第128話 練習用の肉
一つ、切れた。だが、一つだった。
翌日、私はまた汚染した。その翌日は切れた。その翌日は汚染した。三日に一度か二度。
ドルフの「三度に一度は失敗する」の、逆だった。三度に二度、失敗する。
「……練習の肉が悪い」
ドルフが言った。彼は私の切断面を見ていた。
「廃棄の肩肉は毒腺が傷んでいる。壁が弱い。刃が少し触れただけで破れる。……本物の試験は新しい肉だ。壁がしっかりしている。新しい肉で練習しないと、感覚がずれる」
「……新しい肉は」
「貴族向けだ。ルドガーが買っていく。……一体、三千G。練習で切って捨てる肉じゃない」
三千G。私の四十五日分の日当だ。
「……奥に、ある」
ドルフは小屋の裏を見た。
「裏の山の奥だ。毒の強い部位を積む場所。……あそこに時々、丸ごとのオークが捨てられる。討伐依頼で毒の強い個体が出たときだ。肩肉は新しい。だが、毒が強い」
「毒が強い肩肉で、練習を?」
「毒が強いぶん、毒腺が太い。太いぶん、壁がしっかりしている。……練習にはいい。切り損じれば毒が強く出る。強く出た毒は手につく。……気をつければいい」
彼はそれを簡単に言った。四十年、奥で仕事をしてきた男の言い方だった。
「俺が取ってくる。お前はここで待て。……奥は、慣れていない者が入る場所じゃない」
彼は前掛けを締め直した。締め直して、革の手袋を嵌めた。古い手袋だった。ところどころ破れていて、親指の付け根に穴があった。
「親方。手袋が」
「破れてる。知ってる。……四十年、これだ」
彼は小屋の裏へ歩いた。
私は作業台の前で待った。ユルゲンが山の手前で木札を刺していた。彼はドルフの背中を見ていた。木札を持つ手が、止まっていた。
「……魔法士様。親方、奥に行くの、嫌がるんだ。いつも」
「……嫌がる?」
「奥で、三人死んでる。俺が来る前に。毒の強いやつに触って。……親方は、その三人の葬式を出した。自分の金で」
私は板を開いた。『魔物鑑定Lv1』。
裏の山の奥。私はそこの部位を鑑定したことがある。木札を刺すために。毒性、強。ワイバーンの毒腺。オークの肝臓。触れれば皮膚が爛れる。傷口から入れば、神経が麻痺する。
ドルフは四十年、それを素手に近い手袋で触ってきた。
「……ユルゲン。親方の手袋は」
「あれで四十年。新しいのは一つ二百G。……親方、自分のものは買わない。俺の手袋は買ってくれたけど」
二百G。
私は小屋の裏へ歩き出した。奥へ。ドルフを止めるために。
止められなかった。
私が山の手前を回り込んだとき、奥から音がした。肉の崩れる、重い音。それから、ドルフの短い声。
「――っ」
声は、それだけだった。




