↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界資格マスター ~最弱村人から始める資格無双。試験分析EXで世界をアップデートします~  作者: 東雲 諒杏
第二章「解体学と栄養」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
116/157

第116話 寄生虫の卵


「見えん」


 解体場の作業台で、ユルゲンが言った。彼はゴブリンの腸を手に持って、目を細めていた。顔を近づけて、鼻の先が触れそうになって、慌てて離した。


「魔法士様は、この腸に虫がいるって言うけど。……見えねえよ。どこにも」

「卵だ。虫じゃない。……卵は小さい。目には見えない」

「見えないもんを、どうやって、いるって言うんだよ」


 もっともだった。

 私の『魔物鑑定Lv1』は「寄生虫、有」と表示する。だが、表示は私にしか見えない。ユルゲンには腸が見えるだけだ。ドルフも同じだった。四十年、彼は虫を見なかった。見えないものは、見なかった。


 見えるようにしなければならない。


 前世の生物の教科書。顕微鏡。レンズ。ガラスを磨いて光を曲げる。この世界にガラスはある。上町の窓に嵌まっている。だが、レンズを磨く技術は――


(……水だ)


 水は光を曲げる。水滴は丸い。丸い水滴はレンズになる。前世で、理科の実験で見た。水滴の下の新聞の文字が、大きく見える。


「――エルフィーナ。水魔法で水の玉を作れますか。……小さい玉を。豆ほどの」


 彼女は解体場に来ていた。エルフが魔物の解体場に来るのは四十年で初めてだと、ドルフが言った。彼女は匂いに顔をしかめながら、しかし帰らなかった。緑の衣の裾を片手で持ち上げたまま、三十分も立っていた。


「水の玉。……作れる。だが、何に使う」

「レンズです。……光を曲げて、小さいものを大きく見せる」


 彼女は指先で空を撫でた。精霊は来なかった。だが、水魔法は精霊なしでも使えた。

 指の先に水の玉が浮いた。豆ほどの、透明な丸い玉。


「……その下に、腸を」


 私はゴブリンの腸の内側を薄く削いだ。削いだものを板に載せ、水の玉をその上に近づける。

 窓からの光が玉を通った。玉の下の腸の表面が――


 大きく、見えた。


「――うわ」


 ユルゲンが覗き込んで声を上げた。


 腸の表面に点があった。無数の、小さな楕円の点。点は規則正しく並んでいた。

 その並び方を見て、私はそれが卵だと分かった。教科書の絵と同じ形だった。


「……これ、なに」

「卵だ。虫の」

「……これが、腹に入るのか」

「入って、腹の中で孵る。孵って、育つ。育って、腹を食う。……トビの腹が膨れたのは、これだ」


 ユルゲンは水の玉を見ていた。見て、それから腸を見て、それから――


 小屋の外へ走った。走って、吐いた。


 ドルフがいつの間にか作業台の後ろに立っていた。彼は水の玉を覗き込んだ。四十年、腸を手前に置いた男が。


「……これか」


 彼はそれだけ言って、長いあいだ覗いていた。太い指が、板の縁を掴んでいた。


「四十年、これを見ていなかった。……見えなかった。見えないものは、いないと思っていた」


 彼は水の玉から顔を上げた。


「レオン。……これを俺の目で見せてくれ。毎日。分ける前に。……俺の勘は四十年だ。だが、この玉は、四十年の勘が見ていないものを見る」


 エルフィーナが水の玉を消した。消して、少し震える声で言った。


「……エルフの森の湧き水に、これはいるか」

「……分かりません。湧き水にも、卵はあるかもしれない」

「……調べる。帰ったら。……いや、帰れんのだった」


 彼女はそれ以上言わなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。