第132話 取り締まりと、ユルゲンの叫び
役人が来たのは、その翌日だった。
資格院の紋章のついた外套。三人。先頭の一人が羊皮紙を広げた。
「王立資格管理院、流通規程監査官である。……当解体場に対し、『魔物由来食材、流通規程』第八条に基づき、監査を行う」
第八条。私はそれを読んでいた。四十日、板の脇で、二十四条を一条ずつ。
『第八条 魔物由来食材の、有毒部位の処理は、魔物調理師(C級)以上の、監督下で行わなければならない』
「当解体場に、魔物調理師はいるか」
監査官は小屋を見回した。
ドルフが右手を吊って作業台の脇に座っていた。ユルゲンが山の手前に立っていた。私は作業台の前にいた。
「……いません」
ドルフが答えた。
「無資格の者が四十年、有毒部位の処理を行っていた、と。……冒険者ギルドの認定は」
「ある。ギルドの解体士だ。……国家資格じゃない」
「規程は国家資格を要求している。……当解体場は規程違反である。処理を停止し、解体場を閉鎖する。……処理済みの肉は、すべて廃棄」
廃棄。
ルドガーの商会に卸すはずの肉。貴族の宴の肉。それも廃棄だという。
私はその言い方に引っかかった。監査官は貴族向けの肉も廃棄すると言った。貴族の商会の株主が財務理事だ。財務理事の資格院が、貴族向けの肉を廃棄する。
(……閉鎖が目的だ。肉じゃない)
なぜ、今、閉鎖する。四十年放置していた解体場を。
衛生局への井戸汚染報告書。三十通。私の名前で。
四十日前から、私は流通規程を読んでいる。読んでいることを、ルドガーは聞いていた。ルドガーは財務理事の商会の仕入れ人だ。
「――ふざけんな!」
声が飛んだ。
ユルゲンだった。彼は山の手前から走ってきて、監査官の前に立った。十二歳が、外套の前に。
「四十年! 親方は四十年、ここで肉を分けてた! 資格院が一度でも来たか!? 来ねえだろ! 一度も! 三人死んで、葬式を親方が出して、資格院は一銅貨も出さなかった!」
「……子どもは下がれ」
「下がらねえ! ……親方の手が動かなくなって、三日で来るのか! 三日で! 四十年来なかったのに!」
監査官の顔が、少し動いた。
「……規程は規程だ。魔物調理師がいない解体場は」
「じゃあ取ればいいだろ! 親方が! ……取れねえよ! 一万五千G! 親方の年収の五分の一だ! 俺の六年分だ!」
ユルゲンは叫んでいた。声が割れていた。
「資格を取る金がねえんだよ! 金がねえから無資格で四十年やったんだ! やらなきゃ貴族の宴の肉がなくなるから! ……それを、今さら規程って!」
小屋が静まった。
監査官は羊皮紙を握っていた。彼は規程の末端だった。悪くはない。
だが、彼の顔には何かがあった。四十年来なかった理由を、彼は知らないのかもしれない。三日で来た理由も。
私は立ち上がった。
「――監査官。第八条の続きを読んでいただけますか」
監査官が私を見た。
「第八条、第二項。……『ただし、魔物調理師が、不在の場合、衛生管理士(C級)以上の者が、毒性管理の、暫定監督を、行うことができる。暫定監督の期間は、次の魔物調理師試験の、実施日までとする』」
私はそれを暗誦した。
監査官が羊皮紙を見た。第八条。第二項。
彼はそれを読んでいなかった。彼が持ってきた羊皮紙には、第一項しか書かれていなかった。
「……第二項」
「あります。王国公開法規の原文に。三十年前の制定時から」
私は腰の木札を示した。衛生管理士、C級。
「私は衛生管理士です。当解体場の毒性管理を、暫定監督します。……次の魔物調理師試験は二週間後です。私はそれを受けます」




