ウルフ狩りと好待遇の秘密?
「せいやッ!」
ザシュ!
「次はこっちにいるぞー少し強そうだ」
「いいねぇ。さっきの奴より強い?」
「たぶんそうだな」
赤色がより濃い。つまりより危険という事だ。
「おや?これは珍しいハンターウルフじゃん」
そのウルフは普通のウルフより明らかにサイズ感が違う。目が血走っていて、何より爪や牙にノコギリの横引き用のようなギザギザの突起が出ている。痛そうだ。
「気を付けなよ。こいつはウルフより強いよ」
「ああ、見たらわかるぞ。こいつは俺にやらせてくれよ」
「当然そのつもりだよ」
俺は弱牙を構えて相手の出方を見る。
ハンターウルフは軽く地面を蹴った瞬間に見えなくなった。消えた?がぶぅ!いつの間に横にいたんだ?気が付かなかった。
俺は横に回し蹴りを加えようとしたが、爪が食い込んで痛い。更に振り向いた反動でハンターウルフが距離を取り、俺の腕の肉が抉れた。
「がぁああっ!」
慌ててヒーリングタブレットを口に入れると血が止まり、傷口が塞がったが急に腹が減り、少し力が抜けた。
「うっぐぅ」
歯を食いしばり崩れ落ちそうなのを耐え、ハンターウルフを睨みつけた。
俺の剣は結構長く取り回しが難しい。マルチナイフに持ち替えて武器を構えて姿勢を低くした。ハイドウルフのブーツの力は歩く音を消す力があり、また、足を見えにくくできる。
足音をずらし、ゆらゆらと体を動かして鑑別ルーペを使って左右をちらっと見てハンターウルフの次の行動を予測する。右だ。
半身を右にずらして跳び箱の様にハンターウルフの上に飛び乗り、鬣を掴んでロデオの様に耐える。
そのままナイフを突き立て、キャイン!と犬のような悲鳴を上げ、飛び上がった。その反動で空中に投げ出されたが、弱牙を振って前脚を切り裂き、機動力を奪う。
「ほう?結構やるねぇ。だけどあの赤い飴は気になるねぇ。作ってくれないかな」
外野が呑気に話してるのがちょっとイラっと来たが、今は目の前に集中しよう。
ハンターウルフは前脚を庇い、此方に殺意と敵意を剥き出しにして唸って来た。どうやら俺が切ったのは脚の腱だったらしく力が入っていないんだろうか?
再び俺はじっくり観察して鑑別ルーペを覗き込んで上下左右を見やると、脚を引きずっている左ではなく無事な右の方が緑色だった。
膝を曲げて勢いよく走り出して、ハンターウルフの右前脚に切っ先を向けて手の甲を切り裂いて、怯んだ隙に前脚の腱を両方とも切る。
「せいやぁ!」
と気合を籠めて両手で剣を握ってハンターウルフの首を下から突き刺して仕留める。
「っ( ´ー`)フゥー...あー疲れたー」
とどっかりとその場に座り込んでしまい、そこから動けなかった。
「お疲れさまーはいこれ」
と俺のリュックを背負って持ってきてくれたダイチさんが黄色のポーションを持ってきてくれた。
「これは?」
「スタミナ回復補助のポーション」
「あははーありがとうございます」
素直に受け取って一気にポーションをあおる。う、不味い。酸味とえぐみのバランスが悪い。
何となく体力が早く回復した気がする。
「…へぇ本当にポーション効かないんだ」
知ってたのかよ。
よっと。のっそりと起き上がり、ハンターウルフの解体を始めようとしたら、
「僕も手伝うよ。此奴の討伐証明部位は小指の爪だ」
と言って小指の爪を見て見ると他より黒ずんでいて数日いやというほど見て来たウルフの爪よりどす黒く一目見てわかる。
次に他の爪を見て見るとノコギリの刃の様になっている爪を中心に研がれた刃のような爪があった。ふむふむ。これを利用すれば新しい武器が改造れそうだ。ムフフ。
「おや?新しい武器のアイディアでも浮かんだのかい?」
「…顔に出てたのか?見ないでくれ」
(*ノωノ)と顔を覆った。恥ずかしい。けどこれは帰りに面白いものが出来そうだというニヤニヤ笑いが止まらない。
「じゃあこれなんだけど、解体を手伝う替わりにお願いがあるんだけど」
「っは!そうだった。お願い?言ってみろ」
「このハンターウルフの奥歯を頂戴」
「おう。いいぞというか歯なら俺使わないからいいぞ」
というとやったーと小躍りをし始めた。大の大人が小躍りをするとかちょっとシュール。
そこから簡単に解体を終えて俺のリュックの中に放り込む。鋸爪は新しく改造った右側のポケットの中に入れる。
「さてと。じゃあそろそろ帰ろうか」
まだ夕方になっていないがまあいいだろう。と踵を返して街に戻ろうとしたときに急に草原と森の境から狼の遠吠えが木霊した。
「ッツ!!!」
「この声は!ミラージュウルフ?!珍しいな」
と言っている間にザカザカと草むらをかき分ける音が複数聞こえて来た。
「ここは僕がやろう。君はそこの石の上にでも待っていてくれ」
と手をかざすと空中に穴が開いて目の前にそこそこ大きめの岩が落ちた。
その光景に呆然としているとしびれを切らしたダイチが俺を持ち上げて岩場の上に放り投げた。
「邪魔だよ?!早く」
俺が尻をさすっている間に草むらから濃い霧のような色をしたウルフが複数体出て来た。
そのウルフはダイチを取り囲むとあっという間に全方向から両足両手に噛みついた。っがダイチはそれを物ともせずに剣を持って体をよじってウルフたちを宙に投げ出すと地面の岩を隆起させて慣性の法則で宙に浮かぶと踊るように体を動かし、剣を振るうとウルフが煙の様に姿を消した。
「クロス、君の鑑別ルーペを少し貸してくれないか?直ぐに返す」
と降りるときに俺の座っている岩の目の前に立つと手を差し出してきたので一応貸すと興味深そうに見つめ、ぐるっと周囲を見て回り飛び出した。
それから数秒後、遠くの方からギャイン!という弱弱しくも何とか威勢を保とうとした声が響いた。
そして草むらからズルズルと何かを引きずるような音をしながらダイチが戻って来た。
「たっだいまー。はいこれお土産」
といって白い紫でメヌエット色の毛並みが何ともきれいな狼だ。
「よかったら全部上げるよ。僕はいらないからね」
俺はさっきからずっと気になっていることについて聞いてみることにした。
「なあ。何で俺にそこまでしてくれるんだ?いろんなものをくれたり、狩りを手伝ってくれたり」
と聞いてみるとしばらく考え込んだ振りををして。
「…うーん。そうだなぁ。僕はただ珍しい同郷の子に会ったからーかな?」
といってとぼけたような感じで話し始めたが。何となく嘘な気がした。何故そう思ったのかと聞かれても本当に本能的なものとしか言えない。
「ほら。そんなことより此奴の討伐証明部位は霞眼だよ」
といって指をさしたのは濃い菫色の目玉だった。
目玉を取って、今度はミラージュウルフの耳の裏に付いている毛が固まったような角を二本切り取ってリュックの中に放り込んだ。
「っさてと。帰ろうかークロスくーん」
といって岩の下に魔法陣のようなものが出てきて岩が消えた。
そのまま前を歩いて行く姿と先程の俺を値踏みするような視線に質問に答える間に俺は言い知れぬ不安を感じた。
いきなり魔物紹介。
ハンターウルフ
ウルフ系統の魔物であり、一人での狩猟に長けたウルフ種で、ハイドウルフの亜種。主な進化方法は何らかの要因で一匹になったウルフがソロ狩りに慣れようとして進化した姿。鋸刃のような爪で獲物を切り裂くと自身の匂いを刷り込んで獲物を主張する。更にその傷も治りが遅く放っておくと化膿してしまう。
ハンターウルフは自身の匂いを頼りに逃げた獲物を追い、狩りをする。臭いはたとえ群れる習性がある草食獣でも強制的に一頭だけにする効果もある。
ミラージュウルフ
ハイドウルフの近縁種で、群れから離れたハイドウルフが魔力操作を覚えて『蜃気楼』という魔法が使える様になり、一匹なのにまるで群れがいる様に錯覚させて狩りをする。分身と本体との見分けは初見では不可能。熟練してくると匂いや最悪一瞬だけ質感も再現できる種までいる。




