喜びの讃美歌(7)
「先祖の幽霊を見たというS県のB子さんより質問です。あ、このリスナーさん、もしかして前にもコメントくれた? 確か先祖の幽霊を見て、お墓に先祖が好きだったものをお供えしたら、運が良くなったとか。うん、そうなんだ。え!? 実はあの後、金縛や変な声を聞くようにまったってマジ!? 『先祖を讃えよ!』という声が聞こえるって?」
宮乃のハイテンションな声が響いていた。今、宮乃は都市伝説チャンネルを配信中だ。多くのコメントが寄せられて、投げ銭もザクザクと投げられていた。
唯子は一人部屋でこの配信を聞く。正直、宮乃の配信など興味は薄いが、今日は尋人がゲスト出演するから聞いていた。
あの後、特に何も変化はなかった。美海からの異常も聞いていないが、なんとなくスッキリせず、ついこんな配信まで聞いてしまう。
「そこで今日のゲストのオカルト牧師の登場です。B子さんの件、どう思う?」
「よお、リスナーの皆様こんばんわ。そうだな、これは確実に悪霊の仕業だろう。幽霊なんていない。全部先祖のフリした悪霊だ。そうやって願いを叶えた後、人間を崇拝させ、エネルギーを吸い取り、悪きことが起きるようになるんだよ。まあ、こんな存在に願いを叶えてもらおうなんて思うな。必ず代償を請求される。悪徳借金とりやヤクザみたいなもん」
いつになく尋人の声は饒舌だった。時々笑い声も混じり、これは調子に乗っている。
思わず唯子の顔が曇っていく。こんな調子に乗っていいものだろうか。一方、唯子はまだ美海の件が解決した気がしない。不安が残っていた。スッキリしない。
「だったらオカルト牧師、その悪徳者金とりやヤクザから逃げるのにはどうしたらいいのよ。クーリングオフはできないの?」
「できる、できる」
尋人のチャラチャラとした軽い声が響く。
「こんな風にうっかり悪霊と契約してしまった場合は、イエス・キリストにしか契約破棄できない。イエス様を主とするならば、この契約は無効。借金チャラ。本当は二千年前に全部返済完了しているんだが、多くの日本人は誰もクーリングオフに来やしない。自分で頑張って借金返済しようとする。実にもったいないことだね」
さらに尋人の声は滑らかになるが、宗教的な話題のせいかコメントやリスナーも減ってきた。
それでも残ったリスナーはエクソシストや聖書でいう霊的なことに関心があるらしい。家の近所の廃神社の悪霊祓いして欲しいというコメントもるぐらい。
「どうよ、オカルト牧師。このリスナーのいう廃神社でエクソシストやってみる?」
「ほぉ、いいな」
「でも廃神社っていわくつき?」
「悪霊たちは人間の崇拝心を栄養にして生きてる。それが無くなった廃神社、悪霊たちもさぞ飢えて悪化しているだろう。ははは、面白い。そんな廃神社も悪霊祓いしてしまおうじゃないか」
宮乃と配信する尋人、さらに調子に乗っているらしい。本当に廃神社に悪霊祓い行くことになってしまった。
「ほ、本当に大丈夫……?」
唯子はこんな配信を聴きながら不安しかない。廃神社はいわくつき。オカルトに興味がない唯子だって知っていたが、そんな簡単にいくだろうか。
「なんか尋人さん、相当調子に乗っていない?」
その唯子の不安、的中した。
翌日も尋人は宮乃とともに、廃神社で配信中だった。
唯子はさすがに家で聞いていた。それでも不安になり、ノラや牧師を呼んで配信を聞くことに。
最初は尋人も順調だった。宮乃とともに、廃神社に進み、讃美や祈りを捧げていたが。
「ギャー! オカルト牧師が泡吹いて倒れてる!」
宮乃の悲鳴が響く。騒然とした雰囲気で、配信も中止。
すぐに宮乃から連絡がきた。廃神社で尋人が倒れてしまい、迎えに来て欲しいという。いつもは飄々とした宮乃が焦っていた。これには牧師もノラもただ事ではないと気づき、車を出し、みんなで向かう。
牧師の運転は少々荒かったが仕方がない。唯子もノラも顔を青くしながら、廃神社へ向かう。特に唯子は指先も震えてきた。尋人は調子に乗っていたとはいえ、こんな事になるなんて。悪い予想が当たってしまったらしい。
「牧師さん、どういう事? 尋人さん、まさか悪霊にやられた?」
いてもたってもいられず、運転席の牧師に聞く。
「息子はエクソシストなんてやっている男だ。悪霊側からしたら一番都合が悪い。報復に来たのかもしれない。それに一人、丸腰で悪霊と戦うのはよくない。やはりクリスチャン同士で力をあわせないと……。みんなで霊の一致をして強くならないと、倒せない悪霊もいる」
牧師の説明はもう耳に入ってこなかった。唯子はとにかく尋人の無事ばかり考えていた。
「唯子さん、祈ったら?」
ノラの提案にはっとした。そうだ、祈りだ。
祈り方はよくわからない。綺麗な言葉も紡げない。正式かもわからないが、自分のことよりも誰かの為だったら、祈れる。
「イエス様、神様、どうか尋人さんを守ってください……」
気づくとノラも一緒に手を繋いでくれていた。心強い。手の震えも止まっていた。やっぱり一人よりも二人で祈った方が良い気がしていた。




