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逃亡ー12

震えるフランソワを何とか落ち着かせて、俺は外の様子を見に入り口を塞いだ破片を登り隙間から外の様子を見た。


夕日を背にした逆光の中で槍を持った者と弓を持った者の黒いシルエットが見えた。

弓の勇者の実力を俺は思い知った。

アレ等が相手なら、父さんたちが勝てなかったことに納得できたし、アリスの弓も、あの距離から大岩を砕くほどの威力はまず出せない。

全力ではないと思われる、想像をはるかに超えた桁違いの破壊力、世界最強は伊達ではないのがよく分かった。


破壊された岩から向こうの尾根を注視したが、勇者は諦めたように尾根を引き返したのか姿が見えなくなった。


洞窟入口近くの薄暗くなった空間で食事にした。

俺が用意したのは、干し肉と固いパンと水だ。

俺の邸から持ち出した食料は、俺の身分が知れると思い、警戒するのだが、まさか今度の旅で冒険者定番の食事を食べる羽目になるとは思わなかった。


「フランソワの口に合わないかもしれないが、無いよりましと思い食べてくれ」と、言いフランソワに勧めた。


そのフランソワは、珍しそうに見ていたが、薄い干し肉を筋に沿って小さく千切って口に入れた。

「あの、このお肉は少々塩気が強すぎるように感じますが、そのための水なのですね」と、勝手に良い方に解釈して美味しそうに食べて、指に着いた脂分を用意した水で洗っていた。


固いパンを手で千切ろうとして困惑した。

その水はフィンガーボールのつもりで用意したわけではないのだが。。。。


「その何と言っていいのか、私くしの力では千切れませんわ。

フー様、これからする事は見なかったことにしてくださいませ」と言うや、フランソワは大口でパンにかぶり付き、両手でパンをつかみ千切って見せた。

その困難を達成した時のような良い笑顔を向けてくるから、何と反応したものか困った。

そういう時は笑顔だと思い、声に出してハハッと、小さく笑った。


変わったお嬢様だ、俺の姉とは大違いだ。

と、惨い殺され方をした姉の事を思い出すと、自然に涙が零れ落ちた。


「下品で本当に申し訳ないですわ、この通りです」と、勘違いして謝罪してくる、その素直さに好感が持てる。

見るとフランソワの特に踝の辺りは、裸で歩いたために、草で其処ら中が切れていた。

今は粗方血が止まっているので、この場にスーが居てくれたらと思った。


夕食が終わり、これから夜は長いと思っていると、洞窟の奥の方で異変が起こった。

ゴォ~という大音響と共に、俺たちの頭上を何かの群れが通り過ぎた。

その一瞬の出来事に俺にすり寄って来たフランソワは震えていた。


「心配は要らない、大丈夫だ。

あれは、コウモリだ」と、安心させた心算が、フランソワは恐怖して俺に強くしがみ付いて来た。


「コウモリって、人の血を吸うのですよね。

私くしは今足から血が出ていますわ」


「すまん、あのコウモリは多分血は吸わないと思うからな。

その俺は、女の裸は見慣れているがそれだけで、俺に胸を押し付けないでくれるか」


「フー様は酷い事を仰るのですね。

女性が怖がっているのに、私くしは魅力が無いでしょうか」


「いやぁ、そうじゃないんだ。

まぁ、この話はこれで止めにしよう」



気まずい沈黙の時が流れ、その間もフランソワは俺から離れなかった。

俺の左腕を大事そうに抱えたままだ。

薄い服から伝わる二つの柔らかい胸の感触も何時の間にか慣れた。


「暗くなって来ましたね」


「そうだな。

申し訳ないが俺は明かりの用意はしていないんだ」


「それは良いのです。

私くし、こうしてフー様にくっ付いていると、凄く安心できますから」


「そうか?

今日は災難だったな。

家の方はフランソワが逃げても問題はなのか」


「恐らく大丈夫と思いまわ。

が。。。」


「何だ?」


「はい、今度は勇者よりも王国側がお父様に何か言って来るのではないかと。

そちらが心配です」


「そっちの方が厄介だな」と、俺が言うが、空腹が満たされ緊張が解けて安心したのか、フランソワは眠っていた。

このお嬢様は肝が据わった大物だと感心したが、俺も眠気には勝てず意識が無くなった。



俺は、震えるフランソワの柔らかい胸の感触で目が覚めた。

「おはよう、何があった」


「吸血コウモリが帰って来たのですわ」と言うフランソワに俺は納得した。


「フランソワ、この洞窟がコウモリの巣だからな。

明るくなる前に帰ってくるんだよ」


俺の腕をフランソワから解放してもらい、外の様子を見ていた。

何時の間にか俺が昇る岩の下までフランソワが来ていた。

「あのぉフー様、お願いしたい事がございますの。

そのぉ急を要しますから」と、もじもじするフランソワを見て理解できた。


「分かった、奥へ行こうか。

暗いから足元には気をつけろよ」


「ご心配ありがとうございますわ。

ところで、暫くの間で良いのですが、私くしがいいと言うまでの間、御耳を塞いでくださいませ」


「あぁ、そうだな。

此処で良いか。

分かったよ、腕を離してくれ」


耳を塞いでも十分聞えるのだが、と思ったが言わない事にした。

美しいお嬢様に似合わない豪快な音がし始めると、それが洞窟に反響して増幅されるので、耳を塞ぐ意味が無いと思ったが、聞かなかった事にして終わった後は手をつないで入口に戻った。


繋ぐ手が奥へ行く時よりも少しだけ暖かく感じたのは、まぁそう言う事なのだろう。


入口へ歩いていると、俺の第六感が人が近づく気配を察知した。

「フランソワ!」と、小さく厳しく言い、唇に人差し指をあてて、右手で入口の方を示した。

フランソワは俺の意図を理解し首をこくこくと振った。


そして、俺たちは洞窟の奥の方へと引き返し、途中の岩陰に身を寄せた。

俺の右腕をフランソワが大切そうに抱え込むので、柔らかい胸の感触が気持ちが良い。


遠くの方で居たか、という声が時々聞こえる。

その声が次第に大きくなり、ついに洞窟の入り口に来たと分かった。

「もうぉ、勇者様はあんな小娘の一人に何でこうムキになって探させるんでしょうねえ、隊長ぉ、私訳が分かりませんよぉ」と、歳若い女の明朗な声が聞こえた。


「お前も小娘だろうがぁ」と、しゃがれ声が言うのが聞こえる。

「俺にも分らんがジュニス、お前は、決して勇者の前に出るなよ。

俺達じゃ、どう頑張っても勇者を説き伏せる事は出来んからな、良いな」


「そうだぜ、俺達じゃお前さんを守ってやる事は出来んからな」


「そうだぜ、目立つなよ」


「隊長、こっちはどうも空振りなようですぜぇ」


「あぁそうだな、これ以上先に行っても無駄だな。

チェ、俺が勇者様御一行に叱られてくるから、マス、俺が合流する迄はお前が隊長だ。

良いなっ、俺達エルシャー王国軍はベルステンの奴等からすると敵だからな。

勇者の名を出して無茶はするなよ、これは命令だからな」


「よく分かっていますが、あっちが粉掛けてくると殺っちゃいますよ」と、ダミ声が言った。


「おい、向かいのあいつ等に撤収の合図を出せ、撤収だ」


「勇者どもの嗜虐趣味には本当に困ったものだぜ。

お前ら知ってるか、ガス兵の話す噂を聞いたんだがよ、あの何ていったか臭そうな名、そうそうスカンク皇女?

召喚して直ぐに、酷く腹を立てた槍の勇者がスカンク皇女を自慢の槍で突きまくり服を切り裂き、真っ裸にして散々痛めつけて、最後はグッタリした皇女の股から槍を突き入れ、その槍に先が首の付け根から出て顎に迄たっしたそうだぜ。


同時に、召喚儀式補助をした魔法使いの特に若い女性数人は、剣の勇者によってこれまた真っ裸にされ、乳を削ぎ落され最後は斬胴にされたとか、有望な魔法使いを、もったいない話だ。

同時に召喚魔方陣は破壊されてしまった。

この蛮行を見ていた皇女付き親衛隊、紅部隊は、全員が逃走し近衛も女性は逃げたのだとよ」


「無敵と思われていた勇者、乳を削ぎ落した剣の勇者と魔方陣を壊した魔法の勇者は、ウェルビー辺境伯軍にいい様に遣られ、終いは小娘を探しに邸に行き行方が知れなくなった」


「それ、私知っていますよぉ。

その時私達の第三軍はオルブライト公爵軍を誘い出す囮役でしたからぁ。

オルブライト公爵軍は槍の勇者によって、全滅したときは本当に凄いと思い尊敬しましたからぁ」


「お前は囮から生きて帰るとか運がいい奴だな。

でも気ぃつけろよ、お前も股から串刺しだぞ」


「合図に返答があったか。

そうか、もう良いか、行くぞ!」

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