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事故物件エクソシスト〜霊のお悩み、承ります〜  作者: 地野千塩


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永遠の契約(5)

 翌日、唯子と尋人は二人で歩いていた。もちろん、二人の間に甘い空気などない。これから亡くなった晶馬の仕事場に行くから。


 海辺に近い閑静な街だ。駅周辺のごちゃごちゃしてなく、テレビでも有名な魚料理の定食屋などが連なっていた。ギャラリーやライブハウスなども目立つどこか文化的な匂いもする。都心から少し離れているせいか、住民も落ち着いている。


 そんな街を歩きながら、唯子は隣にいる尋人に話しける。尋人はコンビニで買ったアイスを食べ歩きし、どうも一緒に歩くのは恥ずかしい。すれ違った女子高生にもクスクス笑われていた。


「ところで、幽霊って本当にいるの?」


 前々から気になっていることを聞いた。尋人によると、幽霊=聖書でいう悪霊ということらしいが、完全に納得はいってない。


「幽霊はいない。幽霊のフリをした悪霊がいる。天使もいる。神様もいる。もちろん見えない世界でだが」


 尋人の口調は堂々としていた。それでも全然納得できないが、唯子や潤子のように視える人とそうでない人の差があるのだろうか。


「聖書には見えないものを確信することが信仰だという。つまり、信仰によって確信度合いが強ければ見えないものも全部見え、聞こえるようにもなる」


 バリバリとアイスのコーンを噛み砕いている尋人。かなり恥ずかしい大人だが、相変わらず堂々としたものだ。


「ただ、現代では科学や常識など色々なものが刷り込まれ、見えないものへの確信が持ちづらい。一方、子供はそうじゃない。まだ脳に余計なもんが入っていないからナチュラルに視えたりするわけ」

「そういえば私、子供の頃から視えるタイプだったわ。生まれつきだと思っていたけど。じゃあ、潤子さんはなんなの?」

「彼女はネイリストだ。広い意味ではクリエイターとも言える。そういう人も常識があんまり脳に入っていない可能性がある。視える可能性が高い」

「なるほど」


 そう言われれば、幽霊が視えるからくり、一応筋は通っているようには見える。その信仰というもの、信じる心で見えるものか。


「晶馬先生も漫画家というクリエイターだった。彼も視える可能性、大いにあるんだよな」

「それがこの問題を解決する鍵?」

「わからない。ともかく現場を見ない限りは」


 そういうしているうちに、潤子の家の前までつく。


 想像以上に大きな家だった。三階建で門も立派。一体どこが玄関なのか、門なのか迷うほどだった。郵便受けの近くには監視カメラも設置され、異様な雰囲気だ。監視カメラのせいで憧れが持ちにくい。チャイムを鳴らさなくても潤子が現れた。


 昨日と変わり、顔色は良さそうだった。尋人に対してはよそよそしいが、この霊的問題を解決すると宣言すると、笑顔も見せてくるぐらいだ。


「さあ、さっそく現場の主人の仕事場へご案内します」


 潤子は唯子たちの少し前を歩き、案内してくれた。


 そこはあのお屋敷から数分の距離にある低層マンションだった。こちらもエントランスが立派で、ジムやサウナ、図書館やパーティールームまである。明らかに富裕層向けのマンションだ。エントランス側にはコンシェルジュもいたが、唯子が働いていたようなB級ビジネスホテルのカウンターとはスタッフの雰囲気も違う様子。


 唯子は緊張しているが、尋人は口笛を吹いている。この事件、楽しんでいる様子だが、綺麗なマンションだ。とても事故物件に見えない。過去に殺人事件があったという噂もどうも嘘くさい。


「こちらです。部屋は当時のまま。食べ物とか腐るものは捨てていますけど」


 潤子に二階にある部屋に案内された。中もいたって綺麗だ。静か。


 メインの大きな部屋には机が並び、作画用のペンやインクなども並んでいた。パソコンもあっったが、晶馬はアナログとデジタル、両方使っていたらしい。


 他にも人体模型や風景の資料本などが本棚にある。アクリルスタンドやぬいぐるみも置いてあり、やはり漫画関係の仕事部屋という印象だ。


「潤子さん、どのあたりで旦那の幽霊ってやつを見たか?」


 さっそく尋人は潤子に聞いていたが、何か思い出したよう。潤子の表情はみるみる曇っていき、具合が悪そうだった。


「すみません。これ以上、ここにいるのは無理。気持ち悪いわ」


 ハンカチで口元を抑えながら、潤子は外へ出て行ってしまう。


「な、確かにこの部屋。なんか雰囲気が重いというか」


 唯子もだんだんこの部屋にある空気を感じてくくると、どうも軽い雰囲気がしない。棚には漫画もあってたのしそうなのに、圧迫感があるというか。少し重いというか。幽霊は何も視えない。綺麗で静かな場所なのに、なぜか首元がぎゅうっと苦しくなってくる。


「変な空気があるような? 何この部屋」

「まあ、落ち着け、リス子。たぶんHSP的な特性で何か感じているだけじゃね?」


 尋人は何も感じていない様子だったが、その場でしゃがみ、祈り、讃美歌も歌っていた。


 小声の讃美歌だ。しかも尋人、音も外していた。


「主は良いお方〜♪」


 上手い讃美歌ではないはずだが、急にすっと圧迫感が消えていく。部屋の空気も、どこか軽くなってきた。窓からは春の日差しが差し込み、明るい。唯子もようやく落ち着いてきたが、やはり祈りや讃美歌など何かあるのだろうか?


「っていうかリス子、この部屋で一番気分が悪くなった部分ってどこだ?」

「人を何かの探査機みたいにいってません?」

「何かわかるかもしれん。どこが一番キモかったか?」


 尋人にうまいこと利用され呆れてきたが、確か、この一番奥にあるデスクの雰囲気が重かった。


 それはアシスタントのデスクらしい。蒼井学華というネームタグも机にある。机の上はパソコンや画材も並べてあったが、アクリルスタンドがずらりと飾ってある。どれも晶馬の漫画のキャラクターだった。推し活の一環だろうか。アクリルスタンドは紙製の神殿の上に飾られていた。


「本当に偶像ぽいな、これ。これらが悪霊を呼んでる足場か?」


 一方、尋人は呆れつつこのアクリルスタンドをチェックしていた。


「単なる推し活では?」

「推しでも対象を神様以上に拝んだら、偶像崇拝で悪魔との契約成立だわな。悪霊を呼ぶぞ」


 まさか推し活が偶像崇拝?


 唯子が驚いているすきに、尋人は学華のデスクを漁る始めた。


「ちょっ、勝手に触っていいの?」

「いいだろ? 何かわかるかも」


 尋人は全く悪びれない。それどころか、デスクから本を見つけていた。


「なんだこれ?」

「え、なにこれ?」


 その本、唯子も驚いた。魔術の本で、悪魔召喚の方法などがまとめられている。


「漫画の資料か?」


 さらに尋人はデスクを漁り、声を失っていた。あの変人の尋人が声を失うなんてよっぽどだ。


「何? 何か見つかった?」


 魔術の本が見つかるだけでも気持ち悪いが、尋人の手には意外なものがあった。


 それは漫画の原稿だった。絵は荒く、未熟だったが、晶馬の絵だとわかる。デビュー前の未発表原稿?


「なんだ、これは?」


 その原稿、尋人を一番戸惑わせていた。

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