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カラスは不死鳥のためにうたう  作者: 荒上やぎ
フォマナの視線
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さらば

「基本、この力は使わないようにしてるからな」

「それだけで説明がつくのか?」

「ひとつ訂正をするなら、授けたというより、隠したがただしいかもね」

「隠す?」

 袖の中の腕を振り上げ、イチカワは楽しそうに補足する。

「ぼくもやったことあるけど、精霊のけはいをけしたいときは、ちからを隠すのがいちばん簡単なんだよ」

 隠すといっても、宝石をベッドの下に隠すといった類ではなく、宝石を細かく砕いて砂の中に紛れ込ませる感覚に近い。

「朱翼ちゃんの一部として、せいれいのちからが宿ってるから、せいれいのちからと感知できないんだとおもうよ」

「そうなのか?」

「たぶんね」

 ウイの頭を撫でながら「ウイでも感知できないんだから、不死鳥のちからは朱翼ちゃんのちからといっても、過言ではないとおもうよ」そう付け加えた。

「俺が知る限り、ウイは精霊との繋がりが一番強い繋ぎ人なんだ」

 ウイでも、という言葉に引っかかっている様子のダンデライオンに補足し、ベイリーは続ける。

「力の弱い精霊に力を与えて永らえさせたり、精霊の力を最大限引き出したり、俺やメチコにはできないことを、ウイは幼いころから無意識にできるんだ」

「そのせいで、ヘデラに捕まっちゃったけど……」

 ウイが苦い顔で呟き、ベイリーも頷く。

「目立った動きをすれば、それだけ早く組織に見つかるってことだからな」

「でも晴れて、ウイは自由をえた。赤毛ちゃんと朱翼ちゃんには感謝してもしきれないよ」

 全身で喜びを表すようにイチカワは体を揺らし、軽やかに立ち上がる。その際、ウイの手の中で話を聞いていたチュチューリも飛び上がり、イチカワのポンチョにしがみ付いた。

 イチカワからの素直な謝辞にダンデライオンはさらに後ずさり身震いするが、ベイリーは最後助けてもらったことに深く頭を下げた。

「本当に助かった。あのままだと、ウルガルトを捕まえられなかったかもしれない」

「いいんだよ。そういう約束だしね」

 イチカワは砂埃でくすんだベイリーの赤髪を混ぜるように撫でる。

「で、今後のことだけど、ウイはきみたちに預けるよ」

「ああ」

「まずは安全なきょてんがひつようかとおもって」

 そう言いながら、イチカワは袖の中から封をされた手紙を取り出した。

 それを受け取ったベイリーは無言で説明を促す。

「つぎの滞在先でやくにたつよ」

「次?」

「あれ? ゴーリンから聞かなかった?」

「……リトルフィグのことか?」

「そうそう。あそこはなかなかゆうしゅうな番犬がいるからね。ヘデラもそうそう近づけない。しばらく休むにはちょうどいいよ」

 ローズガーデンを発つ際に、イチカワの協力者とも呼べる商人ゴーリン・ドッタから助言を受けていたことを思い出し、ベイリーはダンデライオンを振り返る。

「どうする?」

「リトルフィグは俺も寄ったことはないが、悪い噂は聞かないな」

「じゃあ、とりあえずそこに行くか」

 ベイリーは、ちょこんと座ったままのウイの視線に合わせて身をかがめる。

「ウイは、それで大丈夫か?」

「うん。でも、お兄ちゃんやダンデライオンさんの邪魔にならない?」

「まさか。ウイは俺の家族だ。それに、ダンデライオンは砂の民で、繋ぎ人を大切に思ってくれてる。ウイを邪魔だなんて思うわけがない」

「そうそう。朱翼ちゃんはそれはもう、信心深ーいぶぞくのひとりだから。邪件にあつかわれることはないよ」

 イチカワからのお墨付きも得て、ウイは伺うようにベイリーの背後に立つダンデライオンを見上げた。強面とはいかないまでも、ウイからすれば険しい顔つきに、体の半身に目立つ刺青を入れている長身の男だ。幼い少女が気安く近づけるタイプの見た目ではない。

 しかしウイはダンデライオンの側に歩み寄ると、しゃがむようにお願いをして、その耳元に何かしらを囁いた。

「おう。ありがとうな」

 なにを耳打ちされたのかは不明だが、ダンデライオンは微笑みウイを抱き上げた。

「わ!」

「しばらくはこの格好で旅することになるから、覚悟しろよ」

「じゃあ、つぎの旅路にでるまえに、メチコに最後のあいさつをするといいよ」

 今後の方針が固まったところで、イチカワは袖を揺らして一行を呼び、厩舎の奥にある個室へ誘導した。

 新しい藁が敷き詰められた部屋に横たわっていたのは、ウルガルトが抜け出し、宿る魂を失ったメチコ・ブーチェの亡骸だった。

 交戦の際の傷や汚れは綺麗に洗い流され、乱れていた髪は美しく整えられ、まるで眠るように瞼を閉じた姿に、ベイリーは静かにイチカワへの感謝を告げる。

「まるで本当に眠ってるみたいだ」

「そうあってほしかったけどね」

 ダンデライオンの腕から降りたウイはメチコの隣に膝を揃えて座り、冷たくなった手にそっと手を重ねた。

 その小さな背中から伝わる深い悲しみに、ベイリーもダンデライオンも、イチカワでさえかける言葉を見つけられない。ただ三者三様に、メチコの冥福を祈るばかりだ。

 やがてウイがふらりと立ち上がると、顔を洗ってくると厩舎の外へ向かおうとしたので、イチカワがそれに同行した。

 残されたベイリーは、ウイと同じようにメチコの傍に座り込む。

「きっと、魂は随分昔に旅立ったんだろうが、体も開放されて、これでようやく、ゆっくりと休めるな」

 メチコの体温で温められ、ほんのりと熱を持つメチコの手の甲を撫で、ベイリーは別れを告げる。

「ウイのことは任せてくれ。きっと守ってみせる」

 そう強く誓い、ベイリーは立ち上がった。

「もういいのか?」

「ああ。ここにいるほど、組織に見つかる可能性も高くなるからな」

 最後にもう一度メチコの姿を目に焼き付け、ベイリーはダンデライオンと連れ立って厩舎の外へ出た。すると、思いがけない人影が二人を出迎えた。

「おや。厩舎を貸し切ってる人がいると聞いて来てみれば、お二方でしたか」

 黒髪にタオルを巻き、砂除けの布で顔の半分を覆っているが、その隙間から見える明るい金色の瞳にベイリーはあっと声を上げる。

「ローズガーデンの厩舎にいた」

 ベイリーが慌てて厩舎の壁を確認すると、青年の作業服に刺繍されたものとおなじ、馬をシンボルとした紋章が掲げられていた。駄獣や輓獣といった使役動物を貸し出す厩舎運営ギルド「ミェール」の紋章に違いなかった。

一口解説:繋ぎ人の力の差

繋ぎ人の中にも力の差や得意不得意があり、

ベイリーは精霊から力を借りたり、どう動いてほしいか伝える瞬発力に長け、

ウイは精霊との共鳴度がずば抜けて高い。

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