逃亡-2
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「ねぇフー、皆でお祝いしようよ」
「スー、悪いが今はそんな気分じゃない」
その夜遅くに父さんが俺の部屋に入って来た。
「ほぉぉ、久しぶりに来てみると、これはこれは。
フィリップよ、お前はついに一端の令嬢になったな」と、喜ぶ父に「ごめんなさい、父さん本当にごめんなさい」謝り、また涙が溢れだし両の頬を伝い流れはじめ大粒の雫が床に敷いてある薄ピンク色のジュータンにシミを作った。
「謝りたいのは私の方だよ、フィリップ」
何時の間にか俺の部屋に母さんも姉さんも居た。
「そうよフィリップ、あなたは私たちに反発する事もなく、よく言いつけを聞いてくれました」
「もうぉ男でしょうフィリップは、めそめそしてみっとも無いでしょう」
「フィリップは今から私の言うことをよく聞いて、それを実践してほしい。
ルーベリー」
「はい旦那様、持ってまいりました」
「うん、これだ」
俺には訳が分からない。。。
「こっちへ来て私の話す事よく聞きなさい。
これから話すことは、家の事は言うに及ばず領民を守るための大切な事だからな」
父さんのこれまで見た事がない厳しい表情にたじろいだが、言われるままに少女らしい可愛い飾りの付いたテーブルを前にして父さんと向かい合った。
「母さん、何から話そうか」
「初めはその女装からじゃないでしょうか」
「うむ、そうだな」と言い父さんは腕を組んで目を瞑った。
それからしばらくして、目を瞑ったままで「お前に女装をさせてきた事は、本当に済まないと思う、謝っておこう。
本当に済まないことをした」と、言い父さんが俺の様なおかしな半子供に頭を下げた。
直ぐ近くで見ると、父さんは銀髪なのでぱっと見ではわからないが、ずい分白髪があった。
「父さん頭を上げてください。
父さんはウェルビー家の当主です、謝らないでください。
何か事情があるのでしょう。
私は結構気に入っているのですから。
でも、父さんから剣を習いたかったという気持ちも少しだけありますが」
「だがな、お前にこの家を守ってもらうには、女装が一番と母さんとルーベリーと考えた最善の策だ。
私は家もだがベルステン王国をガス帝国から守るには、勿論強い軍は欠かせない。
デレク・ジョーンズ騎士率いる我が家自慢の精鋭は、皆が一騎当千の強者揃いで、帝国にも恐れられているが、本気で帝国が攻めてくると数に押されると勝ち目はないだろう。
それで私が考えたのは知略だよ。
今は勇者を召喚しているが、あ奴らが今回出てくると困りものだ。
今迄も色々な策でエルシャーを退けてきたが、エルシャーを併呑したガスが出てくると援軍の公爵軍と時間稼ぎをしても王国軍がどんなに急いでも間に合わないだろう」
「そうよね、母さんはこれでも昔は王国軍筆頭魔術師だったのよ。
攻撃魔法も治癒も出来るし、フィリップ凄いでしょう」と、何時もよりも明るく話した。
「ルーベリーは世に知られていないが天才錬金術師だが、少し変わっているが大いに頼りになる」と、父さんが言い、ルーベリーから受け取った巻紙を少女趣味全開のピンク色の可愛い飾りがついたテーブルに拡げたら、テーブルから端の方がはみ出た。
巻紙の両端に置く熊と花の置物が可愛く場違いだった。
「この屋敷にはルーベリーが張り巡らした罠が詰まっている。
どれもが非常に凶悪なものだから、ルーベリーの説明をよく聞き、いざという時は必ず実践しなさい」
「初めに女装の件だが、親の贔屓目でなくても、お前は本当に美しい。
お前の姿を領内に入り込んでいるエルシャーの奴らに度々見せてきたからな。
密偵の報告によると、エルシャー国内でもお前の噂は十分広まっているぞ。
だから万が一の時お前はこれを使え」と、父さんから腕輪を渡された。
これは、ルーベリーが開発した豪華な魔具の腕輪だと渡された。
「ルーベリーよ」
「はい、ではフリップ様にご説明します。
この腕輪はこれからは常時身に付けてください。
右でも左の腕でも何方でも構いません。
不自由を感じない方に装着してください。
途中で替えても効果は持続しますから。
効能は、髪の色と眉を腕輪の宝石に触ることによって変えることが出来ますし、さらに、髪型を変えることが出来ますから、女装にも男装にも最適です。
ルーベリーの説明で実際に赤色の宝石触ってみたところ、よく見る赤髪のフィリップになった。
その姿に皆は驚いたが、ルーベリーだけは苦笑していた。
その時の俺は全裸だった。
慌てても一度宝石に触ると、おぉ~と、声が漏れた。
壁の姿見で見ると、これまでの銀髪が夕日を浴びた小麦畑を連想する黄金色の髪は、背中まで伸び緩くウェーブが掛かった姿に、つい先ほどまで着ていたドレスが見劣りしてしまった。
「大変失礼しました、フィリップ様はこれからは男物の衣服と靴一式用意してアイテムボックスに入れてください」
「一つ聞いてもいい?
これ、元の姿に戻らないの」
「それは、宝石の反対側にある、黒い石に触ってください」
またおぉ~と声がし、「私こっちが良い」と姉が言った。
「次に御屋敷の方は、まず大広間や廊下、食堂にある全ての肖像画ですが、乱暴に扱うと無色の強力な糜爛性の毒ガスが出ます。
致死性が非常に高く、一瞬でもガスに当たるだけで、皮膚が爛れ無残な姿に変わり死に至らしめます。
フィリップ様、いやフィリス様の肖像画は大小が御屋敷の彼方此方に配置されているのはそのためです。
このガスは数時間で効果が無くなりますから、ご安心ください。
次に宝物庫の扉に侵入者が触ると、同時に大広間迄が即座に密閉されます。
各部屋に通じる扉は開けませんし、勿論天井も窓もです。
此処は空気よりも重い特別なガスが出るので、不埒者は皮膚が爛れ窒息死するでしょうね。
こちらに関しては二~三日は効果が持続しますから、注意してください。
後は。。。そそう、凡そ200日間は夜になると霞が邸の外に発生し、その中にフィリスお嬢様が浮かび上がるように調整しています。
所謂呪いの演出ですが、時間的に声までは無理でした。
地下倉庫とは別の、此処です」と、示された大広間すぐ横の地下に秘密の部屋。
「此処は一度入ると外からは絶対に開きませんから、万が一の時はこちらへ避難してください。
アマンダさんと軽く3か月は生活できるように水、食糧は既に保管済みです」
「姉さんは」
「私は父さんと母さんに付いて戦場に出るのよ。
既に初陣は済ませているしね。
これでも結構強いのよ」と笑っている我が姉。
「使用人は?」
「公爵家が面倒を見てくれるから安心しなさい」
「父さん、今度ばかりは勝てないんだ」
「まぁ戦は時の運だ。
今迄負けた事がないから。。。」と、言う父さんの後に続く言葉が悲しく、元気づける言葉が見つからなかった。
父さんは俺の頬を両手で掴み暫く見ていたが「デレクから聞いているぞ。
お前、ハーレムを作るらしいな。
良いことだ、ウェルビー家の血を絶やすなよ。
頼んだぞ」と言われ、手を振り払おうとすると、さらに手を伸ばして俺の頭をわしゃわしゃと乱暴に撫でたが、普段の父さんは絶対にしない行為だ。
「まぁハーレムですか、期待していますよ」笑う母さんは無理しているのがよく分かる、妙に明るい。
「ハーレムと言えば、酒池肉林もだね。
フィリスちゃん、頑張りなさいよ」姉がひやかす。
父のハーレム話を聞いてルーベリーは女装姿の俺を見て呆れている。
それが最後の家族団らんの会話になった。
それらは今でもよく覚えている、生涯忘れる事はないだろう。
あくる日からは戦支度は佳境に入り、よりあわただしくなり一か月があっという間に過ぎて、ルーベリーが最後の執事の仕事、父さんの言うことを聞かず残る使用人を無理やり追い出して、ウェルビー辺境伯軍の後を追い戦場に向かった。
俺は無人になった邸の各門の設錠を点検して回り、ルーベリーから聞いた邸の秘密をアマンダに説明して各倉庫を探検して時が過ぎていった。
オルブライト公爵の大軍が戦場へ向かうため領都を通過して凡そ10日が過ぎた頃、邸の各門で同時に異常が発生した。
ガス・エルシャー連合軍が遂に邸に侵入したのだ。
俺とアマンダはアマンダ主導の訓練どおりに、秘密の地下部屋に逃げ込んだ。
そこで初めて分かったことは、地下なのに上に居る兵士の会話が明瞭に聞き取れるので、見つかると思い二人とも初めの内は緊張した。
そこで父さん達ウェルビー辺境伯軍もオルブライト公爵軍も負けた事を知った。
心の何処かで父さん達ウェルビー軍は絶対に負けない、上の会話は俺達を誘き寄せるための嘘だと思いたいが、召喚した勇者の参戦と公爵軍の独断専行が敗因と分かった。
辺境伯家の者としての責任でアマンダを慰める心算が、逆にアマンダに慰められ、俺はアマンダに抱き寄せられてアマンダの胸で大泣いたし、後悔した。
もっともっと出来る事が有ったはずだと思うと、悔しさも後悔も有り、心の中で父さん母さんの名を何度も何度も呼び、そして涙を流す。
アマンダは心配そうに、その度に俺を優しく抱き寄せて慰めてくれた。
アマンダも両親を失っているのにと思うと、本当に情けなく自分が嫌になった。
アマンダには悪いがこのまま消えてしまいたいと。
二日後に姉さんも死んだことが上の兵達の自慢話の中で知った。
姉さんは全裸にされ大勢の兵士に犯され発狂し、最後はエルシャー雑兵達のの槍で全身を串刺しにされたと知った。
兵士達が話す残酷な自慢話を聞いて何も考えられなくなり、頭の中は復習で満たされ、今直ぐ此処から出て兵を殺したい、皆殺しにしたいと無意識に行動に出た。
気が付くと俺の行動をアマンダが泣きながら必死で止めていた。
「フィリップ、ダメよ、今は絶対に出させない。
我慢して、私もあの国は絶対に許さないから、一緒に敵を討とう。
けど、それは今じゃない、私もフィリップも強くないから」と、俺が逆上すると繰り返し繰り返し諭してくれた。
それから何日かが過ぎて、乱暴に大広間の扉が開く音がした、これは初めて聞く音だった。
俺は直感で召喚された勇者が来たと知ったが、兵士の会話で間違いなかった。




