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第3章 ズレ

 物音で、目が覚めた。

 小さい音。

 でも、確かに聞こえた。

(……なんだ)

 しばらく耳を澄ます。

 ——ガタッ

 今度ははっきりした。

 体を起こす。

 頭が少し重い。

 扉の方を見る。

 少し迷いつつ。

 そして——開けた。

 廊下は静かだった。

 いくつかの扉が、同じように開いている。

 人影。

「……今の、聞いたか」

 探偵だった。

「聞いた」

 短く答える。

「場所は」

「分からない」

 その時——

「こっち!」

 姉御の声。

 少し先の扉。

 開いている。

 全員が走る。

 中に入る。

 そこにいたのは——

 倒れている、正義の男だった。

「……っ!」

 床に押さえつけられた跡。

 首元に、赤い線。

 完全ではない。

 でも——

 明らかに“殺そうとした跡”。

「生きてる!」

 姉御が叫ぶ。

 わずかに、息がある。

「水!」

 幼馴染がすぐに動く。

 戻ってくるのが早い。

 コップを渡す。

「……っ、は……」

 正義の男が咳き込む。

 意識が戻る。

「大丈夫か!」

「……ああ」

 声がかすれている。

「誰にやられた」

 探偵が問う。

 少しの沈黙。

「……分からない」

「顔は見てないのか」

「後ろからだ」

 短く答える。

「気づいた時には、もう……」

 言葉が途切れる。

「……なるほど」

 探偵が呟く。

「未遂だが、明確な殺意だ」

 空気が重くなる。

「……ふざけるな」

 正義の男が立ち上がる。

「次は俺がやる」

「やめて」

 姉御が止める。

「今はそういう話じゃない」

「じゃあどうする!」

 怒鳴る。

「このまま待つのか!?またやられるのを!」

「落ち着け」

 探偵の声。

「今は情報を整理する」

 全員を見る。

「まず確認だ」

「今ここにいるのは全員か」

 視線が巡る。

 一人、足りない。

「……神父は」

 いない。

 空気が凍る。

「探すぞ」

 全員が動く。

 廊下、部屋——

 そしてロビー。

 そこにいた。

 神父は椅子に座っていた。

 静かに。

 目を閉じている。

「……何してる」

 正義の男が言う。

「祈っていました」

 ゆっくり目を開ける。

「今?」

「はい」

「音は聞こえなかったのか」

「聞こえました」

「ならなぜ来ない」

「祈りを優先しました」

 静かな声。

 一瞬、誰も言葉を失う。

「……命より祈りかよ」

「どちらも同じです」

「私にとっては」

 価値観。

 ここでまた、ズレる。

「……話にならないな」

 正義の男が吐き捨てる。

 その時——

「ねぇ」

 幼馴染の声。

 全員がそちらを見る。

「一つ、いい?」

 静かな声だった。

「正義さん、後ろからやられたんだよね?」

「……ああ」

「じゃあさ」

 少し首をかしげる。

「どうして部屋の中にいたの?」

 空気が止まる。

「え?」

 姉御が呟く。

「だってさ」

「音でみんな出てきたでしょ?」

「その前に部屋にいたってことだよね?」

 確かに、そうだ。

「……寝ていた」

 正義の男が答える。

「ほんとに?」

 軽い声。

 でも——

 妙に刺さる。

「……何が言いたい」

「別に」

 笑う。

「ちょっと気になっただけ」

 それ以上は言わない。

 でも——

 違和感は残る。

(……違う)

 何かが違う。

 でも分からない。

 その時。

 探偵がこちらを見ていた。

 一瞬だけ。

 視線が合う。

 すぐに逸らされる。

 でも——

 その目は、確実に何かを考えていた。

 気づき始めている。

 何かに。

 この時。

 まだ誰も確信はしていない。

 でも——

 確実に、“ずれ”は広がっていた

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