木山 2
がん鉄と佐々木も病院の中へと入ってきた。それに押されるように、ネプチューンと竜は、ベッドとベッドの間にある通路を後ろへ下がっていく。
「確かにすべての患者を助けられはしない。だが、自分のできるすべてで治療をしている」
佐々木ががん鉄へ、顔を動かさず視線を送る。木山が吐き出すように叩きつけた。
「高額の治療費を巻き上げてるだけだろ!嘘つきめ!」
竜が橘の前に出た。
「あんた、病院に思うところがあるのか?恨んでるとか」
返答の代わりに、木山は竜へ発砲したが、リボンの障壁に跳ね返される。銃弾が天井へめり込んだ。ネプチューンが声を震わせる。
「もうやめてくれ。患者に罪はない。悪いのは私だ」
「がん鉄、佐々木、こいつを反逆罪として捕縛しろ。反抗すれば殺せ」
佐々木がネプチューンに、「顔を見せろ。悪人は顔でわかる」とだけ言った。
ネプチューンが、顔に巻いているターバンを解くと、木山は馬鹿にしたように笑い出した。
「ガハハハハ、俺たちはこんなババアを恐れてたのか」
その時、入口から声が聞こえた。
「すまないが通してくれないか」
声の主は、がん鉄と佐々木の間を抜けて歩いてくる。
「彩……だよね。老けたね」
現れたのはジュピターだった。竜が驚く。
「ジュピターさん!」
ジュピターは状況を見渡した。
「彩、手紙にすぐ来てほしいって書いてたから来たんだけど、これを手伝ってほしいのか?」
木山は思わずジュピターへ銃口を向けた。ジュピターは、竜に叱咤するように言う。
「竜、お前ならこんな奴ら皆殺しにできるだろ、あたしの弟子なんだから」
「え? いつからジュピターさんの弟子ということになったんですか?」
「よっちゃんの弟子は、我々全員の弟子だ」
竜は驚かずただ小さく呟いた。
「再びのパワハラ……」
子供を人質に取っている木山を見て、ジュピターが話しかける。
「お前たち、もういいだろ、おとなしく帰ってくれ。殺したくはない」
「景子、私の目の前では殺さないでくれ」
「彩にこう言われたから、竜は動けないのか」
丁寧な言葉で、佐々木が木山に言う。
「僕は賞金稼ぎであって、卑怯者ではない。患者を人質に取る方の味方はできないです」
ライフルマンも歩み寄り、状況を見てライフルを下ろした。
がん鉄がネプチューンに問いかける。
「あんた、何を奪ってたんだ。薬なのか?」
「そうだ。薬があれば、多くの人が助かる」
「高額の治療費を巻き上げてるってのはホントなのかい?」
寝ている三十代と思しき患者が、自分の枕をがん鉄に投げた。か細い声で怒り出す。
「そんなわけ……ハアハア……ないだろ」
続いたのは、人質となっている少年だ。
「先生は、お金はある時に払ってくれればいいって言うんだ! だから、父ちゃんは先生を手伝ってるんだ!」
がん鉄が木山に詰め寄る。
「おい木山。お前、俺たちに嘘は言わないっていったよな。病院を襲うなんて聞いてないぞ」
「ここには、薬の輸送車を襲う反政府軍が集まっている。嘘は言っていない」
次は佐々木が聞く。
「政府は薬を隠しているのですか」
木山は返事をしない。
しびれを切らしたがん鉄が詰問する。
「首都にあるガバメント病院というところだけで使っているんだな?」
木山は観念したように吐き出した。
「薬には限りがある。みんなに使えばすぐになくなる。だから、ガバメント病院だけで使っているんだ」
佐々木が続ける。
「あの病院、というより首都に誰も入ることができませんよね。あそこにいる政府や貴族って言ってる連中だけのものということですね」
木山がネプチューンを指差し叫ぶ。
「あいつを殺せば俺も使えるようになる。お前たちにも使わせてやる。だから殺せ!」
ライフルマンが、木山の頭部を狙った。
「卑怯なやつに手を貸せない。子供を離せ。そこのババアとお前自身で戦え」
ジュピターこと景子が、後ろにいるライフルマンに振り向いた。
「おいお前、誰がババアだ。わたしらまだ少女気分の百三十七歳だぞ。謝れ」
「百三十七歳……」
「謝れよ」
その凄まじい気迫に、ライフルマンは押された。
「す……まん……」
景子はスッと木山に近づき、左右に差してある右の刀を右手でベルトから鞘ごと瞬時に抜くと、木山が握っている拳銃を下から叩いた。拳銃は宙に飛び、続けて木山の頭をコツンと叩いた。拳銃は、ゴトッという音を立て、床に落ちた。
「事情があるんだろ。お前が病気なのか?」
ライフルマンが答える。
「そいつの妹が病気だ」
「彩に見てもらえばいいじゃないか」
「何件もの病院を回ったんだ。盗賊に妹を治せるわけない! あいつが死ねば妹は助かる」
「彩は思ったことしか口に出せんやつだ。どんな症状なのか言ってみるのも一つの方法だぞ。必要な薬があれば、ガバメント病院から奪ってきてやる」
ライフルマンが木山に持ちかけた。
「金次第じゃ、命をかけてこの病院を守ろう。そうすりゃ、その先生も木山と一緒に妹のところに行って診察してくれるだろ。金は約束の二千万プラスだぞ」
ネプチューンが景子に照れくさそうに話しかける。
「すまない景子、百年以上ぶりなのに、こんなことに巻き込んで。来てくれると思ってなかった」
「来るに決まってるだろ。お互い生きててよかったな。私も病院に残るから心配するな。政府軍が襲ってきても返り討ちにしてやる。後でゆっくり喋ろう」
ネプチューンが木山に声をかける。
「木山、妹を診察に行こう。案内してくれ」
「本当に助けられるのか?薬を持ってこれると言ったな。信用できるのか?」
「先に診察させてくれ。ここにある薬で治療できるかもしれない。なければ、わたしと引き換えに、ガバメント病院から薬を貰えばいい」
「彩……」
「景子なら、奪ってこれるさ。でも、誰も無傷でいられないだろ?」
木山はジュピターにすがるしかなかった。
「妹を診察してくれ」
木山は、ネプチューンこと橘彩と共に、馬で自宅へ向かった。
竜が外で見張りをしていると、がん鉄が両手を上げて竜に近づく。
「あんた、噂通りのいい腕だ。ところで、お嬢ちゃんは一緒じゃないのかい?」
「さくらは別の村にいる」
「どこの村にいるのか知らないが、政府軍が今までない数で何処かへ向かったって話を聞いたぜ」
「それはどこだ」
「そこまではわからないが、木山なら知ってるかもな」




