マッドハッターが一番まともだった
渇探流が考え込んでいると———巨大芋虫が煙を吐きかけてきた。
「マッドハッターのところへ行きな。狂ってるけど、あいつは真実を話すから」
「ゲホッ、えっ!?ちょっ、あんたは———」
煙に包まれた渇探流達は———そのまま、消えた。
残されたのは、巨大な芋虫のみ。
「今度のお客様は———生きて帰れるかねえ。さて、私もそろそろかな」
プカプカとキセルを吸って、吐いて———そのまま、頭上から巨大な石が落ちてきた芋虫は、プチリと潰されて———死んだ。
「今度はどこに行くんだああああああ!!」
「あきまへんで渇探流はん!!不用意に言葉話すと何が起こるか———ああ、もどかしい!!」
「………………………」
三人は三者三様の反応で、『空』から『地面』へと落下していった。
叫ぶ渇探流に叫ぶ黄船、落ちているというのに黙り込んだままのウィルフレッド。
グングンと近づく地面。このまま落下死かと思った時———渇探流が、口を開いた。
「地面は、巨大なクッションになる!!」
———その言葉が落ちた瞬間、地面が一瞬『揺らいだ』。
次の瞬間、ボフン、と音がして、地面があった場所全てが———巨大なクッションで埋め尽くされた。
「ナイスやで渇探流はん!!」
「流石渇探流君です」
ボスッボスッ、と、クッションの上に落下して、怪我もなく三人は着地をすることができた。
クッションは、妙に柔らかく———どこか、生き物のように沈み込んだ。
「……よし、『意味』の使い方が、わかって来たぞ」
「使い方さえわかってまえば、便利ですなあ」
「……渇探流君、代償などは……」
「この世界に、『代償』はない」
渇探流は言い切ってから、クッションの海をウゴウゴと動いて、移動した。
———下手に代償の心配なんぞして、発動されたら困る。
そんな渇探流の意思を汲んだのか、二人もとりあえず無言で、渇探流へついてくる。
クッションの海から外に出てみると———
「太陽は青いものだろう?時間は止まってるし、白兎は相変わらず愛を求めてさまよっている!」
「……これは……強烈な……」
クッションの海を抜けたその先———日当たりのいい外で一人、ティーパーティーを開いている『マッドハッター』が、紅茶をダバダバとこぼしながら、独り言を大声で言っていた。
「ハートの女王の言うことなんて聞かなくていいし、ネズミは空を飛ぶ。水はお湯だしお湯は氷だ」
「……これに、どんな話を聞けと……?」
渇探流は独り言を言い続ける帽子屋に途方に暮れたが、その帽子屋がいきなり、ぐるりと渇探流の方を見た。
「異世界からのお客様か!!そんなところに突っ立ってないで座りたまえ!!紅茶に塩は入れるかい?」
「ええ……砂糖でお願いしたい……」
「君は変わってるね!!」
そう言いながら、帽子屋は紅茶に山盛りの砂糖を投入した。もう紅茶に砂糖というか、砂糖の山に紅茶をかけました、というような状態だ。
渇探流と黄船たちはとりあえず薦められるがまま、席へとついた。
目の前に紅茶風味の砂糖を置かれ、手が彷徨う。
「ええと、マッドハッター?この世界から、俺たちは帰りたいんだが……」
「帰れるよ!手順を踏めばね!!」
「どんな手順なんだ?」
「眠り鼠は女の子の服を齧るのが趣味なんだ!」
「………………」
「渇探流はん、頑張ってもろて」
「脅しましょうか?」
「ウィルフレッドはとりあえず座っててくれ。この手のタイプに脅しは効かない」
「みんなみんな頭が悪い!!世界の真理はすぐそばにあるし、代償もあるし、ハートの女王は癇癪持ちだ!!」
「……ちょっと待ってくれ、代償があるのか?」
「あるよ?この世界そのものが代償さ!!君たちがここにいる限りね!!」
「……おいおい……代償は『ない』と宣言したばかりだぞ?」
マッドハッターは、ニヤリと笑った。
「解釈なんて千差万別!意味を定義するなんてナンセンスさ!!」
「頭が痛くなってきた……」
「ちょっとまちぃ、それって、既に……」
「言うな黄船、何が起こるかわからん。というか……待てよ……代償がこの世界そのものということは……使う度に代償は『発生していた』のか……?」
———その瞬間、胸の奥の『引っかかり』が、僅かに疼いた。
「さあね、そう『解釈』するなら、そうなんじゃないかい?でも、払ってないつもりでいるのって、一番面白いよね!!」
マッドハッターは、笑いながら紅茶を入れている。
「…………………」
ウィルフレッドはただ一人、渇探流だけをじっと、見つめていた。
———その視線は、まるで『答えを知っている』かのようだった。




