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居候のアチル




何で……親しい知人もいないらしく、更には泊まるにしても資金もない。

そんな理由で仕方なくこの家に居候することになった。


「…………」


……と、不機嫌マックスな兄オストリアからそう事情を聞かされたエストリアは、



「うーん…」



今、半信半疑な目線でアチルを睨んでいた。


それは明らかなまでに理由含めて見るからに怪しかったからである。

もしかしたら、兄が騙されているのでは? と考えもした。


「………」


しかし、見るからに騙された様子もなく、逆にイライラしている兄オストリア。そして、何よりこちらに未だ笑顔を向けるアチルを交互に見つめ、



「…わかった。ちょっとの間だけだからね」


結果として、エストリアは仕方なく居候を了解するのであった。

とはいえ、唇をモゴモゴさせながら色々言いたいこともある。が…。



ーーーーここでダメというのも、流石に酷すぎると思う、エストリアなのであった。










そして、翌日の早朝。

店の商品でもあるポーションの準備する為、欠伸をつきながら二階のリビングへとやってきたエストリア。

すると、何故かそこには、



「あ、おはよう。エストリアちゃん」



薬品を作る用の鍋を木の棒でグルグルと回す少女、現居候のアチルの姿があるのだった。







「はい、これが私の作ったポーションなんですけど、どうですか?」


アチルが作っていたのはこの店に出すようのポーションだったらしく、ちゃんとうまく出来ているか確認してほしいとアチルは言う。

何で勝手にやってるの? とか諸々言いたい気持ちもあったが、一先ず気持ちを落ち着かせながら、エストリアは目の前に出された瓶に入ったポーションを手に取る。


「………」


色も特別おかしくもなく、また変な臭いもしない。


後は味だけと、エストリアは毒味する仕草で一口ポーションを口に含み、味を確かめた。

ーーーのだが、




「………?」




…不味い。

というわけではない。

だが、それでも一つ。エストリアの作るものと何かが違う。


「……う〜ん」


しばし考え込む様子を見せたエストリアは、そこでふと一つ疑問を確かめるべくアチルに尋ねた。





「アチルさん? 薬草の他に何か入れたりしました?」

「え? …あ。………えーと、ちょっとアレンジで」

「ん? アレンジで?」





変なものでも入れたのか? と睨むエストリア。

対するアチルは愛想笑いを浮かべながら、答えた。



「甘みを足そうかと、果実の葉をちょっと入れたんですよ」



ーーーその言葉通り、エストリアの作るポーションに比べてアチルの作るポーションには甘みがあったのだ。

そして、その言葉に、やっぱり…、と思ったエストリアは溜息をつきながらアチルに視線を向ける。



「アチルさん」

「は、はいっ!」

「……アチルさんが作った回復薬を製法含めてバッチリでした。それこそ店に出せるものだと思います」

「え、それじゃあ!」

「ーーーーだけど、このままだと店に出せないんです」



その言葉に、へ? となるアチル。

対するエストリアは続けて説明を付け足す。



「ポーションは結構シビアな薬で、果実のような葉を足すと、ポーションの保管期限が短くなってしまうんですよ」

「……ほ、保管期限?」

「本来ポーションには二とおりの使いみちがあって、一つは怪我をした際に即使う用と、もう一つはストックとして保管する用があるんです。しかも、予備を十分に用意してからモンスター討伐や旅に出る、そういった魔法使いたちが結構多いんですよ」


直ぐに使う目的で作られた物と、長期を見越して作られた物。

それらの調整が必要とされる、それがこの世界にあるポーションの常識だった。



「だけど、元々期限が十日ほどしか保たないポーションが、これだと数日…頑張っても五日が限度になってしまうんです。しかも、期限が過ぎるとポーションも毒にもなってしまうので十分な注意が必要なんです」

「…な、なるほど」



エストリアの説明に、小さくそう答えるアチル。

だが、その顔には失敗したことに対する反省なのか、凹んだ様子を見せてくる。


流石のエストリアも言いすぎたか、と思い慌てて声を上げ、


「で、でも! 質も含めて味も美味しいですし、全部が失敗というわけではないと思うので、これは今日の店のブレンドティーとした出してもいいと思います!」



だからそこまで気にしないでくださいね!と言うエストリアに対し、アチルはそんな彼女の言葉につられ、


「…はい、ありがとうございます」


そう、言葉を添え微笑むのであった。






そして、それじゃあちょっとこれ別の瓶に詰めてきますね! と言ってリビングから離れていくエストリア。


そんな彼女の後ろ姿を見つめながら、アチルは目を細め、





「……店を切り盛りするって、やっぱり凄く大変だったんですね」



まるで誰かの面影を見ているかのように、人知れず小さな声で、アチルはそう呟くのであった。



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