表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
事故物件エクソシスト〜霊のお悩み、承ります〜  作者: 地野千塩


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
32/51

喜びの讃美歌(1)

 いつもの朝食の時間だ。ちゃぶ台の上にはロールパン、野菜のスープ、牛乳などが並んでいるが、そこを囲んでいる面々はどことなく、あわただしい。


 尋人は牧師とともに他県の教会に出張、ノラもコンビニでバイトを初めている。唯子もこれから相談の仕事をするために勉強するつもり。それだけでは生活はできないので、スキマバイトもしながら、勉強するつもりだった。


「ということで、霊的な問題をもっている人の相談のったり、解決の手伝いをしたいと思ってるんです」


 さらっと皆に宣言してしまった。いつもの朝食の時間のせいか、雑談のように軽く口にできてしまったが。


 一瞬、他の面々は黙っていた。猫の毛玉もやって来たが、この子だけがミャアミャア鳴き、ちゃぶ台のパンを興味深くのぞいている。


「いいんじゃない? 唯子さんは向いてるよ」


 最初に口を開いたのは居候のノラ。もっともパンをもぐもぐと食べながら、軽いノリではあったが。


「そうですよ、私も賛成です。この尋人だけに任せていると不安でしかない」

「お父さん、なんだよぉ。俺の悪口か?」


 牧師と尋人親子は冗談を言い合っていたが、こちらも唯子の希望には全く反対しなかった。


「ま、とりあえずやってみたらいいんじゃないか。教会は困っている人、悩んでいる人、心が辛い人もよくくる。そういう人の助け手となってやれ」


 特に尋人は賛成してくれた。いつもはオカルト話をするような変人だ。自称オカルト牧師とも言う男だったが、唯子の希望には一切否定もせず、少し笑いながら頷いているぐらいだ。


「本当にいいんです?」


 若干、唯子は拍子抜けしてしまうぐらいだったが、教会に相談にくる人の話相手の仕事も任されてしまった。雑談でいいという。黙って人の話を聞くだけでも価値があると尋人に言われ、どう反応していいかわからないぐらいだ。尋人、見た目は変人だったが、根っからの悪人ではないらしい。


 ノラにも牧師にも否定だれず、思わず下を向いてしまう。こんな風に誰かから応援され、仕事まで任されたことなんてなかったからだ。嬉しいが、笑っていいのかは謎。笑顔を噛み殺しまがら、猫の毛玉の背中を撫でるだけで精一杯。


 その後、唯子はやる気を出したのは言うまでもない。カウンセリングの本を読み漁ったり、カウンセラー育成の学校を調べて忙しくしている時、スマホに通知があった。


「うん? 絢からLINE?」


 高校の頃の友達からの連絡だ。卒業後もなんとなくダラダラと友達付き合いしている。他にも絢の友達と数人で女子会したり、たまにカラオケに行く日もあったが、まさにその誘いだった。五月の連休中、おしゃれなイタリアンで女子会しようという誘いだった。


 唯子はそんなスマホを見つめながら、悩んでしまう。正直、絢と女子会に出たくはない。それよりもやりたいことがあった。別に絢自体に問題はない。都市伝説の配信者をしているような宮乃と違い、優しくていい子。男性にもモテる子だった。


「でもなぁ。最近、絢とも会ってないしな。一回も顔を出さないというのも」


 断るのも面倒になり、結局、女子会に参加することにした。


 明後日の夕方から夜まで、繁華街のにあるイタリアンで女子会プラン、二時間。


 絢だけでなく、その友達数人も参加し、会場の個室は賑やかだ。同世代の女しかいないし、フリーターや彼氏に養ってもらっている子もいる。なんとなくダラダラとし、気が楽だった。


 テーブルの上にはチーズフォンデュ。こういう料理は大人数で食べると美味しい。唯子もクラッカーにチーズを浸し、うっかり食が進んでしまう。もちろん、お酒も美味しくなってしまい、会場はさらに雰囲気がグダグダになり、愚痴大会まで始まってしまった。


 特に唯子の隣にいる絢の愚痴がすごい。彼氏への文句、不満で溢れ、時にはえげつない下ネタも飛び交う。大きな笑い声と、お酒とチーズの匂い。


 急に唯子は気持ち悪くなってきた。お酒もチーズフォンデュも美味しい。店のインテリアもおしゃれで店員も親切だったが、教会にいる時と身体の感覚がどうも違う。教会にいる時はこんな違和感、一度も持ったことはなかったのに。


「唯子、突然黙ってどうしたの? 具合悪い?」


 絢は心配してきた。唯子は慌てて笑顔を作り、首をふる。


「な、なんでもない。ところで、絢も前に転職するって言ってたけど、どう? 何か決まった?」

「全然。もうAIが脅威だし、今の仕事適当にしながら、彼氏と結婚でもしようかなって」


 また違和感。さっきまであれだけ彼氏の悪口を言っていたのに。かといってこの場の空気を壊したくないので、唯子はうっすらと笑うだけだった。


「唯子こそどうなの? へー、教会に住みながら、カウンセラーみたいなの目指しているの?」


 うっかり最近のことを話してしまったが、絢の反応は鈍い。


「バイトしながらカウンセラー目指すとか、人生設計大丈夫? そんなの安定もしていないし、お金も稼げないんじゃないの。まあ確かにAIには勝てる仕事だとは思うけど」


 絢は手放しに賛成してはくれなかった。


「唯子も可愛いんだし、年収高い男と結婚して専業主婦でもやってればいいと思うけど」

「いや、それは……」


 違和感はますます増えていく。そんな逃げで結婚する発想、一度も考えたことはなく、絢の言葉は日本語に聞こえない。宇宙人の言語みたいな感じがして、この場にいるのが耐えられなくなってしまい、お腹が痛いと嘘をつき、早々に女子会から退散してしまった。


 絢はこれでちょっと不機嫌そうだった。唇を尖らせ、ちょっと唯子を睨んでいるぐらいだったが、仕方ない。元々この女子会いは乗り気じゃなかったし、愚痴大会にも参加しづらい。


 帰り道、もう空は真っ暗だ。三日月も見えていた。五月の連休中のせいか、羽生教会の近くの道でも人通りは少なかったが。


「はぁ……」


 月を見上げながらため息しか出てこない。女子会に出ても何も楽しくなく、後悔ばっかり。それに絢に自分のやりたいことも否定されてしまった。それで楽しい気分になるはずない。お酒飲んだ時の心地よさも全部消えてしまった。


「もうお酒飲むのもやめようかな……」


 独り言だけが溢れてしまった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ