慣れ
会議の後。
特に何かが決まるわけでもなく、自然と解散になった。
廊下を歩く。
「……なんかさ」
隣から声。
幼馴染だった。
「お腹すかない?」
「……さっき食っただろ」
「いや、なんか違うんだよね」
少し考える仕草。
「“ちゃんとしたご飯”じゃない感じ」
「どんなだよ」
「分かんないけど」
笑う。
「こういうとこってさ、もっとさ——」
手を広げる。
「“わーご飯だー!”みたいなのじゃない?」
「……どんな想像だよ」
「映画とかの影響」
あっさり言う。
くだらない。
でも——
少しだけ、気が楽になる。
■ ロビー
戻ると、正義の男がいた。
椅子に座って、腕を組んでいる。
「……何してんだ」
「考えてる」
「何を」
「色々だ」
雑な答え。
でも顔は真面目だ。
「お前さ」
ふと、こちらを見る。
「スポーツとかやってたか」
「いや」
「そうか」
それだけ。
会話が終わるかと思ったが——
「やっとけばよかったな」
「なんで」
「体力があると、多少は余裕が出る」
軽く腕を回す。
「今みたいな状況だとな」
「……そういうもんか」
「ああ」
短く答える。
そのまま、また黙る。
会話は続かない。
でも、それが自然だった。
■ 少し後
別の場所。
芸術家が窓のない壁を見ていた。
「……何見てるんだ」
「何も」
即答。
「じゃあなんでそこにいる」
「なんとなく」
振り向かない。
「落ち着くんだよ」
「……壁で?」
「何もないからな」
少しだけ笑う。
「余計な情報が入ってこない」
言っていることは分かる気もする。
「お前は?」
逆に聞かれる。
「何が」
「落ち着く場所」
少し考える。
「……特にない」
「そうか」
それだけで終わる。
会話は続かない。
でも、不快ではない。
■ 夕方
姉御が飲み物を配っていた。
「はい」
コップを渡される。
「ありがと」
「いいって」
軽く笑う。
「こういう時くらい、なんかしないとね」
「……まとめ役みたいだな」
「やめてよ」
苦笑い。
「そういうタイプじゃないって」
「そうか?」
「うん」
少しだけ間。
「でもまぁ」
「誰もやらないなら、やるしかないじゃん」
肩をすくめる。
その言い方が、妙に現実的だった。
■ 夜前
ロビー。
人はまばら。
幼馴染が椅子に座っていた。
「ねぇ」
「何」
「暇じゃない?」
「……暇だな」
「だよね」
足をぶらぶらさせる。
「なんかさ、こういう時ってさ」
「時間だけ長く感じるよね」
「……分かる」
「でもさ」
少し笑う。
「たまにはこういうのもいいかもね」
「……何が」
「何もしない時間」
天井を見る。
「普段さ、なんだかんだで何かしてるじゃん」
「まぁな」
「だから逆にさ」
「こういうのって、ちょっと新鮮」
そう言って、目を閉じる。
静かだ。
音が少ない。
誰も、何も言わない。
ただ時間だけが流れる。
——普通の時間。
こんな状況なのに。
少しだけ、それを感じてしまう。
それが——
少し怖かった。




