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事故物件エクソシスト〜霊のお悩み、承ります〜  作者: 地野千塩


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神の声と新しい道(4)

 唯子と美桜は羽生教会の前まで来ていた。門のそばの掲示板には、相変わらず例のポスターが貼ってある。


 事故物件、悪霊、金縛り、呪い、藁人形、霊に関するお悩み承ります。※当教会は伝統的なプロテスタントですが、カルト信者、スピリチュアル系、占い師、キャバ嬢、オカルト好き、陰謀論者、LGBT、引きこもり、ニート、反キリスト、悪魔崇拝者、誰でもwelcome!


 美桜はそれを見ると、明らかに口元が引き攣っていた。


「誰でもいいんです? 教会ってこうマリア像とか神父様とか孤児院とか、神聖な雰囲気ではないの?」


 美桜の戸惑いはもっともだったが、説明するより実際、教会に入ってもらった方が早いだろう。


 今日はノラはバイト、牧師はキリスト教関係の出版社に出掛け、尋人しかいない。ちょうどいい。


「わ、礼拝堂もこんな感じ? なんか学校の教室というか、さっきのセミナーの部屋とも雰囲気変わらない。意外と地味?」


 礼拝堂に入ると、美桜は目を丸くしていた。教会に入るのも初めてだそうだが、こんな地味ない施設だとは知らなかったらしい。ドラマやアニメの教会ではマリア像や派手なステンドグラスが目立っていたのにと少し残念そうだったが概ね拒否反応はない。特に宗教には興味がない一般的な日本人の反応だろう。


 一方、唯子は紅茶を淹れ、クッキーを皿に盛り付け、尋人も呼んだ。礼拝堂の隅に座り、こうしてお茶菓子と共に話を聞くことにした。


 紅茶の匂いとクッキーの匂いが漂う。おまけに猫の毛玉も遊びにきて、美桜にもなつき始める。美桜の緊張も解けたらしい。体調も回復しているようだった。


「俺はこの教会の牧師だ。いや、正式には父が牧師だが、実際の仕事が俺が代行している。オカルトにも詳しい。オカルト牧師だ。美桜さん、よろしく」


 尋人は相変わらずだ。いきなりオカルト牧師などといい、唯子の方が恥ずかしくなってきたが、美桜はクスクスと笑い、意外と受け入れている。確かにいかにも聖人風の宗教家よりは親しみやすくはある。


「尋人さんってキャラ濃いですね」


 美桜は少し笑っているぐらいだ。それに三人で雑談していると、すっかり打ち解けた。猫の毛玉もおとなしく、美桜の膝の上に乗っていた。


「ニャオ」


 退屈そうな猫の毛玉の声を聞きながら、唯子はこのまま雑談している場合でもないことに気づく。尋人もバリバリ噛み砕ういたクッキーへ手を伸ばすのをやめ、単刀直入に話題を切り出す。


「美桜さん、家が事故物件って本当かい?」


 今まで笑顔だった美桜だが、すっと顔が無表情になってしまった。


 しばらく沈黙。礼拝堂の大きな窓から春の日差しが差し込む。まだイースターの飾りも残されていて、ここの空気と落差がある。


「美桜さん、何か力になれるかもしれない。私もよくわからないけれど、話を聞いた聞くことぐらいならできると思う」


 唯子はそんなことぐらいしか言えないが、美桜の目が潤みはじめていた。


「あ、ありがとう、唯子さん。でも、こんなことは誰にも言えなくて。友達や親に言っても非科学的って言われるだろうし」


 美桜は下を向き、猫の毛玉の背中を撫でていた。相変わらずふわっと柔らかそうな毛だ。


「キリスト教の教会で科学的とか非科学的とかない。俺らクリスチャンはイエス様は死んで三日目に復活したということを信じてる連中だ。他の連中よりは非科学的なことにも耐性があるぞ」

「ちょ、なんか尋人さん、やっぱり不敬では……?」

「いいだろ、リス子。科学的なことなんて神様の真理に比べたら、ごくごく一部なのさ」


 こんなやり取りをしていたせか、美桜も決心がついたらしい。ポツポツと事情を語りはじめた。


 美桜は一年前、この羽生教会の近くのアパートに越してきたらしい。築は二十年、淡いクリーム色の二階建てのアパート。立地もよく、家賃も手頃だったので不満はなかったが、次第におかしな現象が起きたという。


「最初は変な耳鳴りでした。でも、だんだん何かの声が聞こえるようになって。『殺してやる!』とか『死ねば?』とか。統合失調症かもしれないとも思って精神科に一応予約はしたんですが……」


 美桜は肩をすぼめ、小さく震える。


「家の物が勝手に動いたり、空を浮いたり。勝手に電気が消えたりついたりもして……。もう家の中もめちゃくちゃ……」


 美桜の声は消えそうなぐらい細くなってしまっていた。


 思わず唯子と尋人は顔を見合わせていた。確かに何かの声が聞こえるのは精神疾患の疑いもあるが、霊的な問題とみていいだろう。唯子も支配人の事件の時、似たようなケースを経験済みだった。


「部屋の写真を撮ると、なんか変なものが写っている気がするし……。夜も寝れなくて体調もずっと悪い。大家さんに聞いても事故物件じゃないって言うんだけど、こんなことは初めてで……」


 ついに美桜は泣き始めてしまった。大きな目から滝のような涙が溢れている。猫の毛玉も美桜の膝からおり、尋人の足元に隠れているぐらいだ。


「ネットでは事故物件っていう噂は出ていたけど、わからない。なんでだろう。とにかく今は家に帰りたくなくて」

「美桜さん、引越しはできないの?」


 唯子は単純に疑問だった。こういう場合、普通は引越しを選択肢にいれる。とはいえ、唯子も支配人の事件の時は視野が狭くなり、そういったアイデアが出てこなかったが。


「いえ、ちょっとお金の問題もあって……。どうしようかと。それに引越しする気力もないというか」


 鼻水をすすり、目元をぬぐう美桜は、追い込まれているようだった。視野が狭くなってしまうのも、理解できてしまう。


「ミャァ」


 猫の毛玉の鳴き声も、どこか心配そうだ。尋人も珍しく黙り、クッキーにも紅茶にも手を出さない。


「おそらくこれは霊的な問題だと思う。ねえ、尋人さんもそう思いますよね?」


 唯子は隣を見上げ、尋人に話しかけた。


「あぁ、間違いない。悪霊が何か悪さをしている可能性が高い。我々が解決できる問題だ。いた、絶対解決するぞ」


 尋人は自信満々だ。どんと胸をはり、歯切れ良く語る。こんな尋人に美桜は引いてはいたが、おかげで涙は止まっていた。顔色も普通に戻った。


「ミャ〜」


 猫の毛玉は呆れたような声を鳴らし、礼拝堂から出て行ってしまった。


「とりあえず、現場に行きません?」


 とても唯子は尋人のように胸をはれないが、まずは現場に行こう。話はそこからだ。

 

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