幻と言葉の火矢(6)
「自分が許せないことが悪霊の足場になっていた?なるほど。その可能性はあり得るな……」
翌日、昼過ぎにどうにか唯子は尋人を捕まえ、歩香のエクソシストについて持論を述べた。尋人も他の仕事で忙しいなかだったが、唯子の説を聞き、ふむふむと頷いていた。
「わたしも自分のこと、もう弱くても理想通りに行かなくてもいいかなぁと思ったら、例の幻が消えた。しかもあの古民家でも歩香にそっくりな幻も見たし、あり得る話なんでは?」
「なるほど、なるほど。冴えてるじゃないか、リス子」
珍しく褒められ、唯子の顔は熱くなってきたが、平日の昼間の礼拝堂はしんと静かだ。小鳥の鳴き声が響くだけ。静かすぎるほどだ。
「だったらこれで古民家のエクソシストができると思うんだよね」
「可能性は高いな。まあ、歩香のやつはやたらと理想が高いし優等生だからな。自分で自分が許せなかった可能性、大いにある。それが悪霊の足場になったか……」
「じゃあさっそくエクソシストのリベンジだよ。原因がわかったんなら、簡単でしょ。あとは歩香さんに事情を話して」
ついつい早口になってしまったが、なぜか尋人に止められてしまった。
「まて、リス子。原因は自分で自分にことが許せないことだから、強制的にそうさせるんか?」
「え、ダメなの?」
「ダメだろ。本人ですら気づいていないことを外野が勝手に騒いで、悔い改めとか強制させるんか? はい、ダメ」
「そんな……」
「聖書でもそんな人に無理矢理信仰させろとか、悔い改めろとか書いていない。あくまでも自分自身が主体じゃないとな」
「だったらどうすれば……」
わからない。答えは出ているのに、そこまでの道のりが全くわからない状態だ。
つい二人とも黙り込んでしまう。原因が歩香の内部にある以上、他人は何もできないのだろうか。
その時だった。礼拝堂に宮乃が遊びに来た。都市伝説系の配信者をしている宮乃。時々尋人と一緒にコラボ配信もやっているぐらいだったが、突然なんの用だろう。
「唯子も尋人さんも何深刻な顔しているの? 実はさぁ、面白いコラボ企画があって持ってきたんよ」
宮乃は相変わらずマイペースだった。
「実はセクシー霊媒師・レオと配信しようと思ってね。単に都市伝説配信しようとしても盛り上がらないと思ってエクソシスト対決でもしようかなって思ってね」
その上、ペラ一枚の企画書まで見せつけてきた。ネット上で有名な事故物件を訪ね、その霊媒師と尋人が対決し生配信するという内容。
企画書を見れば見るほど胡散臭さが漂うが、今はそれどころじゃない。さすがの尋人も断ろうとしたが、その時、対決相手の霊媒師も登場した。
「うっす! 俺、セクシー霊媒師のレオだぜ。宮乃ちんはズッ友よ!」
態度の外見も軽い若い男だった。ホストのようなスーツに身を包み、髪も派手な金色だ。オタク風の尋人の外見とは正反対だ。最近はセクシー霊媒師としてネット上で人気らしい。廃神社や事故物件での悪霊祓いのの実績を誇っていた。
「どうせ悪霊が悪霊を追い出しているだけのナンチャッテ霊媒師だろう。お金や名誉目的でこんなことやってるんだろ?」
尋人の目は冷ややかだったが、なぜかレオの方は腹を抱えて受けていた。
「うっす! 俺に相談する場合は一時間十万円いただいてます!」
「ダメじゃん。完璧な詐欺師だ。まあ、せっかく教会に来たんだからちょうどいい。今からお前に福音を聴かせよう」
「尋人さんだっけ? そういうのはいいっすよ。俺のご先祖様とか地獄にいったとか言われたくないしぃ。それに宗教なんて古臭いっていうか、オワコンっていうか、押し付けがましいんで」
レオは軽いノリだ。本当にチャラチャラと音がしそうな態度だったが、唯子の姿に気づく。ちょっかいかけてきた。
「教会のシスターさん的な人なん? よくそんな宗教とかやってられるよねぇ。俺のアシスタントにならない? 時給三千円出すよ」
近づいてきたレオは香水くさい。思わず鼻をつまみそうになったが、宮乃はキャッキャと大騒ぎし、尋人は不機嫌だ。
「あぁ、もう何がセクシー霊媒師だよ。どうせ適当にやってるんだろ?」
尋人は冷ややかに言うが、宮乃によると陰陽師の血を引くらしい。もっとの何の証拠もなく、ネット上ではネタにされているらしい。
静かで平和だった礼拝堂は一気にカオスな雰囲気だ。もう誰も収集つかない雰囲気になってしまい、結局、尋人は宮乃の企画をのんでしまう。
「ちょっと尋人さん、歩香さんの件はいいんですか?」
唯子も突っ込みを入れたが、もうこの雰囲気はどうしようもない。
「大丈夫だよ。こんなのすぐにエクソシストして終わらせよう」
尋人は自信満々だったが、唯子は不安しかない。
「よし! これでフォロワーも配信数も稼げるね! 楽しみになってきた。この企画!」
宮乃だけが笑顔だ。しかもこの場に歩香も登場してしまい、余計に収集がつかない。
「何それ、エクソシスト対決? そんなオカルト番組みたいなのって……」
歩香も呆れてはいたが、口元はニヤニヤしていた。楽しんでいるらしい。
結局、この生配信の対決に唯子も歩香も参加することになってしまった。予想外の展開だ。どうも脱線している気がしてならない。




