した。柄はもう温かくなかった。ドルフの手の温度は、朝の坂道で消えていた。
それでも、握った。
震えた。
「――始め」
十四本の包丁が動いた。
貴族商会の料理人たちは速かった。彼らは毒腺の位置を知っていた。三年、商会で見てきたのだろう。刃が迷いなく入った。二分で三人が毒腺を分離した。
予備校の受験者たちは遅かった。教本の図を頭に浮かべながら切っている。図の位置と実物の位置はずれる。ドルフの絵と教本の図が違ったように。
一人が三分で汚染した。切断面が赤黒くなった。彼はそれを見て、包丁を置いた。置いた手を、そのまま動かさなかった。
私はまだ切っていなかった。
肩肉に触れていた。左手で。二十日分の感触。筋の間。糸二本分。一度目の曲がり、骨の下。二度目、首の付け根。
位置は、分かった。
右手の包丁を壁の外側に当てた。当てて、止まった。
震えていた。幅は――一ミリより大きい。
息を吐いた。ドルフの声を思い出した。「吐きながら」。幅が小さくなった。だが、まだ一ミリより大きかった。
私は目を閉じた。




