喜びの讃美歌(9)
「美海さんて方のところでエクソシスト? 尋人と唯子さん、二人で!? それはダメだ。団体で行った方がいいかもしれない」
事情を知った牧師、冷静に指摘してきた。尋人はいてもたってもいられない様子だったが、二人で行くことを阻止。
「一度祓って帰ってきた悪霊でしょう? 強いもんを連れて帰ってきた可能性がある」
牧師の冷静な声、もう尋人も逆らえず、結局、みんなで行くことに。ノラもついてきた。日雇いバイトをキャンセルしてまでついてたくるのは謎だったが、一人でも多い方がいいかもしれない。
唯子とて悪霊のことなどよくわからないが、今までの様子を見る限り、一人で丸腰で行くと危険なケースもありらしい。唯子も納得し、こうしてみんなで美海の家へ向かった。
海辺の綺麗な街だ。今日も天気が良く、サーファーも海辺にいた。前回きた時のようにアイスクリーム屋も営業していたが、今は無視だ。小走りに美海の家へ。
相変わらず物語に出てきそうな家だった。見た目だけは可愛らしくもあるが、前住んでいた住人も不幸な現象が起きてる噂を聞いた。
「美海さん、羽生教会のものです」
牧師がチャイムを押したが返事はない。大声で呼ぶが、こちらもしんと静かなまま。呑気なカモメの声だけが響く。
「美海さん? 大丈夫かい?」
尋人も声をかけるが、以前として返事はない。唯子もスマホを取り出し電話をかけるが、何の返事がない。つい十分ぐらいまではトークアプリに家の家の様子が変だと連絡が来ていたが。
それによると、変な悲鳴が聞こえたり、ものが勝手に浮いたり、ノートパソコンも急に使えなくなったらしい。明らかに霊的な現象だったが、美海がとにかく心配だ。こうして家に来ても、全く返事がないとか、唯子の指先は震えていた。
牧師や尋人も必死に美海を呼んでいる中、ノラだけが冷静だった。のんびりと空を見上げた後、勝手口とか空いてるんじゃないと提案してきた。
「それだ!」
尋人は裏手に周り、勝手口の方へ向かう。本当は勝手に侵入するのはマナー違反。いや、法律違反かもしれないが、今はそれどころじゃない。一同慌てて勝手口から入った。
電気は全部消えていた。朝なのに薄暗い部屋を見て回ると、リビングに美海が倒れてる!
スマホを持ったまま泡を吹いていた。顔も真っ青。あの時の尋人と全く同じ状態じゃないか。急いで駆け寄り、脈を確認した。ちゃんと生きているが、意識は全然戻ってこない。
「ど、どうしよう……」
思わず、唯子の口から弱音が溢れた時だった。急に目の前が真っ暗になり、何者かに首を絞められ、苦しい。
わからない。前にも似たような状況にあったが、これは霊的現象?
とにかく苦しく、意識も消えかける。美海を助けられんかったら、どうしよう。そのまま意識が戻らなかったら?
不安、心配、恐怖が心に入り込み、身体が全く動けないし、息も吸えない。とにかく苦しく思考も意識も全部手放しそうになった瞬間。
声が聞こえた。尋人の声だった。
「リス子! 恐れるな! 前の俺みたいになるな!」
急に尋人の声が響き、意識が戻ってきた。思考も戻り、目の前に尋人、牧師、ノラもいるのを確認した。大丈夫、みんないる。
相変わらず霊的現象は起きていた。変な声が聞こえり、物は勝手に動いたりもしていたが、さっきのような身体の苦しさはない。
美海も倒れていたが、死んではいない。脈もあった。
「ねえ、讃美歌みんなで歌わない? 悪霊たち、嫌がるんじゃなーい?」
ノラの呑気な声が聞こえたら、しっかり立てた。指先の震えもない。
「ああ、歌いましょう!」
牧師のその声が合図となり、みんなで賛美歌を歌った。
昨日と同様、全く音程は酷い。歌詞も覚えていないのに、なぜかもう歌っていると、不安も恐怖もなくなってしまう。
「イエスに栄光があれ〜♪ その栄光が光り輝き〜♪」
四人で歌っているだけなのに、急に目の前が明るくなってきた。暗い部屋に太陽の光が差し込み、一瞬、この世ではない雰囲気すら生まれていた。もう唯子は光しか感じられなくなっていた。
「主よ、この土地を、この家を捧げます。どうか、美海さんをお守りください」
牧師の祈りの声が響いた瞬間、この家の雰囲気も変わっていた。
目には見えないが、完全に清められたという確信しかなく、みんなで手を叩き、勝利のポーズを取るぐらいだ。
「え? あれ? なんか急にこの家、明るくなった? いつもの雰囲気が全然違う」
気づくと、もう美海も目覚め、唯子たちの側に来ていた。
「夢を見たの……。悪魔みたいな連中に襲われかけたんだけど、誰かが助けてくれた夢。これって誰? 神様なの?」
美海の震えた声が響く。何かを怖がっていりように足元が震えていた。いや、それは畏れているような?
「ああ、そうだよ。だからもう大丈夫だ。ここの土地も家も完全に清められた」
尋人の自信たっぷりの声も響く。顔も明らかに調子に乗っていた。いつも通りだ。このぐらいは仕方ないのかもしれない。実際、今の唯子もそんな気分だった。もう不安とか心配するのも飽きてきた。




