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異世界資格マスター ~最弱村人から始める資格無双。試験分析EXで世界をアップデートします~  作者: 東雲 諒杏
第五章「魔法士試験と魔導気象士」

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113/158

第113話 震えたまま、ぎりぎり合格


 ファンファーレが、小さな調理場に鳴った。


 七人の受験者と、老役人と、窓の外のミラが、それを聞いた。金の光が竈の煙と混ざって、低い天井の下で螺旋を描いた。


♪♪♪

【資格取得】『調理士(D級)』

 → 能力上昇:敏捷+4 知力+2

 → スキル獲得:『包丁精密操作 Lv1』『調理 Lv1』

 → 職業解放:『調理士』

 → 資格シナジー検出:『雑草判定士』×『調理士』

  = 派生技能『食用植物判別』を獲得

 保有資格:11 / 12,000


 敏捷、プラス四。包丁精密操作、Lv1。


 私はその表示を見た。見て、笑った。笑うしかなかった。

 あのぼろぼろの三枚に、システムは「精密操作Lv1」と名前をつけた。基準がガバガバなのか、懐が深いのか。私は今回も後者だと思うことにした。


 老役人が金の光を見上げていた。


「……光ったな。スライムのときも光った。……調理士で光った者は、四十年で初めてじゃ」

「……ぎりぎりで、光りました」

「ぎりぎりでも光る。……そういうもんじゃろ、資格ってのは」


 彼は木札を私に押しやった。


 調理場を出ると、ミラが待っていた。籠を抱えて。顔が赤い。窓に押しつけていたせいだ。


「……受かった?」

「ぎりぎりで」

「三枚に、なった?」

「ぼろぼろの、三枚に」


 彼女は笑った。いつもの笑いだった。

 笑って、それから籠を地面に置いた。置いて、私の右手を取った。


 手はまだ震えていた。


「……まだ、震えてる」

「……ああ」

「でも、切れた」

「……ああ」


 彼女は私の手をしばらく握っていた。握って、放した。放して、籠を抱え直した。


「炊き出し、途中だった。……ルナが鍋の番してる。戻らなきゃ」

「ミラ」

「なに?」

「……麦粥の切り方でいいって。……あれ、どういう意味だった」


 彼女は少し考えた。


「……レオン、いつも綺麗に切ろうとしてた。魚を。教本の絵みたいに。……でも、麦粥に入れる野菜、レオン、綺麗に切ったことないでしょ。適当に、ざくざく。それで子どもたち、食べてる。……だから、魚もざくざくでいいのかなって」


 適当に、ざくざく。


 私は前世のまな板を思った。白い身。花のように並んだ薄造り。

 あの夜、私は綺麗に切った。教本の絵のように。綺麗に切って、水洗いを雑にした。


 綺麗さは、基準にない。老役人の言葉だ。


「……ざくざくで、いいのか」

「食べられれば、いいの」


 彼女は坂を降りていった。私はその背中を見ていた。


 板に書いた。『調理士D級。ぎりぎり。……綺麗さは、基準にない。食べられれば、いい』。


 書いて、右手を見た。震えていた。

 震えてはいたが、その震えは五日前の震えとは少し違う気がした。止まる震えではなく、動く震えになった気がした。


 気のせいかもしれない。だが、板にはそう書いた。


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