ガバ裁判にもほどがある
「マッドハッター、帰り方を教えてくれ」
「ここは不思議の国さ!ハンプティ・ダンプティの双子は美味しいよ!!」
「……教えてくれ」
「ハハッ。ハートの女王に謁見すればいいよ!!首を刎ねられるけどね!!」
「……やっぱ、そこになるよなぁ……」
そう渇探流が言った瞬間、ゴロゴロ、と、何かが迫ってくる音がした。
———まるで、何か巨大なものが『転がってくる』ような音。
その音を聞いたとたん、マッドハッターのその顔から、笑みが一瞬だけ消えた。
「大変だ大変だ!!ピンクのキノコを探さなきゃ!!」
「いや絶対お前逃げたいだけだろ!?なんだ!?なんなんだアレは!?」
渇探流がそう言ってマッドハッターを見た瞬間、彼はパッ、と、手品のように『消えた』。
「逃げやがった……!!」
「あきまへん渇探流はん、こっち来ますで!!」
「私たちも逃げましょう!!渇探流君!!」
「言われんでも!!」
渇探流たちはゴロゴロと転がってくる何かから、直角の位置へと走り出した。
そのまま渇探流たちのことを通り過ぎてくれれば安全圏———というところまで走っていき、後ろを振り返ると。
見事にその何かは物理法則を無視して直角に曲がり込み、渇探流たちを追いかけて来た。
「そんな気はしたんだこのやろおおおおお!!」
「なんなんやねんもおおおおおお!!」
「走りますよ渇探流君!!」
三人はジグザグに逃げてみたり、狭い方面へ走り込んでみたりしたが、その何かは全てを薙ぎ倒して渇探流たちへと迫ってくる。
『絶対に轢いてやる』という気概が感じられる転がり方であった。
「ちょっ……まて……俺はそこまで……体力はないんだ……!!」
「渇探流はん頑張ってもろて!!」
「お姫様抱っこしましょうか!?」
「今考えるから……ちょっと待て……!!」
転がる……丸い……さっきのマッドハッターの言葉……ハンプティ・ダンプティは美味しい———そうか!!
「いや……違う……あの転がって来てる物体は……『ハンプティ・ダンプティ』だ……!!」
「「えっ!?」」
「ハンプティ・ダンプティ!!塀から落っこちろ!!」
渇探流がそう叫んだ途端———転がっている何かの下から巨大な塀が盛り上がり———その塀から、何かは落っこちた。
———グシャ。
「……これは……」
「巨大な……卵、ですか……?」
「ぜひ……つっ、疲れた……やはり……不思議の国モチーフだと……強く影響が出るな……」
「渇探流はん、コイツの正体、知っとったんどすか?」
「いや、知らん。たぶん……最初は、ハンプティ・ダンプティですら……なかった……だから……定義付け……してやっただけだ……学者の本分だからな」
「ええ……そないなこともありですのん……?」
「流石です、渇探流君」
———しかし、マッドハッターが言うには、この行為には代償を払っているらしい。あまり、この超理論は使いたくない。
「遅刻遅刻〜!!君たち遅刻だよ!!女王様が怒ってるよ!!」
「出たなクソ兎!!出口へ案内しろやごら!!」
「案内するのは裁判所だよ!!」
「純粋になんでだ!?」
そう渇探流が叫んだ時には———世界は、様相を変えていた。
「被告人———医里渇探流は、救えなかった罪」
「……はっ?」
「被告人———士道ウィルフレッドは、守れなかった罪」
「…………………」
「被告人———賀茂黄船は、金の罪」
「うちだけ雑とちゃいます!?」
「よって———被告人三名は、全員予定通り、首を刎ねる!!」
「ガバ裁判にもほどがあるだろ!!」
渇探流は、裁判官席に座っているハートの女王に向かって、指を突きつけた。
小太りのハートの女王は、その行為に吊り上がった眉を、更に吊り上げる。
「私の決定が全て正しいのよ!!皆のもの!!このものたちの首を———」
「こんな証人も証拠も皆無な裁判があってたまるか!!確かに俺は救えなかった———」
渇探流は、金髪の少女の笑顔を、思い出した。
「———だが、それを『お前』に裁かれるいわれはない!!俺は、俺のやったことの罪は自分で償う!!勝手に罪状を決め付けて勝手に裁くんじゃねぇ!!ハートの女王、俺は、俺たちはここの国民じゃない!!だからお前の判決に、従う義理はない!!」
「この世界に存在しているだけで、ここの国民だわ!!」
「こちとら誘拐されたんじゃそこの白兎に!!俺たちを裁く前にまずそこの白兎から誘拐罪で首跳ねろ!!」
「……おわあ……渇探流はんと、口喧嘩はしとうありまへんなあ……」
黄船の横で、ウィルフレッドは無言で首を縦に振っていた。




