逃亡-1
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体を揺すられ目を開けると、目の直ぐ前にアマンダの美しい顔があった。
「泣かせてしまってごめんね、フー。
でもね、あの時は周りに人が多すぎて詳しく言えなかったけど、もうフーに危険な仕事はして欲しくないんだ」
「そうよ、フー。
フーのおかげで私たちは皆がゴールドクラスの冒険者になれたから、これからは私たちに任せてよ」とスーが言う。
「フーが僕たちを手伝っててくれたんだから、もう無理はして欲しくないんだ。
他意はないのだから、お願い」とメイが言う。
ベルステン王国の西側には広大な黒い森と呼ばれる、どこの国にも属さない広大な森がある。
そこは強い魔物が跋扈する危険な森で、隣接するカルフーン辺境伯家からすると特級の危険地帯である。
しかし、実力のある一握りの冒険者からすると、王国内にある幾つかの未踏破のダンジョンよりも遥かに実入りが多い。
セイトフォーはこれ迄のダンジョンから黒い森に活動の場を替えると、アマンダが昨日話していた。
メンバーは賛成し俺だけ反対したからか。
まぁ、俺のスキルは、ダンジョンのような狭い場所ではそこそこ有効でも、開けた黒い森のような所では使い所が殆ど無い事は自分自身がよく分かってはいる。
「ねぇフー、聞いてる、聞いているなら返事してよ」と、誰かが言っている。
幼い時から俺は周りの大人からすると常識外れだった。
先ずは俺の容姿なんだが、誰が見ても女に見えてそれは今でも同じで、胸が無い分超美人に見えるとアマンダが何故か自慢気に感想を話してくれてた。
なぜ自慢するのか知らないのだが、俺に言わせるとアマンダの方が綺麗で豊かな胸があり美人だと思うのだが。
幼いころは母親や姉からフーはこれを着なさいと、姉とは少し違うワンピースタイプの服、所謂貴族の子女が着るドレスを着るように言わていた。
母も姉も家の使用人からも女装が好評で褒められるから、俺もそれが嫌ではなかった。
俺の家は領地は狭いが一応辺境伯位を国王から賜っていた。
我が家、ウェルビー辺境伯領の後ろに何故か広大なオルブライト公爵領が何時の間にかできていたが、当時子供の俺に政治は分からない。
俺が知る常識は、公爵家は王城の中に居るものだ。
父さんは俺に剣術を教える心算はなく剣術の話をする度に、姉の所作を真似ろと厳しく言われていたが、それが今は大いに役に立った。
俺が成人するまでは男装は禁止され、遊び相手は姉の他は筆頭騎士の娘、アマンダだけだった。
決して俺の周りに男子が居なかったわけではない。
ある時アマンダが俺に問うたことがあった。
「ねぇフィリップ、あなたは将来どんな領主になりたいの」
「私はお父さんのよな立派な騎士になって、フィリップの傍に何時までも居たいから教えてよ」
アマンダに突然問われ俺は女装の反動でか、父がオルブライト公爵の話をしているのを聞いていたので、俺はよく分からないままに「私はオルブライト公爵の様にハーレムを作り、酒池肉林をやってみたいんだ。
どうぉ、凄いでしょうアマンダ」
俺の答えを聞いたアマンダはずっと悲しそうな顔をしたが、俺の部屋に戻ると直ぐに笑顔に変え「そうなんだ。
じゃあね、私がフィリップのハーレム要員を見つけてあげるよ、絶対の絶対だからぁ~、約束よ!」と力強く俺にではなく部屋の壁に宣言した。
そのハーレム要員が今の冒険者パーティーのメンバーなのだ。
「ねぇフーさん聞いていますか」、今度はアリスが何か言っている。
戦の支度に忙しい最中、成人した翌日に私とアマンダは、毎年わが家に馬鹿高い金を要請するだけの教会に、女装のまま連れて行かれた。
ついこの前も、父さんからは成人後は女装に必要はないと、言われていたから本当に不思議だった。
月に一度教会で神様から職の授与式がある。
教会で大神ヴェルム像に祈ると神父を経由して大神ヴェルムから職業を知らされる。
この儀式が済むと世間的には一応成人とみなされる。
昼前に俺たちの番がきて、緊張の中でアマンダが先に呼ばれた。
初めに大神ヴェルム像の前で跪いて待っていると、祈っていた神父が良い笑顔で「おめでとう、アマンダは魔剣士です」と宣言すると、アマンダの目の前に半透明の赤色の職業本に魔剣士で取得できるスキルの一覧が出た。
俺にはよく分からないが、上手く成長すると敵国ガス帝国で召喚された勇者とほぼ同等なのだと、アマンダの後ろでスキルを見ていた神父が微笑み話すと、歓声が会場の彼方此方からあがった。
そして、昼前最後に俺の番が来た。
俺もアマンダに倣って大神ヴェルム像の前に跪き両手を胸の前で組んで目を瞑った。
そして、長く待たされ、緊張の時間に耐え切れなくなった俺は、神父の方に振り返った。
神父は冷や汗をかき困惑し発した言葉は、「フィリス嬢の職業もスキルも分からない」と。
「おい、それはどぅ言うことだ、御領主様を舐めているのか」の誰かの一言がきっかけで罵声起きて、教会内は大騒ぎになった。
「皆、静まれ!」と、父さんの一喝で静かになったが、皆の無言の圧力に負けた神父がしぶしぶ話した。
「済まない、本当にさっぱり分からないのだ。
一瞬おかしな文様の様な物が現われたが、それが直ぐに消えたのだ、本当に済まない」と。
「済まない」は俺への謝罪と思ったが少し違っていたようだ。
それを聞いた俺は半透明の職業本を念じたら、これまで色々な色の半透明な職業本を見ていたが、何も出てこなかった。
俺は女が泣くように、両手で顔を隠し声を殺して泣いていた。
俺は直ぐにアマンダに付き添われて、家族のいる席に戻ったが、「父さんごめんなさい」と言うのが精一杯で、帰りの馬車の中で下を向いたまま泣いた。
今起きている事が出来る事なら無かった事は無理でも、父さんを失望させた俺は消えてしまいたいと、心の底から思ったし、その時から大神ヴェルムに本気で願った。
帰ってもその願いは続き、部屋に閉じこもって、泣きながら尚も何度も何度も呪文のように繰り返し願った、消えてしまいたいと。




