神の声と新しい道(2)
「え、うちの両親がわざわざ唯子のところに連絡してきたの? うけるわー」
目の前にいる宮乃、笑いを噛み殺していた。そてでも堪えきれず、ついに吹き出している。元々髪色も派手、メイクもしっかりしている宮乃は、いるだけでその場所の雰囲気が華やぐ。今は笑っているので余計にそう。
今日は宮乃に会っていた。都市伝説の動画撮影旅行から帰ってきた宮乃をようやく捕まえた。カフェで落ち合い、 前に宮乃の両親に呼び出されたことなど文句を言ったが。
まるで宮乃はダメージを受けていない。あんなに両親が心配していると伝えてもスルー。むしろ、これからも都市伝説を突き詰めると胸をはるぐらいだ。
「宮乃、マイペースすぎ」
唯子は口を尖らせてしまう。今はチェーン店のカフェにいて、そこそこ混み合っているというのに、都市伝説の話題も堂々と始めてる。最近は呪いのブログを書くタレントがホットな話題だというが、ため息しか出ない。
しかし、宮乃の目は赤ちゃんのように生き生きとしている。都市伝説の趣味、相当楽しんでいたし、それが仕事になるのだから、立派だ。実際、最近はフォロワーも増え、有名人と対談したり、ニュースサイトから取材の依頼もあるそうだ。配信だけでも収入はかなりあるらしく、宮乃がつけているアクセサリーも派手。ブランドもののロゴもついていた。
正直、羨ましくもある。一方、唯子は転職活動も全敗中だった。転職エージェントのカウンセラーには「転職の軸をもて」と叱られたばかり。面接に行っても、色々と面接官に見抜かれ、時間をかけて作った書類は無駄になってしまう。
かといって資格をとるほど仕事に熱意もなく、宮乃みたいにやりたいこともない。尋人のような基盤があれば、もう少し生きやすくなれそうだったが、今のところ、それもよくわからない状態だ。確かに子供の頃の神様との縁は判明したが、だからといってクリスチャンだという自覚もない。礼拝に出ても、宗教らしいコミュニティや雰囲気にどうも馴染めないのが本音だった。
「そっか。唯子もHSP的な繊細さとかカンの良さはありそうだけど、それがやりたいこととか仕事になるのかって言われたら別問題だしね」
意外と宮乃は、唯子のこんな悩みも聞いてくれた。お互いコーヒーを啜りつつ、リラックスしてきたというのもあるが。
「でも、別にやりたいこととか夢とか希望とかなくたっていいんじゃない?」
「そうかな。宮乃は親がお医者さんで、逆に反発心もった感じ?」
「正直、それもあるね。エリートで本当嫌味ぽいのよ、うちの家族。あ、医療ミスの都市伝説や陰謀論きく?」
「い、い、いやそれはいいけど……」
唯子の両親は二人とも会社員だ。父は営業、母は経理の仕事をしていた。二人とも平凡を絵に描いたような人生。確かに霊的な問題のは理解はなかったが、宮乃のように反応心を持つほど唯子を苦しめたりもしない。普通に優しい。それ故に反抗期もなかったし、親の意見に流されるままに大学を決めたりもしていた。確かに反抗心や強い意志を持ちにくい環境。
「だったら唯子さ、私の知り合いのインフルエンサーの自己啓発セミナーでも出てみる?」
「え、自己啓発?」
宮乃から自己啓発を勧められてしまった。自己啓発というと、なんとなく胡散臭いイメージだ。かくいう唯子も何冊か自己啓発書を読んだことはあったが、読んで数日もたつと忘れ、全然身に付かなかった。アファメーションやイメージングもしてみたが、これも全く上手くいかなかった。流されてぼーっと生きてきた唯子にとっては、自己啓発は水と油みたいな存在だったのかもしれない。
「そうだよ。そんな、私に人生相談したって意味ないし、自己啓発セミナー出てガツンとやる気になったらいいんじゃないのかな?」
宮乃はそう言うと、自己啓発セミナーを色々と紹介してくれた。さすが都市伝説配信者だけあり人脈は広い。色々と紹介してきれた、スピリチュアル色が濃いものもあり、唯子は引いてしまう。
「自己啓発とスピリチュアルって親和性高いの?」
「最近の傾向はそうだね。引き寄せの法則なんてもう最近はあんまりスピぽくない。都市伝説配信者としてはオカルト扱いされた方が面白いんだけど」
宮乃はさらに笑いながら、自己啓発とスピリチュアル、心理学を掛け合わせたメゾットが有名なインフルエンサーを紹介してきた。三嶋菜緒という女性のインフレエンサーだったが、モデルのような美人だ。顔のほりも深く、ハーフかもしれない。
唯子も単純だ。苦手だと思っていた自己啓発だったが、三嶋菜緒のルックスに惹かれて、セミナーに出てもいい気がしてきた。
「お、いいじゃん。菜緒は私の友達だし、予約取れるから」
「ありがとう、宮乃」
「唯子もきっとやりたいことが見つかるよ。インフルエサーとかになってもいいじゃん?」
「いや、それはどうかな……?」
「冗談だって」
その後、宮乃は呪いのブログの噂のある女優の都市伝説を話し、すっかりご機嫌だった。
好きなことをしている宮乃、楽しそう。羨ましい。こんな風になれたらいいのに……。
宮乃は親身になってくれてのに、なぜだろう。嫉妬心みたいなものが芽生えてしまい、唯子は慌ててコーヒーを飲み込んだ。




