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異世界資格マスター ~最弱村人から始める資格無双。試験分析EXで世界をアップデートします~  作者: 東雲 諒杏
第三章「実技への恐怖」

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133/157

第133話 試験前夜、二人分の震え


 監査官は帰った。


 第二項を、彼は上に確かめに行った。二日後、返事が来た。『暫定監督を、認める。期間、秋期最終週まで』。

 それは資格院の正式な返事だった。第二項は三十年前からあった。誰も使わなかっただけだ。


 ドルフはそれを聞いて鼻を鳴らした。


「……お前の資格が、俺の四十年を二週間、延命させたか」

「……二週間です。二週間で私が落ちれば」

「落ちるな」


 それだけだった。


 二週間。私は毎日三体切った。ドルフの声で。

 三度に二度が三度に一度になり、四度に一度になり、最後の三日は一度も汚染しなかった。震えは止まらなかった。止まらないまま、吐きながら切った。


 卵は、別だった。


 ワイバーンの卵。ドルフが裏の山の奥から――今度はユルゲンと私が新しい手袋で取ってきた――一つ見つけた。廃棄の卵だ。殻は無傷だった。私はそれを作業台に置いた。

 人の頭ほどの大きさで、灰色の殻に、血管のような筋が浮いていた。叩くと鉄のような音がした。


 気圧。


 私は風の陣を書き直した。煙突の炎の風の陣を。あれは空気を下から上へ流す。

 流す代わりに、押す。押して、緩める。押して、緩める。卵の周りの空気を脈打たせる。


 前世の熱力学。断熱圧縮。空気を押せば熱くなる。緩めれば冷える。押して緩めてを繰り返せば、空気は脈打つ。脈打つ空気は殻を揺らす。揺らされた殻は中の卵液を揺らす。揺らされた液は――


「……温まるのか」


 エルフィーナが作業台の向こうで言った。彼女は卵の実験に毎晩来ていた。匂いには、もう顔をしかめなくなっていた。


「摩擦です。液が揺れれば、液同士が擦れる。擦れれば熱が出る。……火の熱は殻に遮られる。でも、殻の内側で液が自分で熱を作るなら」

「……気に入らん理屈だが、やれ」


 私はやった。陣を手のひらに縮めて、卵の周りの空気を脈打たせた。


 卵は揺れた。目に見えないほど、小さく。作業台の板に、細かい音が伝わった。


 十分。私は卵に触れた。


 温かかった。


 ぬるい、という程度だった。中はたぶん、まだ生だ。だが、ぬるい。三日湯に浸けたドルフの卵と、同じくらいには。


「……十分で、三日分か」


 エルフィーナが卵に触れた。


「……三日分では足りん。試験は加熱調理だ。固まるまで要る」

「……脈の速さを上げれば」

「魔力が要る」

「……魔力三十七。……足りるかは、分かりません」


 試験の前夜だった。


 私は卵を置いて、右手を見た。震えていた。二週間切り続けた手だ。明日、この手で毒腺を切り、卵を揺らす。


 作業台の脇にドルフが座っていた。彼の右手は吊られたままだ。感覚はまだ戻っていない。彼はその手を膝に載せていた。


「……親方の手は、震えませんね」

「動かん手は震えん」


 彼はそれを冗談のように言った。冗談だったのかもしれない。


「……お前の手は明日も震える。震えたまま切れ。俺の手は震えん。震えん手は、明日、何もできん。……二人分で一人だ。明日は一人で二人分やれ」


 私は頷いた。


 二人分の震え。震える手と震えない手。作業台の上に、二つの手があった。


 私は板に書いた。『試験前夜。毒腺、三日、汚染なし。卵、十分で、ぬるい。……親方の手は、震えない』


 書いて、明日の受験料のことを思った。一万五千G。今日の日当で届いた。五十二日目だ。手袋の六百Gを引いても、届いた。


 自分の金で、初めてC級を受ける。


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