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異世界資格マスター ~最弱村人から始める資格無双。試験分析EXで世界をアップデートします~  作者: 東雲 諒杏
第五章「魔法士試験と魔導気象士」

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第101話 生の魔物肉


 夏の最後の日だった。


 中庭の煮沸を終えて、私は坂を降りた。銀のスライム亭の皿洗いに戻るためだ。

 夏のあいだ、私は学院と下町を毎日往復していた。朝、弁当を受け取り、昼、鍋を沸かし、夕方、皿を洗う。坂の石の出っ張りの位置を、足が覚えてしまっていた。


 路地に人だかりがあった。


 東三番通りの裏の路地。炊き出しの路地だ。壁際に子どもが倒れていた。周りに子どもたち。ミラがその子の頭を膝に乗せていた。


「――レオン!」


 ミラの声が震えていた。


「トビが……お腹押さえて、動かなくなって」


 トビ。椀の底に『トビ』と書いてある、九つの男の子だ。

 私はしゃがんで、図鑑を向けた。


名前:トビ 年齢:9歳

HP:7 / 26

状態異常:毒(魔素性)/寄生虫


 毒。寄生虫。


「……何を食べた」

「……肉」


 答えたのは隣の小さな子だった。ルナだった。指をしゃぶりながら、上を見て言った。


「解体場の裏の。捨ててある肉。……オークの。……トビ、お腹すいてて。生で」


 生で。


 冒険者ギルドの解体場。魔物の死骸。毒のある部位を切り落として捨てる。捨てられた部位は路地の外れに積まれる。

 魔物肉は平民への流通が禁じられている。禁じられているから捨てられる。捨てられたものを、腹の減った子どもが拾う。


 私はトビの腹を見た。膨れていた。肌が黄ばんでいた。


「……治癒士を」

「三十万G」


 ミラが言った。彼女はそれを言い慣れていた。言い慣れていることが、私の胃を締めた。


「……解毒は」

「神殿の聖水なら。……一瓶、五百G」


 五百G。私の財布に百二十G。ミラの財布にゼロ。マーサの店の今日の売り上げが、四百G。


「――女将さん!」


 ミラが立ち上がって叫んだ。厨房の窓からマーサが顔を出した。彼女は路地の様子を一目見て、何も聞かずに厨房の奥へ消えた。


 出てきたとき、その手には小さな瓶があった。


「……聖水だ。去年、私が腹を壊したときの残り。……半分しかない」


 半分。


 私は瓶を受け取って、トビの口に少しずつ垂らした。ミラが頭を支えた。

 半分の聖水がなくなった。トビの腹は、まだ膨れていた。


 図鑑を向けた。HP、七のまま。状態異常、毒――消えていた。寄生虫――残っていた。


「……毒は消えた。……虫は、消えていない」


 聖水は毒を消す。だが、虫は生き物だ。聖水では死なない。


 私はトビの膨れた腹を見た。前世で読んだ医学の教科書の、寄生虫の章が頭に浮かんだ。駆虫薬。この世界に駆虫薬はあるのか。

 図鑑を開いた。『薬剤師(B級)』。受験料、八万G。教本の公開部分――『魔素性寄生虫の駆除には、ニガヨモギモドキの煎じ薬を用いる』。


 ニガヨモギモドキ。


 ヒルダの乾燥草だ。泥食いスライムが嫌う草。私はそれを、溝の両端に置いていた。


「――ルナ。溝の端の草の束を持ってきて。できるだけたくさん取ってきて」


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