第118話 合格 ―消毒Lv3―
ファンファーレが、衛生局の小さな部屋に鳴った。
局員はそれを聞いた。聞いて、天井を見上げた。金の光が、彼の机の上の書類の山を照らした。
♪♪♪♪
【資格取得】『衛生管理士(C級)』
→ 能力上昇:知力+5 HP+10
→ スキル獲得:『毒判定 Lv1』『消毒 Lv1 → Lv3』
→ 職業解放:『衛生管理者』
→ 資格シナジー検出:『下水清掃士』×『衛生管理士』×『環境管理(中級)』
= 権限解放『井戸汚染報告書の、提出権』
保有資格:12 / 12,000
「……光りましたね」
局員は驚かなかった。驚くより、疲れていた。八年、廃棄を指導した男の疲れだった。
「……ところで。『井戸汚染報告書の、提出権』。……これは、何ですか」
彼は私のステータスを見ていない。だが、私が読み上げたのを聞いていた。
「衛生管理士は、井戸の汚染を衛生局に報告できます。報告を受けた衛生局は、規定により、十日以内に調査と石灰の散布を行う義務があります」
「……そんな規定が」
「あります。王国衛生法規、第十二条」
図鑑の公開法規にあった。三千年前から。誰も使っていなかった。衛生管理士が年に三人しか生まれないからだ。
「……私は、その報告書を八年、一通も受け取っていません」
「今日から受け取ります。……三十通、書きます」
局員は私を見た。長いあいだ見てから、机の書類の山を見た。山の一番上に『廃棄指導記録』とあった。
「……三十通。石灰は麻袋一つ八十G。三十の井戸で二千四百G。衛生局の年間の石灰予算は、五千Gです。上町の下水路の清掃用に」
「上町の下水路に、石灰が要りますか」
「……要りません。あそこは石造りで、詰まらない」
彼は羽根ペンを取った。
「……十二通、受理します。予算の半分です。残りは来年」
「十二でいいです。……残り十八は、来年また出します」
十二の井戸。
私は板に、東三番通りと西区の井戸の位置を書いた。赤腹病の出た通り。ミラの匙が届かなかった路地。
その夜、板の前で消毒の術式を書いた。
石灰は衛生局が撒く。だが、井戸の水そのものは石灰では消毒できない。石灰は周りの土を殺菌するだけだ。水は煮沸するしかない。煮沸には薪が要る。あるいは、魔力が。
風の陣。煙突の炎。魔力三で五倍の火。あれで学院の中庭の鍋を沸かした。
だが、井戸端で毎日沸かし続けるには、魔法士が要る。魔法士は下町にいない。
(……魔法士がいなくても動く術式は、作れないか)
術式を石に刻む。魔導ランプがそうだ。魔力を込めた石が光り続ける。
同じように、火の陣を石に刻んで井戸端に置けば――
板に書いた。『消毒石。火の陣+風の陣を、石に刻む。魔力を込めれば、一定時間、湯を沸かし続ける。……刻む技術は、ドワーフ』
ドワーフ。グリムヒルド。彼女は鍛冶の親方になりたかった。石に術式を刻む技術を持っているかどうかは、分からない。
繋がらない。だが、書いた。
『消毒Lv3』が、私の中で何かを少しずつ繋げ始めていた。




