医里渇探流
「———白兎の首を刎ねなさい!!」
「そっ、そんな!!女王様———」
スパン。
トランプ兵が持って来た大きな剪定鋏で、白兎の首は刎ねられた。
ゴロゴロ、と、白兎の首が転がる。
その瞳は、恨めしげに渇探流のことを、睨みつけていた。
「さあ、白兎の首は刎ねたわよ!次はお前たちの番だわ!!」
「だから、裁判には証人と証拠と弁護人が必要だと言ってるだろうが!!こんな裁判のさの字もない、体裁しか繕ってない場で———誰が殺されてやるものか!!」
「うるさいうるさいうるさいうるさい!!まずは一番うるさい、お前の首から刎ねてやるわ!!」
「———ならば、俺がお前を裁いてやろう。ハートの女王」
渇探流は被告人席から飛び出して———裁判官席に座る、ハートの女王へと近づいて行った。
もちろん、それをトランプ兵が阻んでくる。しかし、渇探流は———こう言った。
「お前たちは『トランプ兵』じゃない。ただの『トランプ』だ」
———そう言った瞬間、渇探流は血を吐き、トランプ兵たちは、ただのトランプへと成り果てた。
「ちょっ、ちょっとあんた!!被告人がここに来ていいはずが———」
「貸せ」
渇探流は、ハートの女王が持っていたハンマーを、奪い取った。
カンカン、と、渇探流はハンマーを打ち鳴らす。
「被告人、ハートの女王、お前は罪のない白兎を不当に殺害し———更に、三人もの殺害をも企てた。その罪は———死刑に値する」
首を、刎ねろ。
渇探流がそう言うと———女王の、首が『刎ねられた』。
「ぐっ……」
渇探流は、全身を走る激痛に、思わずその場で膝をつく。
「渇探流君!!」
「渇探流はん!!」
二人の護衛が渇探流へと近づいてきて———その間に、マッドハッターが突然、『出現』した。
「やあ、アリス。裁判官の座を乗っ取るとは、恐れ入ったねぇ」
「……?」
「君こそアリスに相応しい。僕と面白おかしく、この世界でティーパーティーをしよう!!」
「……なに、を……?」
「この世界は慣れれば楽しいよ!だいぶ『侵食』も進んでいるみたいだし———このまま、この世界の住人になった方が、君のためさ!!」
「ふざけるな!!」
ウィルフレッドが激昂し、マッドハッターへと蹴りかかる———が、その足は、マッドハッターの小指一本で、受け止められた。
「無粋な護衛だね?こんな護衛———いらないよね?」
「……ま、て……マッド……ハッ……ター……俺は……アリスなんかじゃ……ない……」
「僕がアリスだと言ったらアリスなんだよ———ねぇ?アリス」
「……ぅあ……」
渇探流は、脳みそがかき混ぜられるような感覚に、フラフラと身体を揺らした。
役割が———押し付けられる。
アリス。
それは、ワンダーランドの、『核』だ。
渇探流の身体が、脳が、役割に犯される。
「———あんさんは、医里渇探流や!!しっかりせえ!!」
「———……あっ……?」
「貴方は、医里渇探流です。私の愛しい人。アリスなんて———貴方に相応しくない」
「……ぁ……う……」
「思い出せ!!医里渇探流!!」
「貴方は私の希望です。医里渇探流———」
「せやで!あんさんの本名は……カトゥール・ウェンライトなんやろ!?」
「……カトゥール……ウェン、ライト……」
渇探流のかき混ぜられた脳みそが———熱を持つ。
「そうだ———俺は、カトゥール・ウェンライト———弱冠二十歳で境界現象研究大学の教授に上り詰めた、稀代の秀才———医里渇探流、だ……!!」
「———ありゃりゃ。残念」
マッドハッターは軽く肩をすくめると———その場から、消えた。
「渇探流君!!」
「渇探流はん!!」
ウィルフレッドと黄船が駆け寄る中———渇探流は、薄れゆく意識を、なんとか引き留めていた。
ぺたりと座った床に、寝そべってしまいたい。しかし、寝そべってしまったら最後、起き上がれる気がしない。
まだ、現実へ帰る手段が、見つかっていないのだ。
「渇探流君———寝ましょう」
「……はっ?」
「これは、全て夢です。夢なんですから、寝て———起きたら、覚めます」
「……なんやその、超理論……」
「……うぃ、る……」
「おやすみなさい、渇探流君」
最後に見たウィルフレッドの顔は———穏やかだった。
そして、暗転。
次に目を覚ました時———そこは、東京の雑踏の中だった。
「……あっ……?」
渇探流がそう、言葉を発した瞬間———全身から大量の血が噴き出て、渇探流はその場に、倒れ伏した。
「———ほら、こっちの世界にいた方が、よかっただろう?」
マッドハッターの声が、頭に響いた。




