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逃亡ー6

日の出と同時に戦が始まり、シンが指摘した通りの戦法が繰り広げられた。

ブリランカ渓谷のウェルビー辺境伯領地側の上はテーブル上の平地になっており、2基の投擲機と山積みの石が5か所、それぞれ40箇所も有った。

ウェルビー辺境伯軍の投擲機は移動が簡単で、石の山へ次々移動することが出来る様に工夫が施してある。

それに弓など遠距離攻撃を意識した微妙な位置取りのため、弓や投擲機が全く役に立たない事が開戦後しばらくして知る事になった。


一方でウェルビー現脅迫軍は投擲の効果を最大限に発揮するために、着弾点を投擲部隊に知らせる監視要員を崖の真上に配置していた。

これには、さすがの勇者も見えない投擲機から次々と放たれた石は、上空70メートル以上から落下すると威力も破壊力も桁違いで、密集するエルシャー・ガス軍の陣幕を次々に直撃している。

直後に兵士の悲鳴が延々と谷間に木霊する、それは絶景の渓谷美とは似つかわしくない地獄が始まっていた。


エリの火魔法も範囲外、ジュンジの弓もギリ届く程度で、爆破の威力も非常に小さいし、ウェルビー軍の所在が分からないのだ。


良いようにやられる中でジュウイチはガス兵士に直接命令を出し、登りやすい崖を登らせるが、そこはウェルビー辺境伯軍に行動を見透かされ、岩や礫の投擲から弓に火魔法に続き、散々な結果で何度も撤退を繰り返した。


間断なく投擲機から放たれる石はガス帝国本陣と勇者の陣も等しく攻撃を受け、大惨事になっていた。

「何だぁ、この卑怯な戦法は。

あぁ~これじゃ、俺様の活躍が無いまま負けて終わるのか」と、崖に向かって怒鳴った。


近くに居るガス兵に、ジュウイチは上流に布陣している囮軍と監視のガス兵を呼び戻させた。


素人の寄せ集めが大半のオルブライト公爵軍は然に善戦していたが、囮の軍が後退する動きを千載一遇の好機と判断したオルブライト公爵軍は、なけなしの騎兵を中心に全軍で追撃を開始した。

ジュウイチの思い付きでエルシャー軍中心の囮軍に、オルブライト公爵軍が釣れた。

これが勝負の分かれ目になった。


味方の後退に合わせ大群が迫っている事を知った槍の勇者シンと大剣の勇者カスミは、溜まったストレス発散に大いに頑張った。


結果はほぼ槍の勇者一人によって昼過ぎにはオルブライト公爵軍は全滅させられた。

真下でオルブライト公爵軍が負ける様子を見るウェルビー辺境伯軍内部に動揺が静かに広がり、これまで上手くいっていた作戦、特にマナポーションなどの補給品に幾つか綻びが出始めた。


初めは軽いミスにはじまり、次第に疲労と魔力枯渇の症状が続き、ウェルビー辺境伯軍の抵抗が一時的に弱まると、絶好の好機と捉えたジュウイチが先頭に立って、何度目かの崖登り始めた。


ベルナーウェルビー辺境伯はオルブライト公爵軍の背後に自慢の精鋭騎士団を上流側から回り込まれることを考慮して、二手に分けたため主力が不在が敗因になった。


投擲機の移動中で無防備な所を突かれた。

投擲用の石も矢も尽き丸腰の投擲機補助兵に勇者の相手にはならなかった。

ジュウイチは一旦上崖を登りきると、これまでの溜まりに溜まったフラストレーションの発散とばかりに大暴れして、普段よりも一層狂暴になった。

単独でウェルビー辺境伯軍の陣に突撃し、傍にいた女魔法使いをウェルビー辺境伯の目の前で切り刻みミンチにして、辺境伯直ぐ傍にいた年若い女は気絶させた。


驚くウェルビー辺境伯の首を飛ばし、返す刀で、傍使いの騎士を横なぎ一閃で輪切りにした。


気絶させた少女をその場で裸にしてみると、フィリスとよく似ていたが、肖像画で見たフィリスの華やかさと印象が違い過ぎて、同行した帝国の指揮官に聞くと姉がいるというので、娘の処遇は指揮官に任せた。


姉を間近で見たため、増々フィリスへの欲求が抑えきれなくなった剣の勇者ジュウイチは、ガス・エルシャー連合軍の勝利を確信すると、エルシャー王国軍に同行する形で、3個小隊のガス兵を連れて、ウェルビー辺境伯領へやって来た。



意識が混濁する中で、それが大間違いであったと悟ったが既に手遅れだった。

辺境伯邸に入ってすぐに、室内の異常さに何となく気が付いたが、それでもフィリスを我が物にする、それが最優先された。

手に入れると、すぐに邸を出る心算が、見つからないばかりか探させる兵も何時の間にか行く方が知れなくなる。


将軍と隊長には厳しい態度で接するが、内心はビビった。

壁や窓一つとっても異常さがヒシヒシと伝わってくる、この理解不能な恐怖感は離れない。


これまで見慣れた肖像画の多さ、それぞれが表情が美しく魅力的に見えたが、今では気味悪く見える。

そんな時にエリが後ろにかかる一際大きい肖像画に向けて火魔法を放った。

恐らくは軽い気持ちで燃やそうとしたのかも知れないが、それが引き金となって、静かにしかも素早く大広間の扉が自動で閉まった。


直感がまずい事態と告げてきた。

これまでも直感が外れて事は無かったから、一大事と思いエリを抱えて転移魔法を唱えた。

魔法は確かに発動するのだが、肝心な最期の所が何かにかき消されてしまう、見えない何かが邪魔をしているのは確かだ。

シンが言っていたが、ウェルビー辺境伯軍は何処か異質で次々と繰り出される策の容赦なさが真田幸村を連想させると。

魔法がダメなら物理だと、聖剣で壁や窓を扉を切りつけても、傷一つ付かない。

帝国近衛が付けるオリハルコン製の鎧でもステーキ肉の様に切れる聖剣が、この扉も窓もビクともしない。

苦し紛れに振るった一撃で頼りの聖剣は折れてしまった。


抱えているエリはその可愛い顔は目が飛び出て爛れ破れた皮膚がが垂れ気味悪くなるし、それは俺もだと顔の皮膚が激しく痛み実感できた。


意識が薄れる時に見たフィリス嬢が哀れみの笑顔を向けている様に見えた。

その後は静かな闇に包まれ意識が無くなった。

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