『決死の覚悟と撤退』
風魔法使いは呻き声ひとつ上げずに即死した。
勢いがそのまま死なず、マックスは風魔法使いの死体と共に地面に激突した。
「ぐあっ!!」
右腕は折れ、肩が外れ、指は変な方向向いている。
鎖骨や右膝も深刻なダメージを負ってしまったが、
「ぐぅぅ!」
マックスは身体の痛みと共に生の実感を感じていた。
「ヒーラー!マックスの手当を!!急げ!!」
アインがヒーラーを呼ぶ。
傭兵部隊も森の陰から姿を現し、マックスを慎重に運んだ。
マックスを医療用天幕に運んだ後、再び地響きが鳴る。
第二陣だ。
全員、第一陣で死力を振り絞り、頼りのマックスも大怪我。
全滅。
その言葉が全員の脳裏に浮かんだ。
アインは一言だけ発した。
「皆……ここで共に散ろう」
諦めの言葉だった。
だが、
「おおおおおおおお!!」
と全員気合いを絞り出した。
「来い!1人でも道連れにしてやる!」
「皆殺しだー!!」
アインも石槍を取った。
最期を決めると
「ぶっ殺せ!!!」
感情を込めた号令をかけた。
魔王軍の影が見え始めた頃。
大盾部隊も大盾を捨て棍棒や石槍、木剣を構えた。
かかれ!と号令を出す前に左右の森から石槍の突撃兵が魔王軍を蹴散らした。
「え?」
と全員思った。
全員が全員忘れていた。
増援が来ることを
増援の部隊長は
「かかれー!!」
と鋭い声で号令をかける。
魔王軍も第一陣が帰って来ないという不安から送られた第二陣だったが為に精神的にもこの奇襲は効いた。
第二陣は容易くも蹴散らされ散り散りに逃げて行く。
第二陣を追い払うと増援の部隊長は、アインの元に駆け寄って来た。
「お待たせいたしました!増援部隊の部隊長ハンスです!」
と王国の敬礼をした。
アインは眼前で起きた奇跡にしばし呆然とし、ハンス部隊長の顔を眺めた。
(歳は俺より若そう。気品がある)
しばらくすると我に返り
「ハンス部隊長、お待ちしておりました!いやぁ、助かったよー」
「いえ、遅くなり申し訳ございません!」
「うちのエースも大怪我してね。今決死の突撃をしようとしてたよ」
張り詰めた空気が解れた為か、アインはいつもの調子に戻った。
「この先の魔王軍も撤退したようです。帰還命令も下っています。事後処理は私たちが引き継ぎます」
「ありがとう。じゃあ俺たちは街まで退避するよ」
「では」
ハンス部隊長は自分の部隊の指揮に向かった。
「とりあえず皆!お疲れ様!休息を取ったら帰るぞ!」
部隊から歓声が上がる。
「生きて帰れる!」
「王国軍万歳!」
「美味い飯が食いてえ!」
アインは残った部隊の嬉しそうな顔に頬を緩めた。
◇
「マックス、よくやった」
マックスは集中治療用の天幕で治療を受けていた。
「魔王軍は?」
「撤退したよ」
「そうか」
「俺らも撤退だ」
「街までか?」
「ああ、そうだ。さっさと治せ」
「てめぇ、こき使っておきながら……」
「ははは、ともあれよくやったよ」
「先に逝ったアイツらもな」
「……そうだな」
アインの部隊は休息を取り、残っている遺体を簡易ではあるが埋葬した。
「風のあいつ……名前も知らなかったな」
「ああ、体が千切れても、勝利に貢献した」
「いい風だったぜ。相棒」
マックスは名も無き傭兵に冥福を祈った。




