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事故物件エクソシスト〜霊のお悩み、承ります〜  作者: 地野千塩


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永遠の契約(2)

 教会の応接室、ここも他の部屋と違い、一般的な部屋だった。


 ソファと机だけ目立つ。壁にはなんの装飾もなく、一般的な会社の応接室と言っても問題ないぐらいだ。


 ソファに座った美女は具合が悪そうだ。どうにか座っているという感じ。


 唯子は白湯を作り、一応ロキソニンも持っていった。ノラはバイトに出掛けてしまったが、尋人は美女の名前などを聞くことに成功したらしい。


 名前は小森潤子という。年齢は三十二歳。ネイリストらしい。個人で経営しているお店も持っているとか。


 確かに服装は地味めだったが、爪はキラキラとした石やシールがついていた。春らしいピンク色で、そこだけはお祭りのように賑やか。


 一方、潤子の表情は暗い。顔色も悪い。せっかくのネイルも台無しという感じ。


 それでも、唯子も尋人も何も言わずに見守っていたら、回復してきたらしい。白湯やロキソニンの効果もあったのだろう。潤子の頬に血の色が戻ってきた。


「すみません。最近、色々あって体調不良で」


 肩をすぼめ、潤子は恐縮。この家に居候しているノラやや尋人にはない繊細さだった。


 話も何も聞けない。きっと何か訳がありそう。朝早く来ているのも気になる。緊急の事情でもあったのだろうか。


「でもなんで初対面の私を助けてくれたんですか。何の得もないはずよ」


 それに思いがけず、親切にしてもらったことに、戸惑っているよう。潤子の気持ち、唯子はなんとなく察した。確か、今の時代は知らない人に話すかけたりすると変質者扱いも珍しくない。親切にもハードルがある。


「聖書には良きサマリア人のたとえ話っていうところがある。目の前にいる人を助けるのはキリストの命令だ。お気になさらず」

「そ、そうですか……」


 潤子はここでようやく警戒心をといたのか、少し笑っていた。この隙だったら、大丈夫そうだ。尋人も唯子も自己紹介をし、なぜここに来たのか質問した。


 尋人だけだったら話しにくそうだったが、同性の唯子もいる。おまけに猫もやってきたおかげで、潤子の緊張は解けたらしい。猫を膝の上に乗せ、丸っこい背中を撫でつつ、経緯を語ってくれた。


 潤子も霊的な問題に悩まされているらしい。亡くなった夫がいたそうだが、一年前から彼の部屋や仕事場で幽霊のような影を見るようになり、疲労困憊だという。


「こんな問題、医者や両親、友達に話しても信じてくれなくて。それに、彼の仕事部屋の土地、五十年ぐらい前に殺人事件があったという話も聞いてしまって……」


 潤子は肩を丸め、震えていた。猫の背中を撫でながら、ようやく正気を保っているという様子だった。


「殺人事件? でももう五十年前のこと。そんな穢れた土地、正直どこにでもある。大昔まで遡れば、誰かしら死んでいてもおかしくはない」


 一方、尋人はこんな潤子にも冷静だった。


「気のせいかもしれない。疲れてそういうものが視えることもある」

「ちょ、尋人さん? 自称・オカルト牧師じゃないの? 何でそんなリアルなこと言っているんです!?」


 こんな霊的な話、ノリノリで食いつくのかと予想したが、意外にも尋人は慎重だった。


「気のせいではなくて?」

「ええ、牧師さん。気のせいではないわ。本当に悪魔みたいなものが視えたし、聞こえた。嘘じゃない。だから噂を聞きつけてこの教会に来たの」


 潤子と尋人の空気、ピリピリしてきた。


「本当はキリスト教とか疑っているけど、お寺や神社でも聞いてもらえなかったから。ええ、正直、キリスト教も別にいい印象はないけど、霊的な問題が解決するって噂は聞いたから。ご利益目的です」


 尋人の表情、こわばっていた。確かに教会にきてキリスト教を疑うとは一体。ご利益目的だけなのだろうか。唯子でさえ、キリスト教に逆らってはいないことを確認してきたが。


「あぁ、そうですか」


 尋人の顔は笑顔だったが、目は笑っていない。側で聞いてる唯子はハラハラしてくるほどだったが、これ以上、空気も悪くできない。


 唯子は笑顔で潤子に向き合い、その亡くなった夫について詳しく聞いてみた。これで少しは空気も丸くなるだろう。


「旦那さんはどんな方だったんですか? やっぱり職業は同じ美容関係ですか?」


 なるべく感じ良く話した。ホテルの仕事で不機嫌な人には慣れているのもある。


 そのおかげか、潤子の機嫌は良くなった模様。


「うちの旦那は小森晶馬よ。本名で活動していたから知ってるかな。漫画家よ。漫画家の小森晶馬」


 その声を聞き、唯子の目が丸くなった。尋人も同様だ。


 小森晶馬は人気漫画家だ。オタクでもない唯子でも名前ぐらいは知っている。アニメ化された作品も馴染みがあり、数年前はコンビニのイメージキャラクターにも選ばれ、海外での知名度も高い。


 一年前に亡くなった時は大騒ぎだった。若くして亡くなった天才漫画家。ネットでは都市伝説や陰謀論も流布されたぐらいだ。記憶に新しい。


「本当に困ってるわ。あの人の幽霊がいるんじゃないかって」


 潤子は情緒も不安定らしい。亡き夫の話題後、泣き崩れてしまう程。


 応接室にすすり泣きの声だけが響いていた。

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