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事故物件エクソシスト〜霊のお悩み、承ります〜  作者: 地野千塩


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永遠の契約(8)

 晶馬の顔写真はネットに載っていた。漫画家というイメージの割に、若く、目も大きく、快活な雰囲気でスポーツマンタイプだった。


 その顔写真とそっくりの男、亡くなったはずなのにこの部屋にいた。デスクに向かい、何か描いていたが晶馬の幽霊?


 わからないが、身体は透けてはいない。脚もある。遠目では生きている様子だが、どこか作り物っぽい。目つきや表情に違和感が残る。


 尋人は何も視えないらしい。仕方ないので、唯子が今、視えている世界を説明したが、ちっとも怖がっていない。腕を組み、いつもより偉そうに立っていた。


「大方、この原稿の匂いにつられてやってきた雑魚悪霊だ。晶馬のフリをしているだけ。しかもたった今、学華が拝んでいただろう。それが足場になって現れた偶像崇拝の悪霊だろう。晶馬の幽霊なんかじゃない」

「尋人さん、そんな断言しちゃっていいんです?」


 こんな会話をしていたが、潤子は全く気づいていない。倒れている学華も無視し、デスクに吸い寄せられていた。


「あなた? あなた、帰ってきたの? 会いたかった!」

『そうだよ、潤子。会いたかったよ』


 潤子は今にも泣きそうだ。最愛の人に再会し、感極まり、指先も震えていた。


「あなた、あなた……」

『潤子、俺のこと信じてくれる? 死んで幽霊になってしまったけれど、これからも一緒にここで暮らそうよ。好きな漫画描いて、気ままに暮らそう』

「あなた……!」


 ドラマのワンシーンのようだ。仰々しい音楽が流れていたら、メロドラマにもなりそうだったが、どうも演技っぽい。作りもの感が濃厚に漂う。


 いくら幽霊とはいえ、妻に再会したら、こんなセリフがスラスラ言えるだろうか。もっと恥ずかしがったり、口篭ったりしそう。照れて無言になるかもしれない。どうも不自然だった。


「尋人さん、あれ、なんかおかしいです。演技っぽいというか、何か嘘ついている感じです。まさか潤子さんを騙そうとしてる?」

「なるほど、なるほど。リス子、グッドジョブだ。HSP的な観察眼、おそらく当たってる」


 ふいに褒められ顔が熱くなってきたが、本当に演技臭い。あの晶馬の態度が嘘らしさ濃厚。本物に見えない。


「おそらくこのまま潤子を騙し、崇拝させるのが目的だ」


 一方、尋人はニヤニヤ笑っている。


「潤子さん、感動的な再会の中、悪い。こいつは旦那じゃない。幽霊でもない」

「え?」


 この瞬間、ドラマは終わった。潤子の目は点になっていた。


「こいつは悪霊だ。聖書でいうところのな。死んだ人の記憶を拝借し、晶馬先生の演技をしているだけだ。平成に流行ったオレオレ詐欺みたいなもんだ。晶馬じゃない。旦那じゃないんだよ」


 尋人はこの空気を読めず、念を押す。


「おい、雑魚! 偶像崇拝の悪霊だな?」


 潤子の戸惑いを無視し、尋人が叫んだ瞬間だった。


 晶馬の幽霊、その声と同時に姿形を失っているではないか。


 まさに化けの面が剥がれていた。晶馬の姿は跡形もない。黒い影のような何かが現れ、潤は悲鳴をあげ気を失っていたが、それも一瞬。


「お前、偶像崇拝の悪霊だな!」


 そう尋人が正体を暴いたせい?


 それは急に力を失い、一切の動きを止めていたが、尋人は全く容赦もしないし、目を合わせたり会話もしようともしなかった。


「イエス・キリストの名前で命令する! ここから出ていけ。二度と戻ってくるな!」


 あっという間だった。それは消えてしまった。電気の不調もすぐにおさまり、唯子のスマホも通常通りに戻っていたが、潤子も学華も気を失ったままだった。


 とはいえ、この部屋の空気は全く変わっていた。少し換気もしたら、圧迫感なども全部なくなり、まさに憑き物がとれたようなスッキリ感に覆われる。


「や、やっぱり幽霊って聖書でいう悪霊なんですか?」


 神の名前で本当にいなくなった。しかもこんなのは一度や二度じゃなかった。


 幽霊みたいなものは消えたはずなのに、なぜか怖い。幽霊が怖いんではなく、その神が本当にいると仮定すると……?


「そうだ。だから、簡単に追い出せたわけよ。あ、お金とかか聖水とか塩もいらん。十字架のネックレスもニンニクもいらんぞ。聖書の本自体もな。信仰心さえあれば誰でもできる」


 尋人はふわぁと欠伸をしているぐらいだ。こんな事、日常茶飯事と言いたげ。


 ようやく学華や潤子も意識を取り戻していた。唯子は二人に事情を説明するだけで精一杯だったが、尋人はまた欠伸をし、床に散らばった原稿を丸めてゴミ箱に投げていた。


「はぁ。晶馬先生、こんな才能があるのにな。実にもったいない……」


 尋人の独り言、唯子の耳にもしっかり届いていた。その声、意外にも憐れみが滲んでいた。

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