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事故物件エクソシスト〜霊のお悩み、承ります〜  作者: 地野千塩


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幻と言葉の火矢(4)

 後日、唯子と尋人は歩香が住む町へ向かっていた。都心から電車、バス、ローカル線を乗り継いて着いた場所は、想像以上に田舎だ。


「すげー、このあたり辺鄙な場所だな」


 駅から出ると、尋人の物言いは酷いが駅前には何もなく、コンビニすら無い。山々が広がり、野菜畑が目立つ。


「ちょっと尋人さん、失礼では?」

「いやあ、まじで何も売ってないぞ。あぁ、何か甘いものが食べたいなぁ。歩香の頼みとはいえ、来るんじゃなかった」


 いつもの調子の尋人に呆れつつも、人影も少ない。それでも田舎の道すがら、アイスの自動販売機を見つけた尋人は、さっそく購入していた。このあたりの名産物の梨のアイスらしく、尋人はしゃくしゃく咀嚼していた。


「うま! このアイスだけはめちゃくちゃおいしいじゃんか」

「もー、尋人さん。そんな呑気でいいんですか? これから歩香さんちにエクソシストしに行くんでしょ? 呑気すぎません?」


 唯子はアイスの自動販売機には目もくれず、道を歩く老人に声をかけた。もしかしたら、歩香の家の霊現象を知っているかも。


 いかにも農民という姿の老人だ。土の匂いも漂う。唯子たちが都心から来たと知ると、露骨に表情が歪んだ。


「また都会のもんかよ。最近多いんだよな。スローライフとかなんとか言って移住してくる若者が」


 老人の言い方には棘があったが、尋人はふむふむと頷いていた。


「あの歩香って女も最初は古民家でキリスト教会みたいのやってたんだよ。なんだっけ? 牧師とか偉い人を置かない自由な教会とかで、聖書に忠実で、土曜日に礼拝するとか、病気の癒しの伝道とか意識高いことやってたけどなぁ」

「なるほど、おじいさん。それで古民家の意識高い教会ってどうなりました?」


 尋人は身を乗り出していた。やはり話題が教会となると他人事ではなさそうだったが。


「なんかすぐ内輪揉めして一ヶ月も続かなかったみたいだねぇ。おかしいね。聖書では敵を愛せとか隣人を愛せって言ってるんだろう? なんで内輪揉めしているのさ?」

「おじいさん、全くその通りです」


 意外と尋人は反論もしなかった。唯子は棘のある老人の言い方が嫌だなぁと思っていたので意外だ。尋人は何か心当たりでもあるのだろうか。


「ということであの歩香って女はあんまりこの土地では好かれてないね。そもそもよそ者だし。宗教とかも嫌だしな」

「おじいさん、歩香さんの家で事故物件の噂はある?」


 唯子はこれ以上聞くのが辛くなり、話題を変えた。


「まあ、そんな噂もあるね。でも噂だよ。歩香って女は好かれちゃいないし、尾鰭がついたのかもしれんがな」


 老人は仕事が忙しいとさっていく。事故物件かどうかわからないが、歩香があまり好かれていないのは事実らしい。他の住民にも聞いてみたが、引きこもりがちで、積極的に交流もしていないのが要因らしい。呑気な田舎の風景に反し、排他的という雰囲気だ。どっちが悪いか唯子たちには判断がつかなかったが、スローライフ的な憧れを持っていたら、ギャップがありそう。


「それで歩香さん、ストレス溜まって霊現象にあってるのかな?」

「さあな。ま、全部聖書通りの教会作るっていう歩香みたいなタイプって多いんだよなぁ。特に田舎の古民家に教会建てようとするが、うまく行ったケースは見たことないな」

「なんで? 個人で教会やったらカルト化の心配とかなさそうなのに」

「リス子、甘いなぁ。教会運営なんて理想や憧れだけじゃ語れないんだぞ。そりゃ俺らだって全部聖書通りに正しくやりたいっていう理想はある。でも、維持費とか色々現実的な面もあるんだよ。理想だけ高くてもな……。しんどいよな……」


 そう語る尋人、目が虚無だ。


 その横顔を見ていたら、何か察するものがある。確かに我々は人間だ。神様じゃない。現実的にどうしようもない事は折り合いをつけてる。理想通りに生きられれば良いのだが……。


 そんな事を考えながら、歩香の古民家に辿りついた。見た目はジブリにも出てきそうな古民家だ。三角屋根が素朴で可愛い。小さな家ながら木の温もりも感じさせるような家だ。その上、周りは山や田んぼに囲まれているので、余計に絵になる。唯子は思わず「良いところでは?」と呟いてしまう。本当にこの家に霊的な現象があるか疑わしい。


「リス子、見た目に惑わされるなよ。古民家は古い家だ。古い家には悪霊が入りやすいんだからな」

「そうかなぁ。こんな素敵な家で霊現象なんてあるの?」


 そんな会話をしていた時、悲鳴が響く。歩香の声?


「やばい。霊現象か?」


 尋人は躊躇なく古民家に足を踏み入れていく。田舎らしく鍵がかかっていないのは良かったが、再び悲鳴が響き、その場へ走る。


 畳の部屋だった。いぐさの濃厚な匂いが漂う中、歩香が倒れているではないか。本棚もぐちゃぐちゃになり、物音がひとつもしないのが不気味だ。


「歩香さん!」


 唯子はすぐに歩香に駆け寄ったが、顔は真っ青だ。息はあるが、意識は完全に消えていた。


 しかも目を上げると、真っ黒な穴みたいのが広がっておた。まるでブラックホールのような?


「やばい! 霊的世界とここがポータルが開いてる!」


 その穴は尋人にも見えたらしい。すぐに祈ったが、何も変化がない。


「くそ! なんだこのポータルは!?」


 尋人も唯子も一体どうしたら良いかわからない。祈り、祓っても何も変化がない。


 唯子もだんだんと疲れてしまい、目の前がふらふらと揺れてきた。


 また幻を見てしまう。いつも見ている自分の幻ではなかった。そこにはもう一人の歩香が立っているではないか。


「わたしはこの女を絶対に許さない!」


 もう一人の歩香はそう告げると、霧のように消えた。幻も終わった。あの穴も見えなくまったが、これは一体どういうことだろう?


「あ、あれ? わたし、なんでここで倒れているの?」


 歩香は目を覚ましたが、何にも記憶がないという。


「なんだ? この現象は? 悪霊の仕業か?」


 尋人は困惑していた。今までにこんなことは一度もないという。


「どういうこと?」


 唯子もさっぱりわからない。特に歩香の幻を見たのはなぜだろうか。


「とにかくこの家にいるには危険だ」


 何もわからないが、尋人はそう結論づけた。


「憧れの古民家だったのに……」


 歩香の弱々しい声だけが響いていた。

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