↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
透明  作者: 文月
第一部 出逢い編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/62

第52話 好きだよ

 

「とりあえず、聞かれたら話すよ。嘘は言いたくないし」

「……案外図太ぇ」

「え、なにそれ、馬鹿にしてる?」


 龍の言葉に目を細めながら、少しだけ笑みをにじませる。


 龍からすれば美崎に脅されても気にしていないところが図太いんだろうけど、ぶっちゃけあれは怖かった。


 腰が抜けなくて良かったと思う。


「できたぁ。食べよー」


 戻って来たみーくんは全員分のコップを手にして笑っていた。


 ナギサちゃんのままごとから解放されたのは昼過ぎで、しっかり伊津子さんに挨拶をしてから龍の家を出た。


 酒田さんは終始ナギサちゃんに付き合わされていて、タキはなぜか虐げられていた。


 ナギサちゃんタキにはドSだ。


 そんなタキを残して車に揺られる帰り道。


 毎度のことながら酒田さんは運転手として酷使されているにもかかわらず、嬉しそうに笑っている。


 今回はナギサちゃんから離れられたから喜んでいるみたいだけれど、いつも笑っているからよく分からない。


 みーくんを筆頭にみんな謎が多すぎる。


「龍ってナギサちゃんにだけあんなに優しいの?」


 気になっていたことを口にしてみーくんを見ると、意味ありげに目を細められた。


「知りたぁい?」

「……別に、そこまで知りたいわけじゃないけど」

「えー」

「残念がるところじゃないと思います」

「りんちゃんが好きって言ったら教えてあーげーるー」

「じゃあ別にいい」

「……っ!」


 我慢したよ。酒田さん今回は我慢したよ。


 どんな進歩だとつい酒田さんに目がいくも、両頬を挟まれてみーくんに戻される。


「龍ってぇ、あんな顔して可愛いものとか小さい物が好きなんだよねぇ」

「ナギサちゃんに限らず?」

「だからぁ、りんちゃんも可愛いって思ってるんじゃなぁい?」

「絶対あり得ないよね」


 龍は態度がまず優しくない。


 あれで私を可愛いと思っているならよっぽど不器用なんだろうと思う。


 しかも半笑いになっているみーくんが冗談を言っているようにしか見えない。


 呆れ顔をした私にみーくんの顔がゆらりと近づく。


 これはあれだ。

 酒田さんが喜ぶパターンだ。


 そう気づいて回避しようとするも、みーくんの左手が後頭部に回ってがっちり捕まえられて避けられなかった。


 ほんの少し顔を傾けて、鼻が当たらないように器用にされたキスは当然のように軽くはない。


 触れて離れるだけにはならなくて、柔らかい唇は私のものと重なり、体温より数度高い舌が口内に入り込んでくる。


 がっついているというより、しなやかに押し込んでいるみーくんの舌は普通の人にはない異物がついている。


 その異物であるピアスを重点的に私に絡めるような行為は、段々と息を苦しくしていく。


 次いで、私に快楽を覚えさせるかのようにみーくんは指先を耳朶に這わせた。


「……無理ッ!」


 ぜぇぜぇ言ってみーくんを押し退けた、その先にあるミラー。


 酒田さんは慌てて目を逸らし見ていない素振りを装った。


「ユリちゃんに言い付けますよ」

「ぶっ……いや、それは、」

「ユリちゃんってどんな子なんですか?」


 酒田さんに責めるような視線を送りながらみーくんの太ももをつねる。


 あんまり脂肪がなくてがっつり掴めないのが残念だけれど、お仕置きくらいにはなるだろう。


「みーくん、次やったら針千本ね」

「刺しちゃう?」

「何で喜んでるのかまったく分からないけど、刺すんじゃなくて飲むんだよ」

「えーヤダなぁ、刺す方がイイ」

「意味が分かりません……」


 私のお腹に腕を回したみーくんは甘えるように肩に頭をのせた。


 くすぐったくて身動ぎしたけれど、引き離すことまでしない辺り私もみーくんに慣れてきたんだろう。


 酒田さんに送って貰って自宅に帰りついた瞬間、言いようのない虚脱感に襲われた。


 疲れてそのままソファーに倒れ込む。


 ああ、眠気が。


 せっせとお風呂を沸かしに行ったみーくんにもはや主夫の影を感じつつ気の回るところを尊敬する。


 ヒモとか向いてそう……なんて失礼なことを考えながら少しだけと言い訳して目を瞑った。


 それを最後に私はいつの間にか夢に落ちていた。


 目が覚めたのは夕方で、起きるなり涎が垂れていないか慌てて口回りを拭ってしまった。


 眠ってしまったらしい事に気づいてふと周りを見ると私の寝室だった。


 みーくんが運んでくれたらしい。


 私が起き上がってもみーくんは目を覚まさなかったらしく、目蓋を閉じて微かな寝息を立てていた。


 みーくんの寝顔はかなりレアだとつい好奇心のままに凝視する。


 ――可愛い。


 起きている時には見られないあどけない表情に思わず笑みが浮かんだ。


 恐る恐る手を伸ばして前髪を撫でてみる。


「……起きてますかー」


 小声でそう言いながら髪を梳くも、返答はなし。


 しっかり寝ていることを確認して寝顔を堪能するべくもう一度横になった。


 みーくんの顔を真正面に、寝転がって近寄る。


 間近になった私とみーくんの距離は起きていては絶対に私からできないものだ。


「白いなぁ……」


 肌の白さと綺麗さに改めて羨ましく思いつつ、みーくんの頬をそっと突き刺した。


 ふに、とへこんだそれに異様なくらいテンションが上がる寝起きの私。


 調子に乗って軽く鼻を摘まんでみても、みーくんは起きる気配が無かった。


 こういうふとした瞬間に、言葉には表せないようなあたたかい気持ちが胸に灯る。


 ああ、幸せだなぁと一人幸福を噛み締めてみーくんの頬を指でなぞった。


「……寝顔は、可愛い」


 無防備な表情はあまり見られないみーくんの素の表情で、どくん、と胸が高鳴った。


 私の、彼氏。私の、恋人。


 あどけなく、無抵抗なみーくんを見て思わずにやけそうになる。


 私だけを見てくれる人。


 そんな人に出会ってお互いが結ばれるなんて思いもしなかった。


「好きだよ」


 つん、と鼻の頭を突いて、起こさないように気を付けながら離れる。


 ――お風呂入って、ご飯作ろう。


 静かに起き上がってベッドから降りた私に小さな笑みが発せられた。


 ……無いとは思わなかった。


 確かに可能性がないとは思ってなかったけれど。


「――かぁわいいなぁ、りんちゃん」


 やっぱり狸寝入りのパターンだ。


「そんな気がした……」

「なぁに?」

「何でもない」


 狸寝入りうますぎる。


 というか、狸寝入りの可能性も考えて慎重に様子を窺ったのに表情一つ動かさないなんてどんな神業。


 寝顔にキスとかしなくて本当に良かった。


「――リン、こっち来い」

「お風呂入ってご飯にしようと思ったんだけどなぁ」

「触りたくて堪んねぇ」

「聞いてるこっちが恥ずかしい……」

「リン」


 そんな切なそうに言われると、やっぱり断れないという。


 渋々ベッドに座った私を迎え入れるようにみーくんが腕を回してくる。


 背中を向けたままベッドに座り、みーくんはその後ろから私を包んだ。


 その手は緩やかにTシャツの裾の下へ入り込み、首筋にみーくんは噛み付いた。


 ――だから、噛むなってば。


 物申すより早く私の身体を這う低体温の手は、言葉を飲み込ませるかのように攻めていく。


「……一回だけにして」

「どう考えても無理だろ」

「あんまり噛まないで」

「それも、無理」


 ちゅ、と小さく音を立てて耳朶を甘噛みしたみーくんは器用にホックを外して私の身体を倒れさせた。


 反対向きから私を見下ろし、みーくんの口許は三日月を描く。


 私の視界は覆い被さった相手によってゆらりと光を失い暗くなった。


 悩ましげな吐息も落ち着き、とりあえずみーくんが満足した後は、余韻に浸るように抱き締められた。


 それから遊ぶように身体を触るみーくんの手の甲をつねり、シーツを引き寄せ顔を隠す。


 ――喰いてぇ、全部。


 終始みーくんから囁かれる言葉は私の耳をこれでもかと攻撃して、終わった後は力尽きたように頭が真っ白になる。


 みーくんはきっと慎み深いと言われる日本人に当てはまらない。


 恥ずかしい単語も何てことないように口にする。


 イタリア人かと言いたくなる直球な愛の囁きは、私にダメージを与えるには充分過ぎた。


 縮こまった私をシーツごと抱き締め額に何度も口付ける。


 髪を耳に掛ける仕草でさえも指先がやさしくて、顔を直視できないのは仕方がないことだと自分に言い聞かせた。


 見たら目がどうにかなる。


 色気がある彼氏というのも困り者で、歌舞伎の女形なんて職業の人はこんな感じの色気があるんだろうかと突拍子もないことを思ったりもする。


「りーんちゃん」

「なに?」

「タキの顔、変わったねぇ」

「……うん?」

「りんちゃんのおかげ」

「みーくん良いとこ取りした癖に……」


 さらりと私とタキの言い合いをまとめ、言いくるめたのはみーくんだ。


 私に頬擦りする年下の彼氏に嫌味を言いながらくすぐったさに身を捩《よじ》る。


「久住もコレで変わるかもねぇ」

「……仲直りは多分、難しいよ」


 そんな簡単なものじゃないからこそ苦しんでいる。


 はい、仲直り、とは行かない複雑な感情を誰しも持て余しているはずだ。


「りんちゃんは『俺の』だって忘れちゃダメだよ?」

「じゃあ、みーくんは『私の』だって忘れないで」

「揉んでイイ?」

「なにを!っていうかどこを!」


 ちゅ、と頬にキスしたみーくんから離れようとするも、そうはさせて貰えない。


「りんちゃんマジでツボる……」


 吐息混じりに呟いたその言葉にたらりと冷や汗が流れそうになる。


 無理、無理だよ。どう考えても続けては無理……!


 ――ブラックアウト。


 視界はみーくんの引き締まった胸板で遮られる。


 連続2回なんてアリ……?


 ━────── •●• ──────━


 龍から電話がきたのはバイトの休憩中だった。


 休憩に入ってから3分と絶妙なタイミングで掛かってきたそれに私はリアルタイムで出ることができたけれど、


 龍は私が出たことが予想外だったらしくしばらく口ごもって話さなかった。


「……なに?言って」

「『……りんごしかいないわけじゃねぇ』」

「いや、どういう意味ですかね?」


 うん?と電話口なのに首を捻ってしまいながら聞き返す。


 龍が私に一体何の用だろうか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。