第18話 幕間 捕獲するべき女
「みっつん! すっげーな、あの女!」
駅構内でうずくまった羽柴充の耳に届いたのは、滝川悟の興奮気味な声だった。
鈴子からの思わぬ反撃に咄嗟に身体が対応できず、急所を的確に狙われたせいで、いまだ立ち上がることができずにいる。
叫び出したい衝動に駆られながらも、充は口元を緩め、悪どい笑みをにじませた。
――予想以上に面白い女。
柏木鈴子は、充にとって『捕獲』するべき対象だった。
都波と『休戦協定』なんて煩わしいものを交わしてさえいなければ、こんな面倒な要請に応えたりはしなかった。
それだけでなく、珍しく龍が充に指示してきたこともあり、渋々ながら柏木鈴子の身柄を拘束することに決めた。
奇襲をかけたくせに、妹可愛さに責任を逃れたタツヤは、柏木鈴子を代わりに差し出した。素性もあっけなく話し、しまいには住所まで明かした。
恋人関係だったというキョーヘイも、光渦で名の売れた充に終始怯えていた。聞けば何でも話し、柏木鈴子の生活を次々と語っていく。
どうせやるなら、いち早く捕まえて都波に恩を売っておくのもいいかもしれない。
打算的な考えで動き始めた充に、死角はなかった。
話を聞いたその日のうちに勤務先で待ち伏せし、さらうつもりだった。ところが、キョーヘイから聞いた人物像とはかけ離れた態度に、充は疑問を抱く。
本人でなければ問題になる。
そう考えて会話を交わしていくうちに、1つの好奇心が湧き上がる。
――この女、ねじ伏せてやりてぇ。
強気な物言いに、強い警戒心。
充の好奇心をくすぐるには、十分だった。
最初は警戒心を薄れさせるためだけに愛想よく接して、後々、自分好みにすればいい。
人との付き合いを軽く考えがちだった充にとって、柏木鈴子は『遊び』のつもりだった。
少なくとも、付き合って3日目までは。
柏木鈴子はずるい。
無防備に見えて、そうではない。人との距離には、妙に慎重だった。
充と距離を縮めてみせたと思ったら、次の瞬間には、手のひらを返したように冷たくなる。
はにかんだ笑みを見せたと思ったら、頑なに難しい顔をして、自分を視界から除外する。
とんでもないビックリ箱を見つけたような感覚で、充はみるみる間に柏木鈴子へはまっていった。
――柏木鈴子はずるい。
踏み込ませたと思ったら、拒絶して突き放す。
それでも――
「……すげぇ、癖になる女」
なぜか離れられなくなる。




