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事故物件エクソシスト〜霊のお悩み、承ります〜  作者: 地野千塩


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永遠の契約(10)

 どうしてこんな場所にいるのだろうか。唯子は首を捻るが、全くわからない。


 なぜか宮乃の両親に呼び出されていた。宮乃は幼馴染だ。この宮乃の実家もよく知っているものだが、お父さんもお母さんも泣いているではないか。


「うちの子が都市伝説配信者になって、本当に困ってる。唯子ちゃん、どうか宮乃をとめて」


 そう言われても困ってしまう。どう答えていいか、本当にわからない。


 こんな泣き崩れているお父さんとお母さんだったが、二人とも医者の超エリートだ。宮乃の兄は海外で医学研究をし、賞も貰っているらしい。どういうわけか宮乃だけがエリート街道を外れ、都市伝説の配信をやっているが、両親からしてみたら「一体なぜ!?」と叫びたいのだろう。確かにこれは突然変異……。


「唯子ちゃん、うちの娘を止めてくれ」


 普段は医者として立派なお父さんにも泣きつかれ、宮乃は想像以上に好き勝手に生きていると察した。


 たぶん、宮乃本人に訴えてもどうにもならないから、唯子にまで相談している状態だろう。気持ちはわかる。宮乃のマイペースさ、たぶん両親でも制御不可能だ。もちろん唯子にも無理だ。今も心霊スポットへ出掛けているらしいし、宮乃を普通の女の子に戻すのは難しい。


「そ、そうなんですね!」


 唯子はもうそれしか言えない。面接があると理由をつけ、宮乃の家から逃げる。実際、転職活動中なのは事実だ。最近は潤子の事件に巻き込まれていたが、書類作り、面接の練習、キャリアコンサルタントとの面談、短期バイトもスケジュールに入っていた。


 しかし、せっかくだから実家にも行くことにした。羽生教会から実家がある街までは電車で三十分分ぐらいでつく。しょちゅう行き来していたが、実家でお昼ごはんでも食べられたらラッキーだ。


「ちょっと唯子、せっかく家に帰ってきたのなら、物置の掃除でもして」

「え、なんで!?」


 そうは言っても、実家に帰ると、今度は母にこき使われてしまった。物置の掃除をするはめになり、埃とカビ臭さと格闘中。


「何ここ、うちの物置、ゴミばっかり」


 次から次へと出てくるゴミの山にうんざりしそうだった。子供の頃の教科書や文房具まで出てきて、全く掃除が終わらなかったが。


「あれ? これ、何?」


 ようやく半分以上、ゴミ袋にまとめた時だった。思わぬものが出てきた。それは古い画用帳。唯子が小学生の頃のものだが、中をなんとなくめくると、絶句してしまう。


「は、何これ……?」


 中には天使や神様の絵があった。神様の絵は顔が描かれていなかったが、手の甲に傷跡がある。冷や汗が出てきた。


 そういえば、子供の頃から霊的な問題に悩まされていた。何か変なものが視えたり、聞こえたりもしたが、天使や神様と一緒に遊んだ記憶も残っていた。


「ど、どういうこと……」


 唯子は残りのゴミも無視し、画用帳を片手に、母のいるキッチンへ走った。


「お母さん、この絵、私が描いた? なんか覚えてる?」


 画用帳を見せると、母は軽く笑っていた。


「覚えてるわよ。あんた昔から変な子だった。幽霊だけじゃなくて、神様や天使と一緒に遊ぶんでもらったとか言うんだもの。色んな精神科に連れていったわ、覚えてる?」


 そんな記憶は全くない。


 ただ、今はこんなふうに笑っていた母も悩んでいたらしい。今のように発達障害など児童の障害について理解もなく、ご近所や親戚の目も厳しかったという。時には自死も考えてしまうぐらい思いつめていたらしい。


 そんな重い記憶を笑いながら話され、唯子は戸惑ってしまう。全く記憶がなく、霊的な問題は自分だけが被害者だとも誤解していた。恥ずかしい。


「なんか、お母さん。ごめん」

「いいのよ。小学五年ぐらいになって落ち着いたしね。でも、あんた覚えてる?」

「何を?」

「近所の教会通っていたこと。そこにはもっと天使がいるからって、私とお父さんが反対したのに、洗礼も受けたいってわがまま言ってたわね」

「は!? 本当!?」


 画用帳を見つめながら、今度こそ本当に声が出なくなった。


 そんな記憶も全くないが、母によると、小学四年のクリスマスイブに洗礼も受け、しばらく教会にも毎日通っていたらしい。


 覚えてない……。


 しかし辻褄は合ってしまう。家に支配人の生霊ほか幽霊が現れた時も神の名前で一瞬で追い払えた。その理由は過去にあったのだろうか。


 もう潤子の件は解決したのに、指先が震えてきた。


「今も教会に住んでいるとかおかしなもんね。何か縁があるのかしら?」


 母は笑ってこの話題を打ち切りにしていたが、一人、子供部屋にいると、子供の頃のこと、何となく思い出してきた。


 子供用の聖書勉強会とかイースターやクリスマス会も楽しみにしていた。


「あぁ、そういえば牧師さん……」


 思い出した。当時の牧師も「何か困ったことがあったら、イエスさまの名前を呼ぶんだよ。必ず守ってくれる。聖書にそんな神様の約束が書いてある。ずっと変わらない永遠の約束」と言われていたのを思い出し、背中がゾクゾクと寒い。


 あの支配人の問題が解決できたのも、神様が約束を守ってくれたのか……?


 潤子の事件、特に悪魔の契約なんかは半信半疑だったが、悪魔の契約があるとしたら、神様との約束、いや契約と言えるものもあるのか……?


「まさか……?」


 信じられないが、目の前で支配人も生霊も消えたし、晶馬の幽霊は消えたのも事実だ。


 もう一度、画用紙を見つめる。下手な子供の絵だったが、線はのびのびとし、天使の顔も笑ってる。楽しんで描いていたことだけは伝わってきた。


 まだまだ信じられないことも多いけれど、この絵を見ていたら、どうでも良くなってきた。全部を解明できなくても、何かに見守られている感覚だけあるから。


「ま、今日はとりあえず羽生教会に帰ろうかな」


 そこには尋人もノラも牧師もいる。猫の毛玉もいる。今はそこが唯子の帰る場所だった。

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