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事故物件エクソシスト〜霊のお悩み、承ります〜  作者: 地野千塩


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永遠の契約(1)

 ミャー、ミャー!


 石山唯子の目の前で猫が鳴いていた。羽生教会で飼っている猫だ。茶トラの猫で、今や野良の面影は全くない。その証拠に、餌やり係の唯子に、上目で甘え、鳴き声もいつもより高め。あざとい。この猫、オスなのに自分の可愛さ、よくわかってる。


「はいはい、わかったよ。今、カリカリしたやつあげるからね」

「みゃー!」

「はい、どうぞ」


 あれ以来、唯子も羽生教会に暮らしていた。部屋も一応個室だ。机もベッドもあり、風呂の時間も決まっている。尋人や牧師も仕事で深夜まで帰ってこない日も多く、プライバシーも問題ない。そもそも唯子も転職活動に忙しい。失業給付金は出ているものの、家賃もタダで生活できるのはありがたい。


 もっとも、この猫と同じく居候のノラの世話はあったが。


 猫の餌やりを終えると、すぐにキッチンの向かい、トーストやスープを作って、茶の間のちゃぶ台に並べた。


 朝ごはん作りも何となく唯子の仕事になっていたが、他の面々は全く食に興味がなく、インスタントやカット野菜でも全く文句を言われず、助かってはいた。何より食費や家賃、光熱費がタダなのはありがたい。


 その後、焼けたパンの匂いに引き寄せられるように尋人やノラもやってきた。ちなみに牧師は長崎に出張でいない。


「おはようございます!」

「おぉ、リス子。朝から元気すぎねーか?」


 尋人は寝癖のついた自身の髪をかきむしり、ため息。昨日、深夜まで動画編集をしていたらしく、明らかにお疲れの様子。


 この教会、お金はないらしい。牧師の給料は一カ月十万円ちょっと聞いたこともあり、顎が外れそうだった。日本でキリスト教徒は少ないため、ギリギリの生活をしている教会関係者が多いらしい。


 なので神学本執筆や動画製作も大きな収入源。尋人も神学やオカルトの動画を作り、メンバーシッップなどの工夫をしながら、なんとか収入を得ているそう。


「尋人おじ、バイトでもすればいいやん。ほら、タイミーの求人みてみ? スーパーや物流倉庫の求人出てる」

「マジか。ノラ、一緒にバイト行くか?」

「えー、やだぁ。っていうか今日は最賃のバイトしかないっぽ」


 ノラはスマホをいじり、尋人と会話しながら食事。しかも肘をついていたし、箸もグーで持っている。明らかに行儀が悪い。


「ノラ、お箸の持ち方わかる?」


 一応、ノラの教育係の唯子。気になってしまい、口出してしまうが、嫌だと拗ねてきた。


「やだ! 面倒!」


 意外と頑固だ。尋人たちがノラの教育係が欲しいと言った理由はわかるが、これはどうするべきか。


 一方、尋人はキリスト教式の食前の祈りをしていた。


 最初は未知の世界だった。ちょっと宗教くさく、側で聞いている唯子は慣れない。ここで暮らし始めた今でも慣れないが、驚いたことに、お祈り後、ノラの態度が変わっていた。


 急に背筋を伸ばし、スマホをいじるのを辞めている。唯子にも謝ってくるぐらい。


「いや、神様? お天道様とかに見られていると思うと、だらしない態度できないっていうか」


 ノラは恥ずかしそうに舌を出す。


「えらいぞ、ノラ。人間は神様の作品だ。神が人間を創造したのだ。そう反省し、態度を改めることはとても尊いぞ。うん、えらい」


 尋人に褒められ、ノラの顔は真っ赤だ。確かに今どきの若者っぽく態度に難点のある娘だったが、根っからの悪人ではなさそう。


「本当に私たちは神の作品なんですかね?」


 唯子も食事をしながら聞く。学校では人間は突然変異で生まれたと習った。進化論だ。そんな神様に創造されたという説、なかなか受け入れられない。


「そうだ。人間は全員、神に創造された。本当は素晴らしい存在だ。動物だってそうだぞ。猫とかも」

「マジで! だったら神様、めちゃくちゃセンスいいじゃん。猫の耳とか、肉球とか一から思いついたわけ? すご!」

「そうだ!」


 ノラははしゃぎはじめ、尋人はなぜかドヤ顔していたが、解せない。


 唯子はひとり黙って考える。もし、自分も神に創造された存在だとしたら?


 何か生きる意味、目的があるってことだろう。だとすると、適当にバイトをはじめ、ダラダラとB級ビジネスホテルのカウンター職もしていた過去は?


 転職活動中の今も、なんとなく求人を見たり、会社見学に行っている。それは本当に正しい選び方なのかわからなくなった時だ。


 この茶の間に猫がやってきた。


「ミャー! ミャー!」


 しかも催促するように泣いてる。ご飯でも欲しいのだろうか。でもご飯はあげたばかり。


「唯子さん、水が切れてるんじゃない?」

「あ、そっか」


 ノラの予想はあたり、本当に水が切れていた。水をあげると、ぐびぐび勢いよく飲んでいた。


「そういや、この猫。名前つけてないな」


 その時、尋人は重大なことを指摘。そうだ、まだこの猫に名前はなかった。


 いつも「猫」とか「あの子」と呼ばれていたが、確かにここで飼っている以上、名前はないのは不自然だった。


 ということでちゃぶ台を囲み、三人で名前の案を出す。尋人は聖書から取りたいと主張。一方、ノラはアプリのルーレット適当に決めたいと主張。どちらも頑固。板挟みになった唯子がただただ戸惑うが、ちょうどその時、チャイムが鳴る。


 どうせ宅配便だろうが、正直ありがたい。意外と頑固な二人の調整役などあんまりしたくなかった。


「どちら様ですか?」


 急いで教会の玄関に向かうが、そこには宅配便業者の人は立っていなかった。


 見知らぬ女性が一人、立っていた。背は高く、色は白い。年齢はアラサーぐらいだが、美人だった。単なる美人というよりは、色が白いせいか影のある美人に見えた。


「あ、あの、私は……」


 しかし、その美女、口篭っていた。体調も良くなさそうで、よく見たら目の下は真っ黒だった。


「どうしました?」


 誰かはわからないが、具合が悪そうなことは確かだ。放っておけない。


 後からやってきた尋人、ノラとともに、美女を教会の応接室まで連れて行く。足元もふらつき、本当に具合が悪そうだ。


 もう猫の名前などどうでも良くなってしまった。目の前にいるこの人、気になって仕方ない。

 

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