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村での夕食

山小屋から銃撃音が響く。それを合図にライフル部隊は一斉に山小屋を狙う。

激しい銃撃戦のさなか、誰かが山小屋のドアを開けてくれた。


さくらはヴィーナスに肩を貸し、山小屋に飛び込む。


ドアを開けてくれたのは、三十代と思しき母親だった。


震えている三組の家族の子どもたちの姿が、さくらの目に入った。


ヴィーナスはすぐさま窓に近づくと、そこから矢を放ち、ライフル部隊を一人づつ倒していく。


小屋にいる三人の男たちも、もう一つの窓から、ボルトアクションのライフルで応戦する。


反動から手首を守るためにバンテージを巻いた大倉が、山の木々を通り抜け、そっとライフル部隊の側面に出ると両手で45口径のマグナムを撃ちまくった。


轟音と共にライフルを持った腕が千切れ飛び、腹部に大きな穴が開く。マグナム弾を浴びた兵士は即死に違いない。


「ちょっとばかり三十八口径とはワケが違うぜ!」


大倉の奇襲に慌て、部隊はライフルを彼の方へと向けた。それを逃さず、山小屋からの銃弾とヴィーナスの矢によって部隊は全滅した。


山小屋のドアを開けた大倉が声を張り上げる。


「あんたら家族を脱出させにきた。またミサイルを撃たれたら助からない、急いでくれ」


足を負傷しているヴィーナスを見つけると、大倉は彼女を抱き上げた。


「さくらさん、あの後逃げ足も鍛えたんだぜ」


そう言うなり、大倉はヴィーナスを抱えたまま、山を横切るように道なき道を大倉は駆け出した。その後を三組の家族が続き、最後尾はさくらだ。


ヴィーナスが楽しげな笑顔を浮かべ大倉を口説きだす。


「イケメンですね。結婚してないなら旦那にならない?」


「有り難いですが、年下派なんです」


「あの子ですか?さくらって子」


「それより今は脱出です」


「心配しなくていいですよ。娘が来たようだから。ほら聞こえるでしょ、連中の悲鳴が」



◇◇◇◇



村の入り口に待機していた三十人のライフル部隊とジープに据え付けられた機関銃が、狂ったように悲鳴を上げて、一斉に火を噴く。


迫りくる麗香の異様な走る速度が、引き金を引かせたのだった。


走りながら地面を蹴り、上空十メートルほどまで跳躍した麗香は、小隊の残りへ向けて矢を放つ。


放たれた矢は空中で何十本にも分かれ、全ての兵士を貫いた。

声も出せず、空気が抜けたように崩れ落ちる。


着地し、ボロボロになった村の惨状を下から見た麗香の目に涙がにじむ。


「母ちゃん……」


山のどこかから声が聞こえてきた。


「麗香ー!いい男見つけたよー!」


泣きながら笑顔になり、大声で叫び返す。


「なんだよ母ちゃん、生きてたのかよ!」


「生きてるよ~~」


山から山岸舞子を抱いている大倉、六人の子どもたちと、六人の両親、最後にさくらが降りてきた。道なき道の木々をかき分け進んだため、全員の体中が擦り傷だらけだ。


大倉に抱きかかえられたままの山岸舞子が、麗香に大倉を紹介する。


「いい男でしょう。旦那にする事にしたんだ。あんたのお父さん」


「えええええええええ!!!!」


さくらと麗香が同時に叫んだ。


「冗談よ。大倉さん、もう降ろしてもらって大丈夫です」


山岸舞子の足の銃創からは、すでに血は止まっていた。

三家族に向き直る。

「村長として言うわね。あなた達家族は、もうこの村に居ちゃいけない。ここを手に入れるまで何度でも軍を送り込んで来るわ」


大倉が暖かい笑顔を向ける。


「僕がホテルまで送ります。それが、高山潤さんから依頼された仕事ですので」



舞子は納得した。


「潤ちゃんが依頼したの。気にしないでって言ったのに」


さくらはそんな大倉をじっと見つめる。


(やっぱり、大倉さんかっこいい)


大倉はさくらへ声をかけた。


「さくらさん、戻って来ますので、その時にお礼をさせて下さい」


「ひゃい」と声が裏返り、耳まで真っ赤になった。


三家族と大倉を見送った後、山岸舞子が独り言のように呟く。


「さあ、村は守らなきゃだめだけど、金脈を知ってしまった村人たちも狙われかねないね」


「母ちゃん、もう、あいつらをぶっ潰すしかないって」


「母ちゃんは、軍を潰すことに反対しないよ。人を殺すことに反対してるの。あんた、やっちゃったけど……まあ、私もやったし今回はしょうがないわね」


麗香は話を切り替えさくらに笑いかける。


「さくら、あっしの家も半分壊れたけど、泊まっていってよ。母ちゃんに聞きたいことあるんだろ」


「ありがとう」


村の家は、なだらかな坂を段々畑のように、平らな地面に建てられていた。


舞子と麗香の家は、後ろに畑があり、その向こうは山へと続いている。


石を積み重ねて造られたその家は、迫撃砲の砲弾で、入り口が崩壊し、屋根の半分が吹き飛ばされていた。


舞子と麗香の後ろから瓦礫を跨いでさくらが家に入ると、木でできた部屋の仕切りは爆風で崩れ落ちていた。


「片付けるのが大変ね、これは」


「母ちゃん、あいつら殺さないで修理と片付け手伝わしたほうが良かったね」


「麗香、もうすぐ暗くなるから、今のうちに壊れてないランプを探してちょうだい」

舞子が奥まで歩いて周りを見渡すと、幸いにも被害は少なそうだった。


「リビングと台所は大丈夫そうね」


「母ちゃん、部屋のランプ、ガラスが割れてるけど使えそうだよ」


「そう、テーブルも無事だし、食事にしましょうか」


「あの、もしよろしければ、あたしが作りましょうか?」


「あら、さくらちゃん料理ができるの?」


「煮物なら作れます。景子さんに教えてもらったんです。ジュピターさんです」


「へえ~あの戦闘狂の景子が料理をね。あなた、みんなに会ったって言ってたわよね」


「母ちゃん、あっしも橘彩って医者に会ったよ。ネプチューンだったんだって」


「彩が近くに住んでたの……食事しながら話しましょ。必要な材料は麗香に言って」


さくらと麗香は、裏の畑から、大根と人参を抜いてきて、じゃがいもの皮を剥き、干し肉

を切って鍋で火が通るまで煮込んだ。味付けは味噌を使った。村の人が作った味噌や醤油を分けてもらっているらしい。


出来上がった鍋をテーブルに運ぶと、椅子に座って待っていた舞子を見ると目が真っ赤になっていた。


「ごめんなさい。随分前に、みんなが生きてるって聞いたのに、今になって、なんだか急にこみ上げてきちゃって」


鍋をテーブルの真ん中に置き、さくらが皿に盛りつけていく。

皆が手を合わせた。


「いただきます」


「あの、舞子さんって呼ばせてもらっていいですか?」


「もちろんよ」


「あたし、隕石が降ってきた時代に居たんです。マンホールに隠れて、落ちていったら、この時代だったんです」


さくらは、これまでの旅を思い出し、マーズとのこと、東京タワーの残骸を見てしまったこと、ジュピターと一緒に戦ったキメラ戦、そして橘彩と病院で出会ったことを話し、探しているのは、山城明音だと伝えた。


「そうね、明音なら何かやってそうだわ。でも、どこにいるかはわからない。ただ、仙人みたいな女がいるって行商人から聞いたことがあるわ」

「その行商人の方は、今はどこにいるんですか?」


「ここは村だから、時々旅の行商人がやって来るだけなの。でも、誰だったか思い出せないしどこにいるかも分からないわ」


「そうですか……」


「なんと言えばいいでしょう……もしも隕石が降ってる時間に帰れたとしても、もう世界は……」


「それも考えました。あの時間に戻ったら、あたしも死んじゃいますよね。でも、明音さんに会って何かを聞きたいんです。自分でも何が聞きたいのか、まだわからないですけど」


一瞬の沈黙が流れたが、すぐにさくらはポケットから紙を取り出し、舞子に渡した。


「これが、皆さんの住所です」


舞子は、そこに書かれた住所をじっと見つめた。


「どうしたらいいでしょうね。彼女たちが来てくれたら、今回は村と村人を守ることは簡単だわ。でも、ずっと村に居てもらうことはできないし」


「母ちゃん!ぶっ潰せばいいだけじゃん」


その言葉に舞子は首を横に振る。


「政府は直轄地の都市に軍を駐留させているの。だから、山賊もギャングも手を出せない。最低の治安は成り立ってるのよ。こんなとき、明音がいてくれたら、いい知恵を貸してくれたんでしょうけど」



◇◇◇◇



同じ頃、首都にある会議室では、首相と大臣たちが話し合いをしていた。


「首都の軍が壊滅した。ヘリコプターまで墜落させられたようだ」


「漆黒の狂戦士とは一体何者なんだ?」


「噂に聞く異様に強い婆さんのことか?」


「それはあの村だけじゃない」


「漆黒の狂戦士は、若いらしいぞ」


「どちらにしても、金を掘りだされるわけにはいかない。経済が歪む」


「そうだ、金貨を作り出すことができるようになれば、政府の統制が効かなくなる」


「まずは、あの村を奪うことだ」


「すべての直轄地から、動かせる兵力を集めよう」


「どんなに強くても、相手は立った二人だ。負けるわけがない」



◇◇◇◇



首都除く四ケ所の直轄地から、治安維持に必要な最低限の人員を残し、それ以外のすべての隠しておいた兵器と兵士を呼び寄せた。


政府のすべての兵力が舞子と麗香の村へと向かって進軍を開始した。







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