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異世界資格マスター ~最弱村人から始める資格無双。試験分析EXで世界をアップデートします~  作者: 東雲 諒杏
第三章「実技への恐怖」

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131/156

第131話 口で教える


 ドルフは、三日後に解体場へ来た。


 右手を布で吊っていた。左手で戸を開けた。開けて、鉤のオークを見た。見て、作業台の私を見た。


「……切ってるか」

「……はい。三度に二度、汚染します」

「二度か。……昨日は」

「三度に一度でした」


 彼は鼻を鳴らした。笑ったのだと思う。


 彼は作業台の脇に座った。左手で木炭を取った。右手は吊ったままだ。

 左手で板に絵を描いた。左手の絵は右手の絵より下手だった。線が揺れていた。だが、毒腺の二度の曲がりは正確だった。


「……口で、教える」


 彼は言った。


「手は動かん。動かん手で教えることはできん。……だが、口は動く。四十年、俺は手で教えた。手が教えられんなら、口だ」


「……親方」

「手は、お前が使え」


 彼は私の右手を見た。


「お前の手は震える。俺の手は動かん。……震える手と動かん手で、一人分だ。俺が言う。お前が切る。……二人で一人の魔物調理師だ」


 私は包丁を握った。


「……肩肉。鉤から下ろせ。……左の鉤だ。今朝のいいやつだ」


 私は下ろして、作業台に載せた。


「触れ。位置を言え」

「……肩の骨の下。指、三本分。……筋の間」

「そうだ。……刃を当てろ。壁の外側。……まだ入れるな」


 私は刃を当てた。震えていた。


「……震えの幅を見ろ。……一ミリより大きいか」

「……大きいです」

「息を吐け。……止めるな。吐きながらだ」


 私は息を吐いた。吐きながら、刃を見た。震えの幅が――


「……小さく、なった」

「息を止めると震えは大きくなる。吐いているときが一番小さい。……四十年、俺もそうだった。俺の手も震えた。三年、震えた。震えなくなったんじゃない。吐きながら切るのを、覚えた」


 彼は震えていたのだ。四十年前に。


「……入れろ。吐きながら。壁の外側をなぞれ。二度、曲がる。一度目はこの骨の下」


 私は入れた。吐きながら。刃が壁の外側をなぞった。一度目の曲がり。彼の声が私の手を導いた。二度目の曲がり。首の付け根。


 抜いた。


 切断面を見た。


 白かった。


 ドルフが左手で切断面を押さえて、覗いた。長いあいだ覗いていた。


「……汚染、なし。……壁の外側、ぴったりだ」


 彼はそう言って、それから初めて笑った。声を出して。四十年の解体場に、その声が響いた。


「……口で教えるほうが上手いかもしれん。俺は」


 私は包丁を置いた。右手は震えていた。震えたまま、白い切断面を作った。


 ユルゲンが山の手前から走ってきた。彼は切断面を見た。見て、私の手を見て、親方の吊られた右手を見た。

 彼は何も言わなかった。言えなかったのだと思う。あれだけ口が達者な男が。


 その日、私は三体切った。三体とも白かった。


 ドルフの声が、三体分、私の手を導いてくれたのだった。


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