第120話 栄養管理士、実在する
栄養管理士C級は、共同研究費の二つ目だった。
試験は資格院の下町受付棟。あの老役人がまたいた。彼は私の願書を鼻先まで近づけた。
「……栄養管理士。魔法士様が。……今年、あんた、何個目じゃ」
「十三個目です」
「十三」
彼はそれ以上言わなかった。言う代わりに、羊皮紙を一枚出した。
「試験は、献立の作成じゃ。……課題、『五人分の、一週間の献立を、栄養価を計算して作成せよ』」
献立。前世の管理栄養士の国家試験にもあった。私はそれを取っていない。だが、栄養学の教科書は、調理師と医師の勉強で読んだ。
「……対象は、誰ですか」
「対象?」
「五人の。……年齢、性別、体格、仕事」
「そんなものは書いておらん。……献立は献立じゃ。貴族の宴の献立を書いた者が、去年合格しておる」
貴族の宴。
私は羊皮紙を見た。空欄。五人分。一週間。
貴族の宴の献立なら書ける。ワイバーン卵。ドラゴン肉。南方の香辛料。教本に載っている。載っているとおりに書けば、合格する。
私は、書かなかった。
『対象:下町・東三番通り。魔力欠乏症の、傾向のある、子ども五名(七歳〜十歳)。体重、標準の八割。一日、麦粥一杯の、食事歴。
目標:鉄、たんぱく質、ビタミンの、補給。予算、一人一日、五十G以内』
その下に、献立を書いた。
麦粥。豆。ニガヨモギモドキの若葉(ヒルダの草。鉄がある)。オークの筋肉の切れ端(毒抜き・加熱済み)。川魚のあら(骨ごと煮る。骨にカルシウム)。塩。
七日分。一日、五十G以内。栄養価を計算して、横に書いた。鉄。たんぱく質。ビタミン。前世の食品成分表の記憶と、この世界の教本の数値を突き合わせて。
老役人はそれを鼻先まで近づけて読んだ。長いこと読んだ。紙を持つ手が、途中で一度止まった。
「……五十G」
彼は言った。
「五十Gの献立で栄養価を計算した者は、儂の四十年で初めてじゃ。……貴族の宴は一人五千Gじゃ。計算するまでもない。何を食っても足りる」
彼は羊皮紙を裏返した。
「……採点基準は、『栄養価の計算が正しいこと』じゃ。対象が貴族か下町かは、基準にない」
印を押した。
「合格。……ただし、これは儂の個人的な質問じゃが」
彼は目を細めた。目が悪いので、細めても見えていないのかもしれない。
「この献立、本当に五十Gで作れるんかね」
「オークの切れ端が、ただで手に入れば」
「ただ?」
「解体場の裏に、毎日捨てられています。……魔物調理師の流通許可があれば、それを下町に卸せます」
老役人はしばらく黙った。
「……魔物調理師。……あんた、それが狙いか」
「はい」
「……ゲテモノ資格じゃぞ」
「はい」
ファンファーレが鳴った。
♪♪♪♪
【資格取得】『栄養管理士(C級)』
→ 能力上昇:知力+4 HP+5
→ スキル獲得:『栄養分析 Lv1』
→ 資格シナジー検出:『調理士』×『衛生管理士』×『栄養管理士』
= 複合職業『食の安全管理者(見習い)』を解放
保有資格:13 / 12,000
複合職。備考欄が、また増える。
老役人は金の光を見上げて言った。
「……ゲテモノで光るなら、光らせてやれ。……儂は四十年、この受付棟でE級とD級を見てきた。C級をここで取る奴は珍しい。……上町で取れるのにな」




