表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
事故物件エクソシスト〜霊のお悩み、承ります〜  作者: 地野千塩


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/31

永遠の契約(3)

 この猫、人間の言葉がわかるのだろうか。潤子が泣くと、憐れむような視線を向けている。普段はミャーミャー騒がしい猫のはずだが。風呂でも暴れるようなヤンチャ坊主のくせに、今は潤子の膝の上で大人しくしていた。


 一方、尋人は空気が読めない。猫ですら何か感じ取っているというのに。


「本当に死んだ旦那の幽霊か? あのな、キリスト界隈では幽霊なんていないんだがな。幽霊なんて全部悪霊だ。死んだ人間のフリをしているってだけ。お墓にご先祖さまもいないぞ。いるのは悪霊。死んだ人はみな、神様の元へ向かい裁きを受ける。そんな地上をいつまでも彷徨うとかない」


 尋人のデリカシーのない声、頭が痛くなってきた。


「いいえ! 主人が私に何か伝えたい、未練があるから幽霊になってきたと思うんです!」


 潤子も負けずに言い返していた。怒ってる。美人が怒ると、迫力があり、尋人もたじろいでいた。


「私、この変な牧師と会話したくないです」

「変な牧師だと!?」

「変ですよ。自分でオカルト牧師とか言います?」


 このままだと尋人と潤子、喧嘩になりそうだ。


 唯子は急いで間に入り、尋人を応接室から追い出し、コンビニで客用のコーヒーとお菓子を買ってくるように言う。ほとんど命令だった。


 その間に潤子を宥めるしかない。大丈夫。こういう情緒不安定な客、夜中によくいたものだ。慣れてる。


 唯子は潤子の隣に座り直し、落ち着くのを待った。猫もおとなしい。潤子は猫が嫌いではなさそうだし、膝の上に載せたまま、しばし無言。


「はぁ……」


 数分たった頃、ようやく潤子のため息が聞こえた。猫のおかげか落ち着きは取り戻せたらしい。


「ごめんなさい。やっぱり夫が亡くなってから心身が不安定で」

「大丈夫ですよ。私、ビジネスホテルのカウンターの仕事をしてましたが、全然普通だと思います」


 一番悩ませていたのは客ではなく、ストーカー化した支配人だったが、数々のカスハラのエピソードを披露すると、潤子もより落ち着いてきたらしい。クスクス笑っているぐらい。


 その横顔、とても根っからの悪人に見えない。夫を亡くして一年という事情を考えると余計にそうだ。


 とてもじゃないが尋人のように対立する気分にはなれない。それに潤子が視えるという幽霊も気になる。いつから、どんな風にあるのか聞いてみよう。ここは相談役に徹することにした。


「夫の葬儀が終わって一カ月ぐらいの時だったかした。マスコミの対応も終えてようやくホッとしていた頃。あんまりやる気はなかったけれど、夫の仕事部屋に入って少し片付けようと思ったら」


 ここで潤子は猫の丸っこい背を撫でていた。こうしていると、落ち着くのだろうか。尋人と言い争っている時と違い、すっかり落ち着いていた。たぶん、ここで潤子が情緒不安定になったのも、九割以上尋人のキャラクターのせいか。


「そしたら、夫の幽霊が視えるようになったの。別に何か言っては来ないわ。ただいつものようにデスクに向かって漫画を描いてるだけで」

「他に変わったことは?」

「そうね……。やっぱりあの部屋にいると具合が悪くなるというか、胸がギュッとする。連載も続けたかったでしょうし、他にもいろいろ作品描きたかったと思うと、ね……」


 言葉につまり、潤子はこれ以上、何も言えないようだったが。


「過去に殺人事件があったというのは?」

「夫のアシスタントの一人が調べてきてくれたの。保険金目当ての殺人だったみたい。でももう五十年前のこと。本当にそれが夫の幽霊と関係あるのかも分からない」


 確かに日本の土地、古代まで遡れば何の穢れていない土地はないはずだ。それとこれを結びつけるのは、強引すぎる。


「夫のアシスタントもねぇ、いわゆる癖が強い人達は多くて。彼らと話すのも一苦労よ。中には夫の死について責めてくる子もいる。もう神様のように夫を崇めてるし。蒼井学華って子なんだけど」


 それは引っかかった。例のホテルの支配人の件でも、唯子のことを女神のように崇めていた。そこが悪霊の足場になったと尋人から説明も受けていた。五十年前の殺人事件よりも、蒼井学華というアシスタントがキーか。


 それよりも、目の前で困っている潤子が気になって仕方ない。確かに情緒不安定な部分もある。決して善人ではなさそうだが、悪人でもない。


 何より、霊的問題で悩まされていた自分と重なって見えてしまう。


 尋人とかキリスト教の教えとかは、どうでも良くなっていた。何か潤子の気が楽になれる方法があればいい。


「わかりました! 潤子さん、我々に任せてください。出来る限り、旦那さんの件について調べたいです。私も霊的なものが視えたり嗅いだりできましたし!」

「え、いいの。私の話、信じてくれる?」


 その潤子の目、藁をも掴むようだ。


「ええ、もちろんです!」

「ミャー!」


 猫も鳴く。この時の唯子の頭、「安請け合い」という言葉が抜け落ちていた。


 楽観的だった。例の支配人の件も解決できたから、潤子の件も簡単だろと甘く見ていたのだ。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ