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事故物件エクソシスト〜霊のお悩み、承ります〜  作者: 地野千塩


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神の声と新しい道(10)

 ネットでは大騒ぎだった。配信者としても人気があった真夜が引退するという。表向きは体調不良と言われてはいたが。


「あの唯子たちの一件でエクソシストや聖書に興味持ったという噂。よく知らんけど」


 何か噂を知っていると思い、都市伝説配信者の宮乃に電話をかけると、そんな話を聞いた。


「娘の学華はちょっと何も噂は聞かないけど、まあ、これで一件落着なんじゃない?」


 宮乃のあっけらかんとした声を聞いていたら、唯子はほっとため息が出る。これであの霊的な問題は解決したと実感した。


 そして宮乃は心霊スポットに取材があるので、慌ただしく電話が切れた。


 部屋には一人、唯子だけ。机の上には転職用に作った履歴書、職務経歴書がある。履歴書には嘘くさい志望動機が並んでいた。AIにもチェックしてもらったが、どうもしっくりこない。本当に事務職、接客などしたいのかわからない。


 もう悪魔の声など聞こえないとはいえ、自分って本当に何がしたかったのだろう。


「あ、聖書」


 机には聖書もあり、パラパラとめくる。分厚く、正直なところ難しくて読みにくい。歴史的背景もよくわからない。ただ、適当に開いたところには「わたしの目には、あなたは高価でと尊い」と書いてある。前後の文脈も無視していいのかわからないが、そこだけくっきり見えてしまって消えない。


 あの時、尋人もそんなようなことを言っていた。そうか。無能とか、出来損ないとかやっぱり悪魔の嘘だと思う。だからといって自分では全く自信もないから、この言葉を信じてみてもいい気がしてきた。


 ちょうどその時だ。教会に美桜が遊びにきていた。礼拝堂で紅茶と抹茶クッキーと共に美桜を迎える。


 他に誰もいない礼拝堂だったが、猫の毛玉もやってきた。高い天井からは春の日差しが降り注ぎ、あんな騒動があったとは嘘みたいに穏やかだ。


 美桜の表情も穏やかだった。頬のあたりもほっそりとし、少し痩せたようだが、より健康的で大きな目元も目立っていた。姿勢も以前よりまっすぐ。


「最近、玄米食と筋トレにハマってる。それに夜の九時には寝てる。もうすっごい健康的な生活」


 そう語る美桜はもう悪霊が家に戻っても来ず、生活習慣の改善も順調に進んでいるという。


「SNSとか動画も見るのやめた。スピリチュアルはもちろんだけど、自己啓発もね。考えてみたら、自分の生活には必要なかった気がする」


 とはいえ、今は特別だと抹茶クッキーも食べていた。生活習慣を改善すると言っても、無理せず余裕を持っているようで、唯子もホッとした。


「唯子さん、ありがとう」

「え?」


 ふいにお礼も言われ、飲んでいた紅茶をむせそうになる。猫の毛玉は美桜の膝の上に飛び乗り、そんな唯子をスルーしていたが。


「話聞いてくれたし。こうして色々ヒントもくれたし。もちろん、尋人も悪霊祓ってくれたけど、なんだかんだで最初に助けてくれたのは唯子さんだったよ」

「それは当たり前のことを……」

「なかなか出来ることではないよ。それに唯子さん、聞き上手だし。尋人さんみたいに癖がないっていうか、綺麗な水みたいで接しやすいのよ」


 そんな例え、どう受け取っていいものか。恥ずかしくて下を向いてしまう。


「仕事決まらないなんてもったいないよ。っていうか、唯子さんのそういう良い部分を活かせる仕事を選んだ方が絶対いいよ、うん」

「そ、そんな私にいいところってあるかなぁ」

「あるよ。もう自己啓発やめたけど、どんな人にも絶対才能があると思うんだよね。お金になるとか成功するとか別にして」


 そんな励まされると、もう本当にどうしていいのかわからず、猫の毛玉を引き寄せ、背中を撫でてしまう。もふもふと柔らかい毛だ。少しは落ち着いてきたが、尋人も礼拝堂に入ってきた。


 相変わらず行儀悪い。抹茶クッキーをボリボリと噛み砕くと、ニヤリと笑う。


「そうだ、美桜さんの言う通り。リス子にもちゃんと神様が才能を与えているんだからな。悪魔の嘘は聞くな」


 二人とも励まされてしまうと、唯子の頬は真っ赤だ。慣れない。全く褒められ慣れていない。


 とはいえ、こんな風に美桜からお礼を言われるのは嬉しい。人の話を聞くのも嫌いじゃない。尋人やノラのような癖が強い人たちとも、なんだかんだと上手くやれていたし、こんな風に霊的な問題の相談者をやってみたくなった。


 ふっと芽生えた希望だ。目の前に全然見えなかった道、急にひらけてきた気がする。新しい道だろうか。このまま歩いてみるか。もし行き止まりになったとしても、なぜか不安はない。そうなったら、その時考えれば良い話じゃないか。


「私、こんな風に霊的な問題の相談のる人になりたい。というか、やってみたくなった」


 気づくと、勝手に宣言までしていたが、尋人も美桜も否定しない。それどころか笑顔で応援してくれた。


「いいじゃん、唯子さん。ピッタリだと思う!」

「うちの教会も人手不足だからな。俺と父の代わりにガンガン働いて貰う!」

「ミャ!」


 猫の毛玉も明るい声で鳴いていた。


 新しい道が見えてきた。大丈夫だ。もう悪魔の声は聞こえないし、神様の言葉の方を信じてみたい。

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