逃亡ー5
秘密の会議から凡そ2か月後にガス・エルシャー合同軍は、総大将ネビン将軍の指揮の下に今回戦場となるブリランカ渓谷へ来ていた。
渓谷を流れるキナート渓流がウェルビー辺境伯領とエルシャー王国との一応の国境となっている。
開けた渓谷は、遠くエルシャー王国側に見える雪山と手前に深い針葉樹の森と背の低い草の中を流れる豪快に流れるキナート渓流は、急瀬と広い渕を繰り返す絶景だ。
一方ウェルビー辺境伯領側は赤茶けた巨岩が点在する深い段丘地形の荒野に変わる。
理想とする一等地に陣を張り終えた頃「ネビン将軍、勇者が苦情を入れていますが」と、将軍付き供回りの兵が報告に来た。
「勇者?確か少々腕が立つ素人と聞いたが、無視でよかろう」と、老将軍ネビンは若造の戯言と一応話は聞いたが実行しない頑固者だった。
ネビン将軍はエルシャー王国側から聞いた渓谷唯一のだだっ広い平原に陣を張るよう指示し、実際一日で完成させていた。
ネビン将軍の目的は、ウェルビー領は勿論あわよくば、その後方のオルブライト領も手に入れるための長期戦を視野に入れ大軍を賄う水の確保を最優先した布陣に、勇者の不満は素人の戯言にしか聞こえなかったのだ。
陣を張り終えたその直後に素人から再度の苦情に少しだけ不快感を表した。
その頃勇者の陣内では「何でだよ、寄りにも寄ってなんでここに陣を張るかな、もう。
指揮官って馬鹿なの、きっと大馬鹿者だよ」と、槍の勇者シンが不満を言い、周りに当たり散らしていた。
「何だ、一体何が不満なんだ、シンは」
「それがジュウイチ君聞いて下さいよ。
彼奴等戦の事をまるで分かっちゃいませんよ。
これじゃ、毎回良い様にやられる分けだ。
陣は周りよりも高い所へ張るのは常識でしょうに」
「へぇ、そうなのか」と、ジュウイチが呆れ気味に言う。
「まっ良いさ、いざとなれば俺の弓が火を噴くからな」と、弓の勇者が根拠のない事を言い周りを兵を納得させた。
「そう言えばカスミ、お前最近太ってないか?
特にウエスト辺りが」
「なっ、なに言ってんのよ。
そんな分けあるはず無いから」と、顔を赤らめる大剣の勇者カスミ。
「ウチはその辺十分気を付けているけど、う~ん、太くなった?カスミンは」と、エリがカスミのむき出しのウエストを摘まんだ。
「チョットやめなさいよ、本当に防御力が有るのか、この恥ずかしい装備、これってまるで痴女じゃん。
だから嫌いなのに。
こういうの着るのは、エリじゃないの」
「ジュウイチもジュンジも良い目の保養になるんじゃないの。
カスミンはもっとこう胸を突き出し谷間を強調してサービスしなさいよ」と、エリが悩殺ポーズを要求して見せる。
雲の上のような所でおじさんが話したように本当に急だったんだと思うと本当に悔しいとカスミは思った。
あの場で見せられると、この痴女仕様の鎧に抗議できたが、届いたのが翌日の明け方だった。
「僕はおっぱいが大きいナオコさんが良いな」と、自ら言い赤面するシンだ。
「へぇお前、あんな堅物が良いのかよ。
そう言えば、なんで彼奴は来なかったんだ。
今から楽しくなるのによぉ」
「じゃぁジュウイチの好みは」とエリに聞かれ「俺は好みというよりも、今はフィリスをこの目で見てみたい。
見てからその後の事は決めたい」
「へぇ~、まっ肖像画のままだと確かに凄い美人さんだけどね」
「おい、急に黙り込んでどうした」と、ジュウイチから聞かれ「僕は此処へ陣を張るのはやはりまずいと思うんですよ。
渓谷の上から投擲機を使われると全滅するかも」と、シンが心配を口にした。
「だから、俺の弓が火を噴くんだよ」と、ジュンジがシンの肩に手をかけて言う。
「確かにジュンジ君の聖弓は強力だけど、投擲機の数には勝てないんじゃないの」
シンの指摘した通り、密かにウェルビー側の段丘地形の上には全投擲部隊2個師団揃えたウェルビー辺境伯軍が布陣していた。
今回は投擲機の数よりも、使う石を重視した構成で、補助員も含めると
辺境軍の5000人が関わる。
その布陣を勇者たちが知るのは戦が始まってからになった。
ガス帝国軍援護に1万のエルシャー王国軍が周囲を守るよう布陣し、残る2万のエルシャー軍は囮として、勇者がいるガス帝国軍本体から凡そ4キロ離れた渓谷の平原が狭くなる地点で、オルブライト公爵軍と対峙していた。




