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政府の軍隊

ようやく見つけた小さな林の木陰に、麗香とさくらは腰を下ろして、昼食を取ることにした。


麗香が生の人参をさくらに差し出す。


「かあちゃんさ、ずっと美容とかファッションに凝ってんだ。でね、野菜とタンパク質を適度な割合で食べなさいって言われてんだよね」


麗香は、カリッといい音を立てて人参を噛み、干し肉もさくらへ手渡した。


「いつも野菜は生で食べてるの?」


「かあちゃん料理できないからさ、ちっさい頃からこうだよ」


「すごいね」


「そう? さくらの父ちゃんと母ちゃんはどんな人?」


「ママは、あたしを生んで死んじゃったんだ。だからわかんない。パパは剣術に狂った人。麗香さんのお父さんはどんな人?」


「母ちゃんは、羊みたいな人って言ってた」


「ん~~~? わかんないね」


さくらは首を傾げた。「羊」というのが想像つかない。


「ところでさ、なぜ軍に村が狙われるの?」


麗香はまるで他人事のように、けろりとした顔で話し始めた。


「簡単に言うとね、三ヶ月前のことなんだけど、こういうことなんだよね」


◇◇◇◇


始まりは、村に住んでいる高山潤という大工が、近くの川に水車小屋を作ろうとしたことだった。


設計を考えながら川面を眺めていると、川底で黄金に光る奇妙な金属を見つけて拾い上げる。


それを村の長老の、山岸舞子のもとへ持っていくと、彼女は真剣な顔でこう告げた。


「これは、絶対に人に見せないでね。村が大変なことになるから」


だが、高山潤は、他の村人が持っている美味い酒と、その黄金を交換してしまったのだ。


黄金を手に入れた村人は町へ行き、いわゆる買取屋へ持ち込んで尋ねた。


「買い取ることはできるかい?」


品物を見た買取屋が驚く。


「金じゃないか! どこで手に入れた?」


村人は何も教えず、手に入れた銅貨をポケットに押し込んで帰って行った。


背後から、買取屋の用心棒が音もなく後をつけていることなど知る由もなく。


しばらくして、政府からの立ち退き通達書を携えた三人の軍人が、村長である山岸舞子の家を訪ねて来た。


「この村を政府の直轄地とする。拒否するなら、軍を派遣して村を潰す」


真っ黒な顔の麗香は話を聞いていたが、最後の「村を潰す」の一言で、一人の軍関係者を殴り倒した。


麗香の怒りは収まらない。


「あっし、強制されるのが嫌いなんだよね。次また来たら、命はねえぞ!! それとも今死にたいか?」


残る二人の軍人が銃を抜くが、麗香の右手から放たれたエネルギーの矢が、軍人の銃を真っ直ぐ突き抜け、暴発したように木っ端微塵になった。


「次に来たら、その銃みたいにバラバラにする。わかったら帰れよ」


「く、黒い化け物だ――!」


悲鳴を残し、軍人たちが馬に乗って逃げていくのを見送る。


「潤ちゃん、誰かに見せちゃったようね」


麗香が振り向くと、ヴィーナスこと山岸舞子が後ろに立っていた。


「かあちゃん、あいつら殺しといたほうがよかった?」


「軍に伝わっちゃったんだもの、村を明け渡すか、戦うしか残ってないわ」


「あんな奴ら、千人来たってぶっ潰せるよ」


ヴィーナスは、呆れたように麗香の顔を見つめた。


「そのガングロ化粧をそろそろやめない? ずいぶん前に古い雑誌を拾って、保管してたかあちゃんも悪いけどさ」


「もう一冊の方にさ、ガングロで目の周り白く塗ってるのあったじゃん。あれかわいいよね。そう思わない?」


「かあちゃんには、邪悪な魔術師みたいに見えるよ」


◇◇◇◇


話し終えた麗香が、干し肉を噛みながら不満げに言う。


「あっしさ、魔術師はないって思うんだよね」


それを聞いたさくらは、必死で笑いを噛み殺していた。


(魔術師とか漆黒の狂戦士って、ど真ん中のたとえだよね。笑っちゃいそう)


笑っちゃいけないと思うほど、顔の筋肉が引きつりそうになる。


「そ、そんなことないよ」


「だよね。魔法少女よりは断然いいじゃん。ねぇ」


麗香の真剣な眼差しに、さくらは笑いを堪えている。


「そうね」


「そろそろ出発しようよ」


麗香が馬に跨がると、遠くを眺める。地平線に、米粒のような黒い何かが見えたのだ。


さくらも馬に跨ったとき、麗香が馬から降りた。


「あっしが村にいないと思って、潰しにやってきたみたい。ウケるよね」


「あれが軍なの? よく見えるね」


「さくら、右に小さな山があるっしょ。その道を通って行けば、ぐるりと回って村につくから。かあちゃんに、今までで一番大きな軍隊が来るから、みんなを避難させるように伝えて」


「麗香さんはどうするの? 一人で戦うの?」


「全員が避難できるまでの時間稼ぎをするよ」


麗香は軍を指さした。


「ここから真っ直ぐに走って行けば、奴らのど真ん中をぶっ潰せるじゃん。戦車だっけ? あれをまずは動けなくして、あとは皆殺しだね」


麗香は人差し指を自分の唇に当ててさくらを振り返った。


「あ、皆殺しはかあちゃんに内緒だよ。怒られるの嫌だから」


満面の笑顔に、さくらは寒いものを感じた。


「わかった、村人を避難するように伝えるよ」


麗香は手綱をさくらへ手渡す。


「撃たれたら可哀想だから、この子も村に連れて帰って。頼んだよ、さくら」


それだけ言い残すと、次の瞬間には、凄まじい速度で前方へと走り出していた。


砂煙を上げるその後ろ姿を、さくらは呆然と見つめる。


「馬より速いかも……」


呆気にとられている場合ではないと、さくらは我に返った。


「ヴィーナスさんに知らせないと。山の裏側を回って行けばいいのよね」


さくらの相棒である赤王が走り出すと、麗香の馬も一緒に駆け出した。


◇◇◇◇


押し寄せる政府軍の装備は、圧倒的だった。


巨大な戦車を筆頭に、機関銃をルーフに装備したジープが四台。高角で砲弾を打ち出す迫撃砲。そして、ライフルを構えた騎馬兵が五十人。


鉄の塊である戦車のハッチから身を乗り出していた見張りが、地平線の彼方に近づいてくる小さな影を発見した。


不審に思って双眼鏡を覗き込み、ピントを合わせる。


砂煙を上げながら爆走してくる麗香の姿だった。


「漆黒の狂戦士が現れたぞ!!」


見張りの悲鳴のような報告に、司令官が無線越しに問いただす。


「距離はどれくらいだ」


戦車の重厚な砲身が、ウィーンという駆動音を立てて麗香を捉えにかかった。


「約四キロです」


「撃て」


放たれた主砲の轟音が大地を震わせたが、見張りが声をあげる。


「いません!」


麗香はすでに斜め後ろへと移動していた。その左手には、エネルギーで形成された巨大な弓が握られている。


慌てて砲身が再び麗香の方へと旋回する。


麗香は挟むのがやっとの、極太のエネルギーの矢を弦に掛けた。


引き絞り、手を離す。


閃光の尾をまとった光が、真っ直ぐ戦車の砲身の中へと飲み込まれていく。


直後、戦車の上部が派手に吹き飛んだ。


「あっし怒ってんだよ。全員ぶち殺す」


騎馬兵からライフルの猛烈な一斉射撃が麗香へ浴びせられた。


ババババンッ!


銃弾が麗香の残像を突き抜けていく。瞬時に横へと移動し、弓を上空に向けた。


「これで終わりだよ。『スターダストのプレゼント』って、ウケるっしょ?」


矢を放とうと弓を引き絞ったその時、上空からバタバタバタバタという凄まじい音が響いてきた。


攻撃ヘリコプターだ。


「トンボのおっきいのが来たよ。ウケる!」


開かれたサイドドアから、重機関銃の銃口が麗香を狙う。


バッバッバッバッバッ!


掃射が砂を跳ね上げた。


「ヤバイじゃん!」


ジグザグに走るが、執拗な銃撃はどこまでも追いかけてくる。


さらにヘリコプターから手榴弾が次々と投下された。


激しい爆風に煽られ、麗香の身体が派手に吹き飛ばされたが、着地と同時に一回転して力を逃がすと、何事もなかったかのように再び走り出す。


ヘリコプターが追いかけるのをやめ、村の方向へと飛んで行った。


「あっしのいない間に、村を襲う気だ。早く戻んないと……!」

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