EP03:騎士団と賞金稼ぎ
――ヨクアール魔法王国 北東の町 守備兵詰所
「これは一体……」
地面に転がった血まみれの死体。生臭い鉄の臭いが、守備兵達の鼻をつんと刺激する。
「王国の不安を煽っていてた、賊共だ」
「こいつらが、ですか?」
歯切れの悪い守備兵の声。彼の目には、ただの男と女にしか見えていない。
「後始末と王都への報せを任せたぞ」
「……かしこまりました」
守備兵は訝しむも、王国騎士団に歯向かう事などできるはずもない。粛々と命令に従うしかなかった。
騎士団長はゆっくりと頷くと、守備兵に一つ尋ねた。
「この近郊で不浄に侵された場所は知らないか?」
「は? 不浄、ですか?」
「付随する事柄でも良い」
「はぁ……」
理解していない様子の守備兵に、苛立ちを募らせる騎士団長。
ふと、騎士団長の視界に入ったのは寂れた市場。
「では、物の出入りに不足は無いか?」
「ああ、それでしたら、北東方面が滞っております」
「……そうか」
騎士団長は深い溜息を吐くと、くたびれた地図を握りしめ、騎士団員達の方を向いた。
「我らは引き続き、聖女の探索へ続行する」
「はっ!」
「だがその前に――そろそろ出てきたらどうだ?」
騎士団長の冷たい視線が、街の一角に注がれる。だが返事はない。
「非協力的なその態度、直々に直してやろうか?」
騎士団長は柄に手を添える。かちゃりと高く鳴る金属音。
「待った、待った!」
慌てて飛び出したのは眼帯の男。それに続くように、ぞろぞろ現れる四人の男女。
「お前らは確か、王都でも噂になっている賞金稼ぎだな?」
「まさか王国騎士団長様にまで、知られているとはね」
飄々と笑う眼帯の男ジム。
「笑い事じゃないよ、まったく」
文句を言いつつ出てくるのは、色気のある女ミラ。
「まあ、バレちまったら出るしかねぇだろうよ」
遅れて出てきたのは大柄の男ガイと、一人の少女。始めの四人は装備を整えていたが、唯一少女だけが非武装だった。
騎士団長の兜が、賞金稼ぎ達を見やるように動く。
「なぜ王都から出た? 依頼は山程あっただろう」
「もちろん聖女様とやらを探すためさ。莫大な報酬をいただけると聞いたんでな」
「王命よりも報酬目当てか……下衆めが」
「そう言うなよ、大事な大事な飯のタネだ」
騎士団長は“ふんっ”と鼻を鳴らしながら、さらに問いを重ねた。
「なぜこの街に来た?」
「独自の情報網があるんだよ」
「ほう、であれば貴様らが持っている情報をこちらに渡し給え」
横柄に手を差し出す騎士団長。
ミラが身を乗り出し、声を張り上げた。
「ちょっとあんた! いくら王国騎士団だからって――」
瞬間、ざざっと地を蹴る音。
ジムを押しのけ、騎士団長がミラに迫る。
「えっ?」
ぎらりと光る剣閃。
ミラの視界に落ちる影。
盾を構えたガイが割って入る。
間を置かず、ごんっ、と鈍い衝撃音。
「ぐっ……」
「ガイ?」
ミラの目に映るのは、見慣れたはずの巨躯。
だが、膝をつき腕を震わせている。
「ちょっと、嘘でしょ?」
どろりと、ガイの腕をつたう血。鉄縁を裂いた剣身が、木盾ごと肩当てに食い込んでいた。
兜越しの笑い声が響く。
「ほう、思ったよりは、できそうだな。だが――」
「ぐああっ!!」
メキメキと木盾の割れる音。合わせるようにガイのうめき声が響き渡る。
慌てたようにジムが駆け寄り、声を張り上げた。
「わ、わかった! わかったから! それ以上仲間を傷つけるな!」
応じるように騎士団長は振り向くと、ゆるりと剣を納めた。
「ふん、始めから大人しく従えば良いものを」
再び差し出された騎士団長の手には、小さな地図が渡った。それには、現在地からさらに北東に印が書かれていた。
「ここは?」
「村だ、そうだ」
「ふむ」
地図を見ながら考え込む騎士団長。
北東の村――それは、騎士団達が向かおうとしていた場所。
“これは偶然か?”
警戒心の現れか、騎士団長はさらに情報を欲した。
「この村には何が?」
「これ以上タダで教えろと?」
「良いだろう。報酬をくれてやる――貴様達の命だ」
ごくりと息を飲む賞金稼ぎ一行。ジムが深く溜め息を吐くと、諦めたかのように口を開いた。
「聖女を見たという話を聞いた」
「なんだと?」
思わず声を上げる騎士団長。ざわつく騎士団員達。ジムは意に介さず、そのまま続けた。
「その村は既に不浄に侵されている、らしい」
「では眉唾か」
「いや、不浄の地にいる人間なんて、聖女以外いないだろう?」
「むっ?」
「 俺達はそれに賭けようとしていたんだ」
――『不浄ある所に聖女あり』
暗殺者が持っていた地図に記された言葉。その真意は定かではなかったが、今妙な説得力を得た。
「これより北東の村を目指し、聖女を確保する!」
「ははっ!!」
がしゃりと金属鎧を打つ音が、寂れた町に響き渡った。
騎士団長は改めて賞金稼ぎ達の方を向いた。
「貴様らは村の事は忘れるんだな」
「へいへい、わかってますよ」
ひらひらと手を振るジム。
沈黙を保ち、王国騎士団達に背を向ける賞金稼ぎ達。
ただ少女だけが、静かに見つめていた。
遠ざかっていく、いくつもの背中を。




